超能力者の私生活

盛り塩

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第12話 入学説明会⑦

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「そうかい? 入ってくれるかい!? いやぁ、うれしいよありがとうっ!! キミみたいな強力な能力者はなかなか出て来てくれないからねっ!!」

 話に流されてつい頷いてしまった私の手を掴み、所長は大袈裟に喜んでいる。

 …………しまった……。

 そんな風に思いっきり喜ばれると、何だか詐欺にでも引っかかった気がして、途端に後悔の感情が湧き上がってくる。
 いくら私に危害を加えないとはいえ『人間を排除』とかそんな単語を平気で使う組織に入るなど、やはり躊躇いは隠せない。
 そんな私に所長から衝撃的な情報が聞かされる。

「じゃあ早速だけど、入会金として500万円払わせてもらうよ」
「は?」
「ん? 入会金だよ、入会金」

 途端に、頬が怒りで引きつり赤くなる。

 あ~~なるほど、やっぱりだ!!

 うまいこと言って組織に引き込み会員にさせ、後から何だかんだ言って金をむしり取る。典型的な悪徳詐欺宗教のやり口だ!!
 ちょっと話に乗ってやったら、さっそく本性を出してきやがったなこのやろう。
 危うく丸め込まれるところだったが、そうはいかない。
 私は言うことは言う女である!!

「あ、そういうことでしたら私、断らせて頂きます!!」

 こういうのは最初が肝心!!
 最初の一歩!! ここをはっきり断れるかどうかで勝負は決まるのだ。
 私は毅然とした態度でキッパリと言ってやった。

「お金ならありませんからっ!! そういうお話ならば全て断らせ……て?」
「ん、どうしたのかな?」

 席を立とうとする私の目の前に、札束が積まれた。
 帯付きの一万円札がひいふうみい……いつちゅ。

「なんだいらないのぉ~~? 
 せっかく用意したのになぁ入会金、500万。……残念だなぁ」

 そう言って残念そうに札束をしまおうとする所長の手を、

「といっ!!!!」

 私のチョップが黙らせた。

「あいたたたたっ!!」
「――――詳しく……!!」

 そして札束を抱え込む私。
 我ながら浅ましいと思うが、常日頃からエンゲル係数との死闘に疲れ切っている少女アルバイターにこんな大金を見せといて冷静になれと言う方が無茶である。

「詳しくもなにも……だからさ、入会金さ。まぁ契約金みたいなものだね」
「も、も、も、も、も、」
「も?」
「も、もらえるんですか!?」

 血走る目で聞き返す私に所長は苦笑いで、

「ああ、もちろん。どうぞ受け取ってくれたまえ。
 あと正式にJPAの一員となったらがあるからね」

 さらにとんでもないことを言ってきた。

「ひゃ、100万円!???」
「ああ、そうだよ。これはあくまで配給金だから、交換条件とか労働の義務とかは一切ない。ただ会員であればそれだけで支払われるお金だよ?」

 私は呆気にとられ言葉を失う。
 なんだそれ!?
 そんなパラダイスな話しあるわけがないっ!!

「ははは。まぁキミの反応はもっともだと思うよ。みんな最初はそんな顔をする。菜々くんや片桐くんもそうだったよね?」
「え、と……まあ……はい」
「失礼ね。わたしはそんな間の抜けた顔はしてなかったわよ」

 片桐さんが呆れたように私を見る。
 所長は私の方に手を置くと、

「これは類まれない希少な能力を持つキミに対する正当な報酬だ。
 キミはこれからの人生、少なくともJPA会員でいてくれている限りは食いっぱぐれる心配は無くなったというわけだね。おめでとう」

 と、私に勝ち組宣言をしてくれた。




 それから一通りの説明を受けた。

 それによると、どうやら私は二週間後、訓練施設とやらに送られるらしい。
 そしてそこで数年(期間は個人の能力によってバラツキがある)ほどの訓練をし、それが終了したら晴れてJPAの一員になれるという。

 そしてその肝心のJPAだが、本当にただの超能力者同士の寄り合い組織らしく、第一目的はあくまで能力者の生活と安全を守ることで、その理念を中心にさまざまな活動がなされているらしい。
 具体的な活動内容などは訓練所で説明されるらしいが、まず何よりも本人の意志と事情を尊重してくれるらしく、特に何もしたくない者にはなんの義務も課されない。
 実際、ほとんどの会員が幽霊会員で、何もせず毎月100万の配給金を受け取っているらしい。

 とても魅力的で夢のような待遇なのだが……、

「そんな組織なんて……どうやって維持しているんですか?」
 まだ疑いが拭いきれない私は少し突っ込んだ質問をしてみる。

「税金と寄付だね」
 だが、所長は事も無げにあっさりと答えた。

 なんでもJPAの組織の権力は凄まじいらしく、そのくらいの資金は一声でいくらでも集まってくるらしい。
 ぬぬぬ……それって893的なアレなのか??
 かえって疑いは濃くなってしまった。

「……まぁ、その辺りの詳しい事情も、我々と一緒にいれば分かるようになるよ」

 胡散臭いことこの上ないが……500万円は惜しい……。
 それに私がこのまま生活していてもいずれこの人達の言う『多数派』の一般人によって迫害される未来が来るかも知れないことは否定出来ない。
 それを考えると、今は何も考えず、同胞だろうこの人達について行こうと私は覚悟を決めた。




「では、予定より少し早いけども……。
 これにて入学説明会を終了させてもらうよ? 何か質問はあるかい?」

 ざっと二時間程度の説明を終え、所長がそう宣言した。
 時間はちょうどお昼を少し回ったくらい。

「莫大にあります」

 素直に答える私。
 当然だ、まだまだ聞きたいことは死ぬほどある。

「まぁそうだろうね(笑)
 でも、それはまた訓練学校で教官や仲間と情報を交換して少しずつ知ってくれればいいと思うよ。あまり一気に詰め込んでもね、頭から煙が見えてるよ?」
「そうだよ、とにかく二週間後。入学したらよろしくね」

 と菜々ちんが私の手を握って笑ってくれる。

 菜々ちんは私より半年先輩の訓練生で、訓練所での案内役になってくれるらしい。
 彼女はあの通り魔事件の日から所長の命令で私をずっと観察し、能力の具合を測っていたそうなのだ。
 そしてその報告書を元に訓練生としての資格ありと判断され、ここに招かれたというわけらしい。
 やはりバイト先で見たのは菜々ちんだったのだ。
 だとしたらずいぶん下手な尾行じゃないかね?
 と言いたくなるが、余計なことは言わないでいた。

 私は菜々ちんと二週間後の再開を誓いビルを後にした。

 お弁当を持って帰ってくれと言われたのでありがたく頂戴した。
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