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第21話 お風呂とご馳走
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「彼女はアポートと呼ばれる、物体を瞬時に取り寄せる瞬間移動系の能力使いです」
「瞬間移動系? ……それがなんで爆発なんてするの?」
自分の血でドロドロになった体を洗い流し、一息ついた私は、大露天風呂につかりながら菜々ちんに尋ねた。
ボロボロに破壊された部屋の片付けは中居さん達に任せて、私と菜々ちんは体の埃を落とすべくお風呂にやって来たのだ。
「空気を広範囲に取り込んで狭範囲に転移させるのですよ。そうすると圧縮された空気が一気に膨らんで爆発するようです」
「……で? なんで私がそんな物騒な能力者に襲われなければならないの……?」
「彼女は自尊心の強い人ですから……宝塚さんの評判が気に入らなかったんじゃないでしょうかねぇ?」
おっとりと答える菜々ちん。
「気に入らなかったって……え? 私、殺されかけたんですけど??」
「でも死なないんでしょう?」
「いや、向こうは殺す気で来てたってこと!!」
「……まぁ、たぶんそこまで本気じゃ無かったと思いますよ? 宝塚さんの能力を知っていたみたいですし、多少荒っぽく挨拶しても平気だと考えたんでしょう」
で、爆発ってどうなんよ??
「そもそも私の評判ってなに!? 私なにも知らないんですけど??」
すると菜々ちんは困った顔で腕組みをする。
「う~~ん、ま、評判っていうか……所長がね、宝塚さんの事を『逸材』だって一言褒めただけなんですけどね」
「それだけ? ……それだけで殺されかけたの!??」
「百恵さんにとっては一大事だったんでしょう。なにせ彼女、所長のこと大好きですから。健気な少女の嫉妬ってところでしょうか?」
うふふ、と笑う菜々ちん。
あんなオジさんに少女が恋をしているとか非現実は一旦置いといて……。
「いや、可愛くない可愛くない!? そんなヤキモチ一つでいちいち部屋爆発させられたら身が持たんよ!???」
「宝塚さんも、慣れたら事前に来るタイミングが分かるようになりますよ」
「来るタイミング??」
「ええ、所長からファントム結界って聞いたと思うんですけど……」
そう言って菜々ちんは湯船に指をちょんとつける。
すると波紋が出来上がり、わわわと私の体に重なってくる。
「こんな感じで、能力を使おうとすると結界の破片が波紋となって周囲に広がるんです。初めはなかなか感じることが出来ない微妙な気配ですか、慣れてくると無意識に感じることが出来るようになります。
これをマスターすれば彼女がいくら狙ってきても事前に逃げる事が出来ますよ」
そういえば爆発が起こる寸前なにかパリッと刺激が走った気がする、菜々ちんはその事を言っているのだろうか?
「でも、あんな爆発から逃げるっていっても……」
「直撃さえしなければファントム結界で防御出来ますよ? もっともこれにも訓練が必要ですけれど」
なるほど、菜々ちんが無事だったのはそういうわけか。
「まあ、それでも百恵さんが本気できたら防ぎようはありませんが、彼女もそこまで非常識な事はしないでしょう」
いやいや、部屋ぶっとばした時点で十分非常識だし、私が不死身じゃなければ完全アウトな事件だったんですけど……?
新しく用意された『大猪の間』に入り、私は畳に寝転んだ。
服は爆発で破れてしまったので今は浴衣姿である。
リュックに着替えのスウェットも入っていたのだが、旅館部屋に馴染むのはやっぱり浴衣である。
菜々ちんとは風呂を上がるとまた明日と別れてしまった。
明日はいよいよ訓練の開始日でもあり、今日はもうゆっくり休んでくれとの事だった。
食事に関しては訓練生はみんな専用の食堂で食べるのだが、今日は一般客扱いとして部屋に用意してくれるらしい。
ちなみに一般客とは文字通り一般の客で、なんとこの施設、繁忙期には普通の旅館として客を取っているらしい。
もちろんその時は看板を取り替えて別の名前にしているらしいが……なんでもそれもカモフラージュの一つだとか、なんとも呆れた話である。
しばらくすると料理を持って、さっきの仲居さんが入ってきた。
「先程は誠に申し訳ありませんでした。新しいお部屋の心地は如何でしょうか?」
と、丁寧に挨拶してくれる。
「あ、いやいや、仲居さんのせいではありませんから。ちょっと……いやかなりビックリはしましたけれど。そ、それよりもその……」
「はい?」
「わ、私のこと変な人間と思いました?」
私はうつむきつつ、バツが悪そうに頬をかき訊いた。
自分の不死身能力を見られたのだ、普通の人ならば気味悪がって当然である。
「いいえ?」
しかし仲居さんはあっさりとそれを否定してくれた。
「宝塚様のことは大西所長から聞いておりましたし、それにこの施設の職員はみな少なからず超能力者ですから多少の事では驚いたりしませんよ」
「え!? ってことは仲居さんもJPAの一員さんなんですか? ……もしかして私の先輩!??」
ぎょっとして仲居さんをみると、彼女は困り笑いしながら手を振りそれを否定する。
「いやですわ、私なんかがJPAなんてとんでもありません。その下の組織の者ですわ」
「下の組織?」
「ええ、JPAの下部組織としてJPASというものがありまして、そこは私のような力の弱い能力者を管理する組織なんです。
日本の超能力者の殆どがこのJPASに属しておりまして、上位組織のJPAに入れるのは全体の1%程くらいしかいませんのよ?」
「え? ……じゃあ私、その1%に入ってるってことですか?」
「ええ、その通りです。なかなかいませんのよ、最初からJPAに入れる人なんて」
マジか……じゃあ私けっこうエリート??
