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第15話 血だらけの商店街
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「お、おい、あんた……大丈夫か!??」
シーツをくれた店員さんが老人に駆け寄る。
私は嫌な予感がして、彼を止めようとしたが間に合わず、
「――――う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
叫び声が響いた。
老人が店員の首筋に噛み付いたのだ!!
いや、噛み付いたなんて生易しいものじゃない、食い千切ったと言ったほうがいいだろう。
動脈から吹き出た血が辺りを染めた。
私も含め、周りの野次馬たちもその光景を唖然と見つめていた。
「うぁ……ぁがぁ……」
ショックと酸欠で急激に意識を失って倒れる店員さん。
それを合図に悲鳴を上げる一人の女性。
辺りは一気に騒然となり、野次馬たちはみな一斉にスマホの動画を作動し始める。
私は反射的にそのフレームから外れようと場を離れようとするが、しかし老人に目を付けられて足を掴まれてしまう。
「ぎゃあっ!!??」
とても老人とは思えない握力と、その狂った表情の不気味さに思わず悲鳴を上げてしまう。
おまけにシーツの下は丸裸状態だという乙女の羞恥心もあった。
――――充血した目をテレコに動かし涎を垂らしながら、下半身をはだけさせた美少女に襲い掛かる老人。出すとこに出せば売れる動画だぞコレ!??
などと場違いな思考をしたのは私一人じゃなかったみたいだ。
手練の素人動画職人たちが一斉に私を撮り始める。
止めろ止めろ!! 気持ちは分かるが落ち着けぃっ!!!!
赤面し股間を押さえ暴れる私。
いかん、これじゃあ連中の思うつぼじゃないか!???
おいそこっ!! 撮ってないで助けんかいっ!!!!
目でそう訴えたが、周囲の連中はみな動画を撮るに夢中で私を助けるどころか、その鬼気迫った表情をアップで撮り始める。SNS記事のネタとしか思っていない様子である。
ぼたぼたぼた……。
頬に涎が垂らされた。
「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
老人は私に覆いかぶさりそして――――
がりっ!!!!
首筋に食らいついてきた!!
「痛ったっ!!!!」
ぐぐぐぐ……。
歯が肉に食い込む。
――――ぶしっ!!!!
裂かれた血管から血が吹き出る!!
私は全力で老人の頭を掴み、引き剥がそうとするが力が物凄い。
微動だにしない老人への抵抗を諦めた私は、
「――――だ、誰かぁ……!! た、救け……て」
と再び周囲に救けを求める。
だが、周囲の反応は相変わらず。
ただただスマホを構えて、この凄惨な場面を記録するのに没頭している。
一人の少女の命より、一つの認証の方が大事だとでも言うように。
ぶしゃぁっ!!!!
とうとう肉が食い千切られ、鮮血が吹き上がった!!
「ああっ!!」
短い悲鳴を上げてしまう。
しかし、ここからが私と一般人の違うところ。
噴き出していた血はすぐにおさまり、断面が丸見えだった首筋の傷もみるみる塞がっていく。
「ん? なんだ??」
そんな私の体を見て、数人の野次馬たちが疑問の声を上げた。
――――だ、だめだ、見られてる、撮られてる!!
やばい、このままじゃ私の異常性が世間に拡散されてしまう!!
『臆病な多くの無能者が、その数の暴力で有能者を潰す』
説明会で聞いた言葉を思い出す。
まずいまずいまずい!!
こんな大勢の人に正体を見られちゃ、さすがに誤魔化しきれない。
とっさに傷口を隠そうとするが、老人の怪力に押されてうまく動けない。
「あーーもう、くそっ!! 離れろぉっ!!!!」
――――――ごきっ!!
私はキレて、全力のパンチを老人に食らわせる!!
と――――、
バチバチバチバチバチッ!!!!
いきなりの雷撃が私の拳を襲った。
「いでででででっ!!!!」
何ごと!? と思ったが、この痛みには覚えがあった。
説明会のとき、所長が能力証明の代償として私に食らわせたあのショックと同じ。
え~~となんだっけ……『ファントム結界』だっけか? の反応だ!!
