超能力者の私生活

盛り塩

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第20話 刺客

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「うふふふふふふふふふ」
 菜々ちんがコロコロと笑う。

「あ、いえごめんなさい。なんだか宝塚さんの反応が面白くって」
「だってそうでしょ、これから住む自分の部屋をハリボテ呼ばわりされたんだから」
「そうねそうね、ごめんごめんごめんなさい」

 手をパタパタと。

「ハリボテっていうか……う~~んまぁ、中核施設のダミーっていうのかな?
 ともかく外敵の目から少しでも逃れるための隠れミノ的な?」
「昇格してないし」
「じゃあ防御壁?」
「物騒になったし」
「盾?」
「身も蓋もなし」
「カモフラージュ?」
「いまいち」
「影武者?」
「いや、なんか違うくない? それって」
 
 だんだんズレてくるし、どうでもよくなってきた。

「って、それよりも外敵ってなんなの?? わざわざ隠れなきゃいけないほどの敵って??」
「まぁ、主にマスコミ関係かな? あと、勘のいい下っ端警官とかその他ですね」
「あ……そ、そうなんだ」

 あからさまにがっくり来る私に、その心情を読んだ菜々ちんがニヤける。

「もしかして、アニメに出てくるような物騒な敵勢力みたいなの想像してました?」
「図星である」

 あ、声に出てしまった。

「あ、ははははははは。うんうん、わかるわかる。だよね、そう思うよね? 私もそうだったもん。
 超能力とか、選ばれた者とか言って連れて来られて、片桐さんみたいなとんでもない人の能力見せられて……組織のやり方も見せられて。
 すっかり現実感失っちゃって、つい自分がアニメの魔法少女になったみたいに色んなこと想像しちゃったりして」

 ……いや、私はそこまででは無かったが?

「だからね。私もいつかJPAの名を背負って戦う戦士になるものだと思っていたりしてね、でも……」

 そこで菜々ちんの表情がふっと暗くなる。

「蓋を開けたら、来る日も来る日も事務作業ですよ。それもほとんど仲間たちが犯した犯罪や騒動の誤魔化し工作。
 そもそもJPAって組織自体がもうほとんどヤクザって言うか全然正義の味方じゃないんですよね……」

 うん、それは知ってる。所長と片桐さんから痛いほど教わったよ。

「だからね、宝塚さんもあんまりいい期待はしないほうがいいですよ?
 超能力者組織って言っても全然かっこいい仕事とか何もないですからね」

 うん、たしか説明会の時も所長が言ってたな、真面目に働いてるヤツは少ないとかなんとか。

 ――――パリッ。

「んっ?」

 などと話していると突然、体に刺激が走った。
 なんだろうと首を傾げると、同時に菜々ちんの顔から血の気が引いた。

「――危ない宝塚さん逃げてっ!!」

 飛び退く彼女。
 私はわけがわからず、ポカン顔。
 そこへ――――、
 
 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!

 部屋の全てを吹き飛ばす爆発が起こった。



 
 キーーーーンという耳鳴りとともに、飛んでいた意識も帰ってくる。

「あいったたた……いったいなにが……???」

 体の上に乗っかっている建材や家具を押しのけ、私は身を起こす。
 べちょりとした感覚に手を見ると真っ赤に染まっていた。

「だ、だ、大丈夫ですか宝塚――――さん?」

 菜々ちんが私を見て目を丸くしている。
 どうやらまた痩せ変身してしまっているようである。
 ということはそれなりの怪我をして回復したと言うことだ。

 綺麗だった部屋はまるで爆弾でも落ちたかのように無残に破壊されている。

「あ……うん私だけど……えっとこれはね」
 体の事情を説明しようとすると彼女は首を振る。

「ううん大丈夫、所長から話は聞いてるから。それよりも平気?」
「あ~~うん、平気。私、不死身だからね。……それよりも一体なにが起こったの?」

 すると菜々ちんは困ったように視線を後ろに向けた。
 そこには鬼の形相をした仲居さんに取り押さえられている、一人の少女がいた。

「ぐ……ぐぐぐ……し、失敗した」

 見た目は十歳程度の小学生風で黒髪のツインテール。顔には黒いマスクをしていて大きな目には不健康そうなクマが浮き出ている……なんだか特徴的な顔つきである。

「失敗したじゃないでしょ百恵様っ!! 一歩間違えたら大惨事ですよ!? 死人が出てたらどうするおつもりだったんですか!?」

 仲居さんがモモエと呼んだ少女に怒鳴っている。

「……死んだのか?」
「……いえ、みなさん無事のようです」
「ちっ、お前が邪魔しなければ直撃を食らわせてやったものを」

 そして私を睨むパンダ娘。
 彼女は中居さんに押しつぶされながら私に宣言してきた。

「……お前だな? 所長がお気に入りの次期エースとやらは?
 吾輩はこの訓練校・現エースの七瀬 百恵というものだ!!」
「は、はぁ……え??」
「不死身の能力か何だか知らないが、吾輩の破壊能力とどっちが上か勝負しようじゃないか!!」

 そして手をかざし、気合を放つ彼女。
 またパリっと刺激が走った。
 あ、これ結界が反応しているんだっけ? 
 だったら何かの超能力が来てるってこと??
 そう理解し、身構えると同時に――――、

『やめんかぁーーーーーーっ!!!!』
 菜々ちんと仲居さん、二人の怒号が同時に響いた。

「ぐえっ!??」
 中居さんの方は全力で彼女の首を締め上げていた。

「……む……無念……ぐふ」

 そして百恵とやらは酸欠で気を失ってしまう。
 それを冷淡に確認した仲居さんは、私達に向かって一つ頭を下げ、

「……失礼いたしました。替えの部屋はすぐにご用意いたしますので」
 言って、その物騒な少女を抱えて出ていってしまった。

「な、な、な、な、な、なんだったの今のは!????」

 私は呆然として菜々ちんに尋ねると、彼女は困った顔で、

「あの子は七瀬百恵……この学校一の古参生徒で、自称エースを名乗る天才エスパーにして、大の問題児なのですよ……」

 と、額を押さえて教えてくれた。
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