高額の給付金も少し納得が出来るかもしれない。
それから少し雑談をし、仲居さんは料理を置いて出て行ってしまった。
彼女は瀬戸さんといって、主に百恵さん(ちゃん)のお世話担当らしいが、私でも用があればいつでも声を掛けていいそうだ。
ちなみに彼女の能力は『透視』らしい。
ただ、力が弱く、トランプ程度しか透かせないらしいが。
いや、それでもすごくないか!?
外国のカジノにでも行ってボロ儲け出来るのでは!?
そう思ったが、彼女曰く少しなら儲けられるが、あまり目立つと危険が増えて割に合わないのだそうな。
そんなもんなのだろうか?
もんなのだろうな。
所長といい、片桐さんといい、百恵さんといい、超能力者といわれる者たちの異常性はもう十分に理解した。
その中で目立ってしまうという事がいかに危険かなんて私でもわかる。
穏便に生きたければ明日から大人しくしていたほうが良さそうだな。
緑茶をすすりながらそう誓った。
いや、今日も十分大人しくしてたけどね!??
勝手に喧嘩売ってきたの向こうだしねっ!!
所長のいらん一言のせいだからねっ!!!!
そうぼやきながら、用意された豪華海鮮会席に舌鼓を打ちまくるのだった。
「瞬間移動系? ……それがなんで爆発なんてするの?」
自分の血でドロドロになった体を洗い流し、一息ついた私は、大露天風呂につかりながら菜々ちんに尋ねた。
ボロボロに破壊された部屋の片付けは中居さん達に任せて、私と菜々ちんは体の埃を落とすべくお風呂にやって来たのだ。
「空気を広範囲に取り込んで狭範囲に転移させるのですよ。そうすると圧縮された空気が一気に膨らんで爆発するようです」
「……で? なんで私がそんな物騒な能力者に襲われなければならないの……?」
「彼女は自尊心の強い人ですから……宝塚さんの評判が気に入らなかったんじゃないでしょうかねぇ?」
おっとりと答える菜々ちん。
「気に入らなかったって……え? 私、殺されかけたんですけど??」
「でも死なないんでしょう?」
「いや、向こうは殺す気で来てたってこと!!」
「……まぁ、たぶんそこまで本気じゃ無かったと思いますよ? 宝塚さんの能力を知っていたみたいですし、多少荒っぽく挨拶しても平気だと考えたんでしょう」
で、爆発ってどうなんよ??
「そもそも私の評判ってなに!? 私なにも知らないんですけど??」
すると菜々ちんは困った顔で腕組みをする。
「う~~ん、ま、評判っていうか……所長がね、宝塚さんの事を『逸材』だって一言褒めただけなんですけどね」
「それだけ? ……それだけで殺されかけたの!??」
「百恵さんにとっては一大事だったんでしょう。なにせ彼女、所長のこと大好きですから。健気な少女の嫉妬ってところでしょうか?」
うふふ、と笑う菜々ちん。
あんなオジさんに少女が恋をしているとか非現実は一旦置いといて……。
「いや、可愛くない可愛くない!? そんなヤキモチ一つでいちいち部屋爆発させられたら身が持たんよ!???」
「宝塚さんも、慣れたら事前に来るタイミングが分かるようになりますよ」
「来るタイミング??」
「ええ、所長からファントム結界って聞いたと思うんですけど……」
そう言って菜々ちんは湯船に指をちょんとつける。
すると波紋が出来上がり、わわわと私の体に重なってくる。
「こんな感じで、能力を使おうとすると結界の破片が波紋となって周囲に広がるんです。初めはなかなか感じることが出来ない微妙な気配ですか、慣れてくると無意識に感じることが出来るようになります。
これをマスターすれば彼女がいくら狙ってきても事前に逃げる事が出来ますよ」
そういえば爆発が起こる寸前なにかパリッと刺激が走った気がする、菜々ちんはその事を言っているのだろうか?
