超能力者の私生活

盛り塩

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第17話 価値観

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「あらら、彼女には子供が三人いるようだね。とても幸せそうな家族のように見えるね。一見ね。
 でも、三人の子供全てが旦那さんとの子供じゃあないみたいだよ?
 もちろん旦那はその事は知らない。三人とも自分の子だと信じて、せっせと生活費を稼がせられているご様子だ。
 あっはっは、しかもだよ? 三人ともそれぞれ別の相手の子みたいじゃないか。そして今また四人目を別の男と製作中らしいね~~。
 怖いねぇ、あんな綺麗で涼し気な表情しながらねぇ。 やれやれ、女性不審になっちゃいそうだよ僕は」
「あんなのを基準に女性を判断しないで」

 片桐さんがつまらなそうに文句を言う。
 同時に、その悪女が倒れるのが見えた。

「次は、あの若い男を覗いてみようか?
 ……彼は中学校で先生をやっているのかぁ。
 でも学生時代はイジメの常習犯だったみたいだね。小学校の頃からイジメを続けていて、今まで七人の同級生を登校拒否に追いやっているね。そのうち自殺者が二人、精神疾患を背負って今なお社会復帰出来ない者が三人いるね。
 ああなんだ、父親が元教師で今は教育委員会の役職。祖父が市議会議員だってさ。
 そりゃあイジメ程度ならどうとでも誤魔化せただろうね(笑)
 そしてそのご本人も父と祖父の威光で出世街道を約束されて来年の春にはいよいよ結婚――――て、おいおい、まだ途中だよぅ?」

 所長の話しが終わる前に倒れてしまう若い男。
 片桐さんは無言でそれを見つめている。
 と、所長の懐から携帯の着信音が鳴った。

「おっと、ごめんよ電話だ。おんやぁ? 菜々くんからだねぇ」
 説明会で握手した眼鏡の美少女だ。

「ああ僕だよ、どうだいそちらの仕事は順調に――――っておいおい、なんだねいきなり? うん? ああ、いやちょっと宝塚くんの教育……というか意識の共有を図ろうかと思ってね。いや、そうだけどさぁ~~。え? そんなつもりじゃないって、わかったよわかったから……ごめんよ了解。はいはいじゃあね。もう切るよ? あ、お仕事頑張ってくれたまえよ~~」
 電話を切ると所長はややバツの悪そうな顔で、

「……遊び半分に死体を増やしてくれるなって。後始末する自分の苦労も考えてほしいだってさ」
 と、片桐さんに言った。

「相変わらずの千里眼ね。
 でも、綺麗に殺しといたから三人とも脳卒中で片付けられるはずよ?」
「それキミの口から言っといてくれない?」

 だるそうに空を眺めて煙をくゆらす。

「ま、ともかくさ。僕が言いたかったのは人間なんてみんなさ、殺されても文句の言えないようなクソったればかりだってことだよ。
 キミもさっき経験しただろう?
 キミが殺されそうになっているにもかかわらず、誰も助けようとしないで撮影に没頭していたじゃないか? 一般人なんてね、みんなその程度の身勝手な連中さ」
「う……ま、まぁ……」

 たしかにあれはひどいと思ったし、頭にもきた。

「そんな連中の価値なんてさ、わざわざ僕たちが考えてやる必要なんてないんだよ。
 もちろん必要以上に殺そうともしないが、少しでも必要を感じたら躊躇いなく排除するよ。それこそ虫や雑草を駆除するように、ね。
 キミよいずれはそういう判断が出来るようになってくるさ、もっと世間を知ってくればね
「………………」

 なんというか……言葉が出てこなかった。
 それは所長に対する怒りでも呆れでも恐怖でも無く、単純に価値観の違いによる戸惑い。そしてその言い分の半分以上を理解してしまった自分への沈黙だった。

 タバコをもみ消し、席に戻ってくる所長。
 エンジンをかけ、車を走らせる。

「まあ、まあ、まあ。とにもかくにも宝塚ちゃんが気に病むことは何もないよ?
 ぜ~~んぶこのおじさんのせいにしてくれていいんだからね。なにせキミは被害者なんだから、災難だったよね~~?」

 もの凄く大雑把な言葉だが、精神ケアのつもりなんだろうか?
 その笑顔だけ見ていると、すごくいい人のように見えてしまう。
 実際、仲間に対しては善人なのだろう。
 しかし、それ以外の存在には冷淡で残忍なこの人を、はたしてどこまで信用していいのか私は判断がつかないでいた。

 さっきの騒動で気付いた奇妙な点を聞いてみた。

「そ……そう言えば、なんかおかしかったんですよね……。
 運転手のお爺さんが……なにかこう……異常な状態だったっていうか……人間離れした様子だったんですよ」
「ああ、ベヒモスね。最近多いのよ。先日あなたを襲った通り魔もそう、ちょうど私達が追っかけていて良かったわ」

 片桐さんが答えてくれた。

「べひもす?」

 また出た新たな単語に眉をひそめる。

「ええ、詳しい事は訓練所で教わると思うけど、あれはファントムが暴走した超能力者の成れの果てなの。
 ファントムに乗っ取られると宿主は自我を失い、狂ったように暴れまわるのよ。
 ……ああなるともう殺すしか止める手段が無いわ」

 え?え?え?え?

「あの……ファントムって?? あのおじいさんが超能力者??」
「ああ、ごめんなさい……そうね能力の源となる存在と解釈してくれればいいわ。
 暴走者については……また訓練所で勉強してちょうだい」
「それが……暴走するんですか?」

 汗をダラダラ流しながら恐る恐る尋ねる。

「あれぇ? このあいだ言わなかったっけ? たまにね、暴走するんだよ僕たちの能力ってさ(笑)」

 と、テキトーな口調で答える所長。

「聞いてねぇッス!?」

「そっかぁ、言わなかったかぁ、暴走するんだよ?」
「だよ? って!! そこものすごく重要じゃないですか!!」
「うん、そうだねぇ。
 でもほら説明するまえに訓練学校への入学決めてくれたしさ、忘れてたわ。あははははははははは。……ねぇ片桐くん?」

 片桐さんを見ると、彼女は無心に外の景色を楽しんでいた。

「まぁ、そうならないように訓練するのも来週からキミが行くことになる訓練学校の役目だから、まぁキッチリ授業を受けて立派な能力者になってくれたまえよ」
「………………」

 さっきとは違う意味で、所長に対する信用が大きく揺らいだ。




 そのままアパートまで送ってもらった私は体を拭き、銭湯へと走った。
 全身を洗いまくって汚れと匂いを消し、気が付いた頃には空腹で死にそうだった。

 ヨレヨレで帰り、どんぶり飯に食らいつく。
 一個30円の特売コロッケをおかずにおかわりをしつつ、テレビをつける。
 ニュース番組でさっそく今日の事件をやっていた。
 だがしかし、と言うかやっぱりと言うか……。

 事件の内容は、大規模な車の暴走事故として改ざん報道されていた。
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