超能力者の私生活

盛り塩

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第10話 入学説明会⑤

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「ふ~~む……」
 しばらく恍惚な表情を浮かべて天井を仰ぐ所長。

「……すばらしい……」
 小声でささやくように感嘆の声を呟く。
 なんなのだ? 一体??

「ぐ……ぐぐ……」

 床に転がっていた私はヨロヨロと起き上がり、椅子の背もたれに引っかかる。
 まだ体が痺れているようである。

「だ、大丈夫ですか? 初めては痛いんですよねこれって……」

 菜々ちんが私の背をさすり、誤解を招くような事を言う。
 ばかやろう。これじゃあ私がおっさんに初めてを捧げたみたいじゃないか。

「おっと、ごめんよ。痛かったかい? 痛かったよねぇ?
 でも、僕の声伝わったかな? 伝わったでしょ? これがね、超能力というシロモノなんだよ☆」

「シャーーーーーーーーーッ!!!!」

 おどけて寄って来る所長に最大限の威嚇を放つ!!
 色んな気持ちが混ざりあった結果の猫化である!!

「おおっと怖い怖い、勘弁してくれよ」
「声は聞こえましたけどね、その度にこんな激痛あびせられたんじゃたまんないですよっ!! なんなんですかっ!???」
「いやいや、それも訓練次第なんだよ? キミはまだファントム結界を上手くコントロール出来ないからそうなるんだ。
 でもそれもJPAで訓練すれば、痛みも無く、僕の声がいつでも快適に聞こえるようになるよ。ね、どうだい? 入学してみる気になっただろう?」
「そんなもの訓練しなくても、携帯でいくらでも会話できるじゃないですか!!」
「あいたぁ~~、こりゃ痛い所を突かれたなぁ~~」

 言っておでこをペチンと叩く所長。
 ざあみろ論破してやったわケケケ!!

「ま、そうなんだよね。ほんの一昔前なら僕の能力も大したもんだったんだけど、最近の通信技術の進歩のせいで、すっかり肩身が狭くなっちゃってねぇ~~……。
 もうみんなスマホ一つで念話能力者みたいに会話出来ちゃうんだもんねぇ……」

 イジケ始める昭和のおじさん。
 いったいいつの時代と比べているのか?

「……ですよねぇ。
 私も自分の能力とインターネットの検索機能、どっちを取るって言われたらネットを取りますもんね。
 なんだか超能力者全体の肩身が狭くなってる気がします……」

 菜々ちんまでしみじみ落ち込みはじめる。
 キミはまだ若いだろうよ、しっかりしたまえ!!

「でも、キミや片桐くんの能力はそんな心配はいらないね。ちょっとやそっと科学が進歩したくらいじゃ真似できるような代物じゃないんだから」

 私? まぁ、そう言われると悪い気はしないが……片桐さんの能力って何だろう?

「片桐さんの能力は何なんですか?」

 思ったままの疑問を遠慮もなしに聞いてみる。
 この中では何となく、一番怖そうな感じがしたからおっかなびっくりだが。

「知りたい? 知りたいよねぇ~~? そりゃ、ここまで思わせぶりに引っ張ったんだから知りたいよね~~、じゃじゃ~~ん!!」

 鬱陶しいテンションでペンを取り出し、机に立てる所長。
 そして片桐さんに目配せを送る。

「さあどうぞ遠慮なく。彼女に見せてやってくれ。」

 言われた片桐さんは、軽くため息をつくとペンに向かって手をかざした。
 その時、私の目の錯覚だろうか? 片桐さんの後ろに何かボヤケた幽霊のような影が見えた気がした。
 そして――――、

 ばしゅっ!!

 空気が弾けるような音がして、ペンが倒れ、転がった。
 誰も、手を触れてもいないのに。

「――――……!?」

 それだけじゃない、私は目を剥きに注目した。
 倒れたペンは先端半分が、まるでレーザーにでも削られたように綺麗に無くなっていたからだ。

「すごいだろう? 彼女の能力は『アスポート』――物体送信能力さ」
「……物体送信??」

 半分になったペンを見つめ、私は聞き返す。

「そう、つまりテレポートさ。
 ただし転送専用でね、どこかへ送り込む事しか出来ないがね?」

 にっこり笑って所長が説明する。
 それを聞いて私は嫌なことに気がつく。
 そして恐る恐る片桐さんに尋ねた。

「転送って……もしかして、さっきのひったくり犯も……?」
「ええ、そうよ。菜々も説明してたでしょ。私が消してあげたのよ」

 ほとんど表情を作らず、淡々と恐ろしいことを言う彼女。

「え……と、その……消したって何処に……??」
「……気にしたことないわ」

 いや、ダメでしょ!??
 人を転送しておいて、その先を知らないとか!??
 あたふたと所長を見ると、別段気にした風でもなくあっさりとした口調で、

「まぁ、片桐くんの能力はそもそも破壊が目的だからね。対象物の行方とかはさしたる問題じゃぁない。観測も出来ないから、もしかしたら亜空間にでも転移しているのかも知れないね?」

 と、他人事みたいに言う。

「え、いや、じゃあ……ひったくり犯は??」
「……そうね、殺したのよ。あなたを助けるためにね」

 とんでもないことを言い出す片桐さん。
 なにも悪びれる事もなく、あっさりと殺人を自白する。
 そしてそれを気に止めた様子もない他の二人。

「……まぁ、あなたなら刺されても死なないことは分かっていたけど、騒動になると面倒だし、血で汚れた服のまま、ここに来られるのも困るしね」
「そうだねぇ、カーペットなんか汚れちゃって後で追加請求回されるってのもねぇ」
「別にいいじゃないですか、カーペット代くらい。
 うちの組織って、そこまでお金に困っているわけじゃないんですから。
 それよりも騒動の後処理の方が大変なんですからね?」
「先週の通り魔事件の改ざんでは菜々くんに手数をかけてしまったしね。今度またスイーツでも奢るからまた頼むよ?」
「今回は血の一滴も残してないから大丈夫よ。目撃者の携帯や防犯カメラもすべて破壊してあるから心配しないでいいわ」

 な、な、な、何を言っているんだこの人達は!??

 通り魔事件の改ざん?

 あれはこの人達の仕業だったの!???
 だとしたら、あのとき私の目の前で惨たらしい死に方をした通り魔は――――。

「あ、あ……あの時、通り魔を殺したのって――――」

 青い顔をして訊く私に、片桐さんは何一つ悪びれる様子もなく、

「ええ、それも私よ。
 あの時はあなたの能力を知らなかったから、少し雑な殺し方になってしまったけれどね、御免なさい」

 まるで道端のゴミでも処理したかのように事も無げに答えた。
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