「でも、あんな爆発から逃げるっていっても……」
「直撃さえしなければファントム結界で防御出来ますよ? もっともこれにも訓練が必要ですけれど」
なるほど、菜々ちんが無事だったのはそういうわけか。
「まあ、それでも百恵さんが本気できたら防ぎようはありませんが、彼女もそこまで非常識な事はしないでしょう」
いやいや、部屋ぶっとばした時点で十分非常識だし、私が不死身じゃなければ完全アウトな事件だったんですけど……?
新しく用意された『大猪の間』に入り、私は畳に寝転んだ。
服は爆発で破れてしまったので今は浴衣姿である。
リュックに着替えのスウェットも入っていたのだが、旅館部屋に馴染むのはやっぱり浴衣である。
菜々ちんとは風呂を上がるとまた明日と別れてしまった。
明日はいよいよ訓練の開始日でもあり、今日はもうゆっくり休んでくれとの事だった。
食事に関しては訓練生はみんな専用の食堂で食べるのだが、今日は一般客扱いとして部屋に用意してくれるらしい。
ちなみに一般客とは文字通り一般の客で、なんとこの施設、繁忙期には普通の旅館として客を取っているらしい。
もちろんその時は看板を取り替えて別の名前にしているらしいが……なんでもそれもカモフラージュの一つだとか、なんとも呆れた話である。
しばらくすると料理を持って、さっきの仲居さんが入ってきた。
「先程は誠に申し訳ありませんでした。新しいお部屋の心地は如何でしょうか?」
と、丁寧に挨拶してくれる。
「あ、いやいや、仲居さんのせいではありませんから。ちょっと……いやかなりビックリはしましたけれど。そ、それよりもその……」
「はい?」
「わ、私のこと変な人間と思いました?」
私はうつむきつつ、バツが悪そうに頬をかき訊いた。
自分の不死身能力を見られたのだ、普通の人ならば気味悪がって当然である。
「いいえ?」
しかし仲居さんはあっさりとそれを否定してくれた。
「宝塚様のことは大西所長から聞いておりましたし、それにこの施設の職員はみな少なからず超能力者ですから多少の事では驚いたりしませんよ」
「え!? ってことは仲居さんもJPAの一員さんなんですか? ……もしかして私の先輩!??」
ぎょっとして仲居さんをみると、彼女は困り笑いしながら手を振りそれを否定する。
「いやですわ、私なんかがJPAなんてとんでもありません。その下の組織の者ですわ」
「下の組織?」
「ええ、JPAの下部組織としてJPASというものがありまして、そこは私のような力の弱い能力者を管理する組織なんです。
日本の超能力者の殆どがこのJPASに属しておりまして、上位組織のJPAに入れるのは全体の1%程くらいしかいませんのよ?」
「え? ……じゃあ私、その1%に入ってるってことですか?」
「ええ、その通りです。なかなかいませんのよ、最初からJPAに入れる人なんて」
マジか……じゃあ私けっこうエリート??
高額の給付金も少し納得が出来るかもしれない。
それから少し雑談をし、仲居さんは料理を置いて出て行ってしまった。
彼女は瀬戸さんといって、主に百恵さん(ちゃん)のお世話担当らしいが、私でも用があればいつでも声を掛けていいそうだ。
ちなみに彼女の能力は『透視』らしい。
ただ、力が弱く、トランプ程度しか透かせないらしいが。
いや、それでもすごくないか!?
外国のカジノにでも行ってボロ儲け出来るのでは!?
そう思ったが、彼女曰く少しなら儲けられるが、あまり目立つと危険が増えて割に合わないのだそうな。
そんなもんなのだろうか?
もんなのだろうな。
所長といい、片桐さんといい、百恵さんといい、超能力者といわれる者たちの異常性はもう十分に理解した。
その中で目立ってしまうという事がいかに危険かなんて私でもわかる。
穏便に生きたければ明日から大人しくしていたほうが良さそうだな。
緑茶をすすりながらそう誓った。
いや、今日も十分大人しくしてたけどね!??
勝手に喧嘩売ってきたの向こうだしねっ!!
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