7 / 13
七
しおりを挟む
沙耶子は悩んでいた。
今のままでは、家政婦達の給与が払えないのである。
漠然と自分が相続するだろうと思っていた莫大な遺産が、手に入らない事が判明した時は、衝撃とA氏に対しての怒りの感情しか湧かなかった。
しかし、日を追う毎に焦りと悲しみの感情が満ちてきたのだ。
雇っている家政婦は、タエを含めて四人。
主人が亡くなり収入も遺産も入らぬ沙耶子に、彼女達を雇い続ける財力は無かった。
貯金が無い訳ではない。
両親が愛娘の為に貯めていた貯蓄を、贈られていた。
花嫁道具や衣装等は主人の懐から出たので、その貯金は手付かずで残っている。
とはいえ、いつまでも他人を養い続けられる金額ではなかった。
タエを残して、契約を解除しようかと考えていた。
いや、諸々の生活費の事を考えると、タエ一人さえいつまで雇えるか分からない。タエは身の回りの世話を焼いてくれている。他の家政婦達とは思い入れが違う。
給料の減額は、出来る事ならしたくない。
相続した家と土地。主人が集めていたアンティークの調度品や美術品を売りに出せば、当面の生活費とタエの給料は確保出来るだろう。
しかし、それには問題があった。
沙耶子の実家には、両親と姉夫婦とその子供が住んでいる。
沙耶子と姉は仲が悪い。昔は良かったのだが、沙耶子の縁談が決まった時、姉は酷く反対した。表向きは年の離れた相手との結婚を慮っていたのだが、実際は自分の妹が、自分の夫よりも金も地位もある男と結婚する事を妬んだのだった。
同じ女として、一緒に暮らしてきた姉妹として、沙耶子はその理由に気付いていた。
姉の夫は小さな会社を経営していた。業績が悪い訳でもない。家庭を顧みない訳でもない。妻の両親と同居し、一家を養ってる。
沙耶子から見れば、十二分に幸せなで恵まれた生活を送っているし、親孝行者だと思う。
そんな姉から一方的に嫌われ妬まれて、好きでい続けられるだろうか。主人の通夜の時、姉の「短い生活だったわね」という声が耳に残っている。
実家で使っていた沙耶子の部屋は、姉夫婦の子供部屋になっている。
沙耶子の戻る場所は無いのだ。
自分にも出来る仕事を見つけて生活が安定するまでは、家と土地は手放せない。
調度品と美術品を売るのにも限界がある。
やはり、幾らかの纏まった金が必要だと思った。
(早く愛人を見つけて話をつけないと——)
今のままでは、家政婦達の給与が払えないのである。
漠然と自分が相続するだろうと思っていた莫大な遺産が、手に入らない事が判明した時は、衝撃とA氏に対しての怒りの感情しか湧かなかった。
しかし、日を追う毎に焦りと悲しみの感情が満ちてきたのだ。
雇っている家政婦は、タエを含めて四人。
主人が亡くなり収入も遺産も入らぬ沙耶子に、彼女達を雇い続ける財力は無かった。
貯金が無い訳ではない。
両親が愛娘の為に貯めていた貯蓄を、贈られていた。
花嫁道具や衣装等は主人の懐から出たので、その貯金は手付かずで残っている。
とはいえ、いつまでも他人を養い続けられる金額ではなかった。
タエを残して、契約を解除しようかと考えていた。
いや、諸々の生活費の事を考えると、タエ一人さえいつまで雇えるか分からない。タエは身の回りの世話を焼いてくれている。他の家政婦達とは思い入れが違う。
給料の減額は、出来る事ならしたくない。
相続した家と土地。主人が集めていたアンティークの調度品や美術品を売りに出せば、当面の生活費とタエの給料は確保出来るだろう。
しかし、それには問題があった。
沙耶子の実家には、両親と姉夫婦とその子供が住んでいる。
沙耶子と姉は仲が悪い。昔は良かったのだが、沙耶子の縁談が決まった時、姉は酷く反対した。表向きは年の離れた相手との結婚を慮っていたのだが、実際は自分の妹が、自分の夫よりも金も地位もある男と結婚する事を妬んだのだった。
同じ女として、一緒に暮らしてきた姉妹として、沙耶子はその理由に気付いていた。
姉の夫は小さな会社を経営していた。業績が悪い訳でもない。家庭を顧みない訳でもない。妻の両親と同居し、一家を養ってる。
沙耶子から見れば、十二分に幸せなで恵まれた生活を送っているし、親孝行者だと思う。
そんな姉から一方的に嫌われ妬まれて、好きでい続けられるだろうか。主人の通夜の時、姉の「短い生活だったわね」という声が耳に残っている。
実家で使っていた沙耶子の部屋は、姉夫婦の子供部屋になっている。
沙耶子の戻る場所は無いのだ。
自分にも出来る仕事を見つけて生活が安定するまでは、家と土地は手放せない。
調度品と美術品を売るのにも限界がある。
やはり、幾らかの纏まった金が必要だと思った。
(早く愛人を見つけて話をつけないと——)
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
やさしい首
常に移動する点P
ミステリー
長谷川修平の妻、裕子が行方不明となって二日後、遺体が発見された。首だけが近くの雑木林に放置されていた。その後、同じ場所に若い二人の男の首が遺棄される。そして、再び雑木林に首が。四人目の首、それは長谷川修平だった。
長谷川の友人、楠夫妻は事件の参考人として警察に任意で取り調べをうけたことで、地元住民から犯人扱いされる。定食屋「くすのき」も閉店せざるを得なくなった。
長谷川夫妻の死、若い男二人の死、四つの首が遺棄された雑木林。
楠夫妻の長男、真一は五年後自分の子供にもふりかかる汚名を
ぬぐうため、当時の所轄刑事相模とともに真犯人を探す。
※この作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
デアシスタントス
huyuyu
ミステリー
「― これは生死を分ける戦いです。」
それは、様々なルールで叶望達を◯えていく、残酷で絶望の時だった…
叶望達は絶望の中、彼女は…。
※鬱表現と血の表現がややあります。
苦手な方はブラウザバックをオススメします。
またこの作品へのコメントで、ネタバレ発言は厳禁です。
どんでん返し
井浦
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる