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第18話 ほうとう鍋と再開
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そして一週間後――――。
私は山梨県の河口湖駅に立っていた。
今日がESP・PK取り扱い特別訓練学校とやらの入学日だからだ。
入学といっても普通の学校みたいに入学式があるわけじゃない。
入学するタイミングはみんなバラバラで、個別入学・個別卒業らしいから、まぁ自動車学校みたいなものだろう。
わたしゃ行ったことないが。
約束だと今日の午後一時頃にここに迎えが来ると聞いていたけど、時計はまだ十二時を少し回ったくらいだ。
「……と、なると」
私は駅前に連なる飲食店を見回し、舌舐めずりをする。
一通り見回し『名物 ほうとう』と書かれた木の看板をロックオンすると、さっそく突撃する事にした。
店に入りお座敷の隅に案内されると、お品書きを見る前にまずは一品注文する。
「ほうとう一つ! お願いします!!」
そして愛想よく去っていく店員さんを見送り、ようやくメニューを確認する。
ぬおおぉ~~幸せだ~~。
こうやって、お金の心配など何もせず、自由に食べたいものを物色する。
これ以上に幸せなことって他にあるだろうか?
いや、無いっ!!
月に100万円の不労収入。
そんな現代社会におけるチートとも言える今の状況に、いまだ実感もなく、財布の紐を緩めるのに躊躇する私であるが、しかし、こと食べ物となれば話は別である!!
食えるときに食う! 据え膳食わねばおデブの恥!!
生きてく上での大原則に従い、私はためらわず注文を重ねる。
「あ、すいませ~~ん。この麦とろごはんと、いなり寿司、馬刺しに大ざるそば、あともつ煮と漬物盛り合わせをそれぞれ三人前、追加でお願いします!!」
一瞬、顎が外れたように固まった店員さんであったが、私の体型を見て納得したか笑顔で会釈してくれる。
やがて所狭しと並べられた料理に私は大満足。まずはなにはともあれと、ほうとうに箸をのばした。
「うんまぁ~~い……」
ほうとう麺の独特のモツモツ感。白菜とかぼちゃを主体とした野菜の甘味が白味噌のお出汁と合わさり、とっても濃厚でやさしい風味に仕上がって体を芯から温めてくれる。
ついこの間までの貧乏生活では、こんな贅沢なご馳走、夢でも見るのを許されなかった。私も出世したもんだ、うるうる。
「この麦とろごはんと馬刺しも最高~~~~!!」
我を忘れ、一心不乱にお皿を片付けていく。
それからしばらく、三杯目のほうとうに食らいついたところで、不意に声がかかった。
「あ~~いた!! やっと見つけたましたよう……」
座敷の側に立ち、ジト目で私を見つめるその娘は説明会で会った菜々ちんだった。
相変わらずのセーラー服姿と地味な三編み丸メガネ。
目立つ事この上ない。
「あ、ほんにひふぁ。おふぃふぁふぃふりふぇひゅじゅりゅりゅぅ」
(あ、こんにちは。おひさしぶりですジュルルルル)
「あ~~……えっと、はい、おひさしぶりです」
おお、通じた。
「駅にいなかったから……電話かけたんですけど?」
どうやら迎えに来てくれていたらしい。
「むぉ!?」
リスのようなほっぺで携帯をまさぐり時刻を確認する。
なるほどすっかり時間は過ぎていたし、不在着信の表示もしっかり出ていた。
「む……むぐむぐ……んぐ……ご、ごめんなさい、な、なんだかその食べるのに夢中になってしまってンガグッグッ!!」
飲み込み、慌てて謝罪する。
でも菜々ちんはにっこり笑って、
「まあ、合流出来たのでいいですけどね。美味しいでしょ? ここのほうとう。
私もね、ここに来たときこの店で食べたんです。
初めて食べるほうとうだったから特別美味しく感じたんですよ」
そう言って許してくれた。
「このあいだベヒモスに襲われたんでしょ? 所長から聞きましたよ。大変だったんですって?」
タクシーに乗って施設への道すがら、菜々ちんが聞いてきた。
これからしばらくは菜々ちんが私の案内係をしてくれる。
訓練学校では私より先輩だが、歳は私と同い年らしいし、気が楽だった。
「……うん。まぁねぇ~~」
その時のスプラッタな光景を思い出して気分が悪くなる。
「片桐さん、過激だからなぁ~~。
私が一緒だったらもっと穏便に処理するんですけどね」
その処理と言うモノがどういうものか気になるが、おそらく知らぬが仏、私は興味の無いふりをする。
「まぁでも、それは必要事項だったから仕方ないんだけど、その後の無駄な殺しはどうかと思うんですよね。とっさに文句言って止めさせたけど、後処理班の苦労も考えてほしいものですよ」
キュキュッキュッ!!
