超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
5 / 260

第5話 入学説明会のご案内

しおりを挟む
「んああ~~~~うまいっ!!」

 すっかり料理に没頭してしまった私が遅い夕飯を口にしたのは、もう夜も九時を回った頃だった。

 作ったメニューは豚丼の具、生姜焼き、豚バラ味噌大根、回鍋肉、豚とナスの胡麻味噌炒め、そして豚汁。

 今はさっそく豚汁をいただいている。
 ちなみにおかずは他にお新香だけ。もうこれで十分。
 豚汁は汁物でありながら同時にメインでもある。
 これ以上、他になにか加えたらむしろ失礼というものだ。

 ずずず……と汁を一口。そして飯を三口。
 豚肉を一口。そして飯をまた三口。
 箸休めにゴボウと人参、油揚げなどに寄り道し、そしてまた汁に戻る。
 これを永遠に繰り返せと言われたら、私は余裕で合点承知の助と答えるだろう。
 それほどまでに白飯と豚汁の相性は無敵なのだ。

 そうして三杯目の丼ぶりご飯を平らげた頃、ようやく私のお腹も膨れてきた。
 あと一杯で終わりにしようかしらん、と四杯目をよそいに向かったところで、届いていた封筒のことを思い出す。

「ああ、そういえば何か届いていたよね?」

 丼ぶりご飯を抱えながら床に放り投げられていた封筒を拾い上げる。
 その封筒には私の宛名と住所、そして『親展』『重要書類在中』とのスタンプも押してあった。
 裏の差出人には文部科学省、科学技術・学術政策局、研究開発戦略特別課と書かれていた。

「はて……??」

 まったく見に覚えのない相手に私は困惑する。
 文部科学省なんたらかんたらと言われてもな……。
 自慢じゃないが、こちとらもうそんなお勉強的なお役所なんぞには1ミリも接点なんかありゃしないですけど?
 しかも重要書類とか……相手間違ってませんか?
 しかし書いてあるのは間違いなく私の名前と住所である。
 名前の優の文字の最後らへんがプルプル震えてるのは見なかったことにしておいてやろう。

 封筒の重みはほとんどない。振っても音さえしない。
 わけがわからないが、とりあえず開いてみなければ始まらないだろう。
 ビリビリと封筒の端を切り、中身を確認する。
 中に入っていたのは紙切れ一枚だけだった。

 「……なになに?」

 私は豚汁の残りをすすりながら、それに書いてある文に目を通す。


 ESP・PK取り扱い特別訓練学校入学説明会のご案内

 拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 この度、厳正なる鑑定の結果、あなた様がPK能力者と認定された事をここにご報告致します。
 つきましては特別訓練学校入学説明会を下記の予定にて実地致しますのでご案内いたします。

 日時 10月11日 午前10:00~

 場所 東京都新宿区高田馬場1丁目 AKビル4F 森川貸会議室高田馬場
 持ち物 筆記用具、身分証明書、印鑑(拇印でも可)
     ※ 食事につきましてはご用意させて頂きますのでお持ち頂く必要は御座いません。
 
 尚、参加していただいた方には日当として三万円を支給させて頂きます。

 ご参加の可否につきましては、お手数ですが
 10月10日 13:00までにご連絡下さい。

 ※ 基本的に絶対参加とさせて頂いております。
   ご理解のほどお願い申し上げます。

                                 文部科学省  
                            科学技術・学術政策局 
                             研究開発戦略特別課
                              課長 大西 健吾
  
「わかるか~~~~~~い!!」

 私は紙を放り投げた。

 なんじゃいこれは??
 ESP・PK取り扱い特別訓練学校??
 入学説明会??
 なにこれ、新たな職業訓練学校の一種か?
 いや、私、ハローワークでそんな登録した覚えないけど??

 やっぱり何か間違ってるなこれ。
 そもそもPK能力者ってなんですか?
 サッカーのゴールキーパーでもやれってか?
 そりゃ意外と得意だよわたしゃ、ゴールキーパー。
 なんせ中学のサッカーの授業では走りたくないもんで、ずっとキーパーやってたらいつの間にか『ゴールネットの大女優』の異名を欲しいままにしていたわ。
 でも、だからといって訓練所に招待されるほどの実績は無かったはずだけど?
 それとも密かに来ていたスカウトにでも見られたのかしら? 
 あの私の華麗な体捌きを。
 体捌きと言っても大したことじゃないけども。
 ただ、ゴール前にやってきた、かつて私をいじめてた女にプレーに見せかけてラリアットや真空飛び膝蹴りを食らわせてたたけだもの。
 まぁおかげでみんな怖がって私の守るゴールには近寄らなくなっていたけどもね。

「でも、そんな事でスカウトされてもねぇ……」

 私はご飯を頬張りながら再び案内を読む。

「ぶっ!!」

 米粒が彼方に飛んでいった。

「何これ!? 
 参加の可否については10日の13:00までって……もう過ぎてるじゃん!!」

 今は10日の21:20分である。

「しかも、説明会は明日で基本的に絶対参加って……ずいぶん勝手な……。
 連絡先も書いてないし、最初っから断らせる気無しじゃ…………んんんんんんん??????」

 私は非常に気になる、ある一行に目が釘付けになった。

『尚、参加していただいた方には日当として三万円を支給させて頂きます』

 ま・じ・か・!?

 え? なに? これ、参加すればお金がもらえるの?
 しかも三万円?
 そんでもって食事付き?
 わたしゃ同じだけのお金を稼ぐのに飯代自腹で四日かかってますがな。

「ちょいちょいちょいちょい……これはちょっと、どうだろう……」

 私は悩んだ。

 だってこんなもの、胡散臭い以外の何物でもない。
 ほぼ確実に詐欺だ。
 最近、役所を名乗る詐欺も多いと聞く。

 しかし……三万円。

 ダメだとわかっていても惹かれる額である。
 絶対釣りだ。
 お金で釣って誘っておいて、その場でなんか怪しげな商売とか宗教とか押し付けるつもりだ。

 わかっている。
 わかっているんだけども、んんんんんんんん………。




 翌日。
 私は指定されたビルの前に立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

交換日記

奈落
SF
「交換日記」 手渡した時点で僕は「君」になり、君は「僕」になる…

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...