でもそれがなんで今起こったのかはわからない。
「う……うぅ??」
すると突然、老人から力が消えて倒れ込んでくる。
「ぎゃっ!?」
また噛みつかれるかと思い、とっさに引き剥がすが、
「……あれ?」
老人の様子がさっきまでと違うことに気付く。
目はうつろだが充血は治まり、焦点も落ち着いている。
垂れ流しだった涎も止まって、呼吸も穏やかに静かに眠っていた。
さっきまでの狂った様子が嘘のように正常に戻っている。
え……と、どうしたんだろ、突然??
訳がわからず放心していると、
「あ~~はいはい。そこまでだなぁ」
と、聞いたことのある声が聞こえた。
同時に、
ぼひゅっ!!
と、音がして老人の頭が無くなる。
ブッシャ~~~~~~~~――――。
蓋の無くなった首の断面から、噴水のごとく血が噴き出した。
見たことがあるその光景に、私は声の主へと視線を流す。
そこにいたのはやはり大西所長。
気だるそうにヨレヨレのネクタイを揺らしながら、頭を掻きつつ、こちらに歩いて来ていた。
「ええそうよ、蒲田の商店街『ラ・マンチャ』の前よ。
ええ、何? 来れないですって? ああ……そう、ならしょうがないわね」
不機嫌そうに電話をかけている片桐さんもいた。
「所長、菜々は別件で忙しいみたいよ? 他のスタッフも都合付かないみたいね」
「あ、そっかぁ……。ん~~、んまぁ急な事だったし……しかたないかなぁ?」
そう言って所長はため息を一つ、
「じゃ、悪いけど片桐くんやっちゃってくれる? 後始末は僕が手配しとくからさ」
言われた片桐さんは軽く頷くと、無表情のまま腕で空を切った。
ばひゅっ!! ボヒュッ!! ばしゅっ!! フシュッ!!
空気が縮むような音が周囲に連続して響く、
『ぎゃっ!!』『ぶっ!!』『ゴワッ!!』『ぐぅっ!!』
短い悲鳴も同時に上がる。
遠巻きに私を撮影していた連中の何人かが、血を噴き出しながら崩れ落ちている。
その体に幾つもの穴を開けながら。
再び片桐さんの腕が動く。
また例の音が鳴って、別の何人かが血まみれになって倒れる。
そしてまた腕を振る――――、
それからしばらくの間、片桐さんによる一般人虐殺の狂宴は続いたのだった。
シーツをくれた店員さんが老人に駆け寄る。
私は嫌な予感がして、彼を止めようとしたが間に合わず、
「――――う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
叫び声が響いた。
老人が店員の首筋に噛み付いたのだ!!
いや、噛み付いたなんて生易しいものじゃない、食い千切ったと言ったほうがいいだろう。
動脈から吹き出た血が辺りを染めた。
私も含め、周りの野次馬たちもその光景を唖然と見つめていた。
「うぁ……ぁがぁ……」
ショックと酸欠で急激に意識を失って倒れる店員さん。
それを合図に悲鳴を上げる一人の女性。
辺りは一気に騒然となり、野次馬たちはみな一斉にスマホの動画を作動し始める。
私は反射的にそのフレームから外れようと場を離れようとするが、しかし老人に目を付けられて足を掴まれてしまう。
「ぎゃあっ!!??」
とても老人とは思えない握力と、その狂った表情の不気味さに思わず悲鳴を上げてしまう。
おまけにシーツの下は丸裸状態だという乙女の羞恥心もあった。
――――充血した目をテレコに動かし涎を垂らしながら、下半身をはだけさせた美少女に襲い掛かる老人。出すとこに出せば売れる動画だぞコレ!??
などと場違いな思考をしたのは私一人じゃなかったみたいだ。
手練の素人動画職人たちが一斉に私を撮り始める。
止めろ止めろ!! 気持ちは分かるが落ち着けぃっ!!!!
赤面し股間を押さえ暴れる私。
いかん、これじゃあ連中の思うつぼじゃないか!???
おいそこっ!! 撮ってないで助けんかいっ!!!!
目でそう訴えたが、周囲の連中はみな動画を撮るに夢中で私を助けるどころか、その鬼気迫った表情をアップで撮り始める。SNS記事のネタとしか思っていない様子である。
ぼたぼたぼた……。
頬に涎が垂らされた。
「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
老人は私に覆いかぶさりそして――――
がりっ!!!!
首筋に食らいついてきた!!
「痛ったっ!!!!」
ぐぐぐぐ……。
歯が肉に食い込む。
――――ぶしっ!!!!