タクシーのハンドルがブレてタイヤを鳴らした。
ミラー越しに運転手を見ると脂汗を流しながらこちらを見ている。
会話の内容から、とんでもない客を乗せてしまったとでも思っているのだろう。
はい、当たりです。
「所長ってね、あんな飄々とした感じですけど、けっこう精神的に壊れてるって言うか……ソシオパスなところあるから困ったものでしてね、まぁ能力を考えたらむしろ気が狂わなかったのが凄いって組織では評価されてるんですけどね……」
所長の言葉を思い出す。
『抵抗力の弱い相手だと、言葉だけじゃなく無意識な思考や記憶まで受信することが出来る』
「人の潜在意識なんてさ、みんな汚いものでしょ? それを覗いちゃうってけっこう辛いことだと思うんです。今でこそキチンと使いこなせるようになって意識で遮断出来るようになったらしいんですけど。……若い頃は年がら年中、人の本音を聞かされて生活していたらしいので……多分地獄だったんじゃないでしょうか?」
「確かに……それは人間不信になるかもしれない……」
「厄介なのは、それが『不信』じゃなくて事実による『確信』ってところですね。
あの人は確信を持って人を断罪しています。だから周囲もあんまり強くは咎められなくって……。私も……自分に後始末が回って来さえしなければ、所長が何人殺そうが文句を言うつもりは無いんですけどね」
キュキュッキュッ!!
もう一度タクシーは揺れて、タイヤを鳴らした。
おいおい頼むからもうちょっと場を考えて発言してくれ(汗)
私は山梨県の河口湖駅に立っていた。
今日がESP・PK取り扱い特別訓練学校とやらの入学日だからだ。
入学といっても普通の学校みたいに入学式があるわけじゃない。
入学するタイミングはみんなバラバラで、個別入学・個別卒業らしいから、まぁ自動車学校みたいなものだろう。
わたしゃ行ったことないが。
約束だと今日の午後一時頃にここに迎えが来ると聞いていたけど、時計はまだ十二時を少し回ったくらいだ。
「……と、なると」
私は駅前に連なる飲食店を見回し、舌舐めずりをする。
一通り見回し『名物 ほうとう』と書かれた木の看板をロックオンすると、さっそく突撃する事にした。
店に入りお座敷の隅に案内されると、お品書きを見る前にまずは一品注文する。
「ほうとう一つ! お願いします!!」
そして愛想よく去っていく店員さんを見送り、ようやくメニューを確認する。
ぬおおぉ~~幸せだ~~。
こうやって、お金の心配など何もせず、自由に食べたいものを物色する。
これ以上に幸せなことって他にあるだろうか?
いや、無いっ!!
月に100万円の不労収入。
そんな現代社会におけるチートとも言える今の状況に、いまだ実感もなく、財布の紐を緩めるのに躊躇する私であるが、しかし、こと食べ物となれば話は別である!!
食えるときに食う! 据え膳食わねばおデブの恥!!
生きてく上での大原則に従い、私はためらわず注文を重ねる。
「あ、すいませ~~ん。この麦とろごはんと、いなり寿司、馬刺しに大ざるそば、あともつ煮と漬物盛り合わせをそれぞれ三人前、追加でお願いします!!」
一瞬、顎が外れたように固まった店員さんであったが、私の体型を見て納得したか笑顔で会釈してくれる。
やがて所狭しと並べられた料理に私は大満足。まずはなにはともあれと、ほうとうに箸をのばした。
「うんまぁ~~い……」
ほうとう麺の独特のモツモツ感。白菜とかぼちゃを主体とした野菜の甘味が白味噌のお出汁と合わさり、とっても濃厚でやさしい風味に仕上がって体を芯から温めてくれる。
ついこの間までの貧乏生活では、こんな贅沢なご馳走、夢でも見るのを許されなかった。私も出世したもんだ、うるうる。
「この麦とろごはんと馬刺しも最高~~~~!!」
我を忘れ、一心不乱にお皿を片付けていく。
それからしばらく、三杯目のほうとうに食らいついたところで、不意に声がかかった。
「あ~~いた!! やっと見つけたましたよう……」
座敷の側に立ち、ジト目で私を見つめるその娘は説明会で会った菜々ちんだった。
相変わらずのセーラー服姿と地味な三編み丸メガネ。
目立つ事この上ない。
「あ、ほんにひふぁ。おふぃふぁふぃふりふぇひゅじゅりゅりゅぅ」
(あ、こんにちは。おひさしぶりですジュルルルル)
「あ~~……えっと、はい、おひさしぶりです」
おお、通じた。
「駅にいなかったから……電話かけたんですけど?」
どうやら迎えに来てくれていたらしい。
「むぉ!?」
リスのようなほっぺで携帯をまさぐり時刻を確認する。
なるほどすっかり時間は過ぎていたし、不在着信の表示もしっかり出ていた。
「む……むぐむぐ……んぐ……ご、ごめんなさい、な、なんだかその食べるのに夢中になってしまってンガグッグッ!!」
飲み込み、慌てて謝罪する。
でも菜々ちんはにっこり笑って、
「まあ、合流出来たのでいいですけどね。美味しいでしょ? ここのほうとう。
私もね、ここに来たときこの店で食べたんです。
初めて食べるほうとうだったから特別美味しく感じたんですよ」
そう言って許してくれた。
「このあいだベヒモスに襲われたんでしょ? 所長から聞きましたよ。大変だったんですって?」
タクシーに乗って施設への道すがら、菜々ちんが聞いてきた。
これからしばらくは菜々ちんが私の案内係をしてくれる。
訓練学校では私より先輩だが、歳は私と同い年らしいし、気が楽だった。
「……うん。まぁねぇ~~」
その時のスプラッタな光景を思い出して気分が悪くなる。
「片桐さん、過激だからなぁ~~。
私が一緒だったらもっと穏便に処理するんですけどね」
その処理と言うモノがどういうものか気になるが、おそらく知らぬが仏、私は興味の無いふりをする。
「まぁでも、それは必要事項だったから仕方ないんだけど、その後の無駄な殺しはどうかと思うんですよね。とっさに文句言って止めさせたけど、後処理班の苦労も考えてほしいものですよ」
キュキュッキュッ!!
タクシーのハンドルがブレてタイヤを鳴らした。
ミラー越しに運転手を見ると脂汗を流しながらこちらを見ている。
会話の内容から、とんでもない客を乗せてしまったとでも思っているのだろう。
はい、当たりです。
「所長ってね、あんな飄々とした感じですけど、けっこう精神的に壊れてるって言うか……ソシオパスなところあるから困ったものでしてね、まぁ能力を考えたらむしろ気が狂わなかったのが凄いって組織では評価されてるんですけどね……」
所長の言葉を思い出す。
『抵抗力の弱い相手だと、言葉だけじゃなく無意識な思考や記憶まで受信することが出来る』
「人の潜在意識なんてさ、みんな汚いものでしょ? それを覗いちゃうってけっこう辛いことだと思うんです。今でこそキチンと使いこなせるようになって意識で遮断出来るようになったらしいんですけど。……若い頃は年がら年中、人の本音を聞かされて生活していたらしいので……多分地獄だったんじゃないでしょうか?」
「確かに……それは人間不信になるかもしれない……」
「厄介なのは、それが『不信』じゃなくて事実による『確信』ってところですね。
あの人は確信を持って人を断罪しています。だから周囲もあんまり強くは咎められなくって……。私も……自分に後始末が回って来さえしなければ、所長が何人殺そうが文句を言うつもりは無いんですけどね」
キュキュッキュッ!!
もう一度タクシーは揺れて、タイヤを鳴らした。
おいおい頼むからもうちょっと場を考えて発言してくれ(汗)
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