裂かれた血管から血が吹き出る!!
私は全力で老人の頭を掴み、引き剥がそうとするが力が物凄い。
微動だにしない老人への抵抗を諦めた私は、
「――――だ、誰かぁ……!! た、救け……て」
と再び周囲に救けを求める。
だが、周囲の反応は相変わらず。
ただただスマホを構えて、この凄惨な場面を記録するのに没頭している。
一人の少女の命より、一つの認証の方が大事だとでも言うように。
ぶしゃぁっ!!!!
とうとう肉が食い千切られ、鮮血が吹き上がった!!
「ああっ!!」
短い悲鳴を上げてしまう。
しかし、ここからが私と一般人の違うところ。
噴き出していた血はすぐにおさまり、断面が丸見えだった首筋の傷もみるみる塞がっていく。
「ん? なんだ??」
そんな私の体を見て、数人の野次馬たちが疑問の声を上げた。
――――だ、だめだ、見られてる、撮られてる!!
やばい、このままじゃ私の異常性が世間に拡散されてしまう!!
『臆病な多くの無能者が、その数の暴力で有能者を潰す』
説明会で聞いた言葉を思い出す。
まずいまずいまずい!!
こんな大勢の人に正体を見られちゃ、さすがに誤魔化しきれない。
とっさに傷口を隠そうとするが、老人の怪力に押されてうまく動けない。
「あーーもう、くそっ!! 離れろぉっ!!!!」
――――――ごきっ!!
私はキレて、全力のパンチを老人に食らわせる!!
と――――、
バチバチバチバチバチッ!!!!
いきなりの雷撃が私の拳を襲った。
「いでででででっ!!!!」
何ごと!? と思ったが、この痛みには覚えがあった。
説明会のとき、所長が能力証明の代償として私に食らわせたあのショックと同じ。
え~~となんだっけ……『ファントム結界』だっけか? の反応だ!!
でもそれがなんで今起こったのかはわからない。
「う……うぅ??」
すると突然、老人から力が消えて倒れ込んでくる。
「ぎゃっ!?」
また噛みつかれるかと思い、とっさに引き剥がすが、
「……あれ?」
老人の様子がさっきまでと違うことに気付く。
目はうつろだが充血は治まり、焦点も落ち着いている。
垂れ流しだった涎も止まって、呼吸も穏やかに静かに眠っていた。
さっきまでの狂った様子が嘘のように正常に戻っている。
え……と、どうしたんだろ、突然??
訳がわからず放心していると、
「あ~~はいはい。そこまでだなぁ」
と、聞いたことのある声が聞こえた。
同時に、
ぼひゅっ!!
と、音がして老人の頭が無くなる。
ブッシャ~~~~~~~~――――。
蓋の無くなった首の断面から、噴水のごとく血が噴き出した。
見たことがあるその光景に、私は声の主へと視線を流す。
そこにいたのはやはり大西所長。
気だるそうにヨレヨレのネクタイを揺らしながら、頭を掻きつつ、こちらに歩いて来ていた。
「ええそうよ、蒲田の商店街『ラ・マンチャ』の前よ。
ええ、何? 来れないですって? ああ……そう、ならしょうがないわね」
不機嫌そうに電話をかけている片桐さんもいた。
「所長、菜々は別件で忙しいみたいよ? 他のスタッフも都合付かないみたいね」
「あ、そっかぁ……。ん~~、んまぁ急な事だったし……しかたないかなぁ?」
そう言って所長はため息を一つ、
「じゃ、悪いけど片桐くんやっちゃってくれる? 後始末は僕が手配しとくからさ」
言われた片桐さんは軽く頷くと、無表情のまま腕で空を切った。
ばひゅっ!! ボヒュッ!! ばしゅっ!! フシュッ!!
空気が縮むような音が周囲に連続して響く、
『ぎゃっ!!』『ぶっ!!』『ゴワッ!!』『ぐぅっ!!』
短い悲鳴も同時に上がる。
遠巻きに私を撮影していた連中の何人かが、血を噴き出しながら崩れ落ちている。
その体に幾つもの穴を開けながら。
再び片桐さんの腕が動く。
また例の音が鳴って、別の何人かが血まみれになって倒れる。
そしてまた腕を振る――――、
それからしばらくの間、片桐さんによる一般人虐殺の狂宴は続いたのだった。
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