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救われた日
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現実であって現実でない様な…
フワフワした時間だった。
初めて彼女に声をかけられた時と同じように俺はまた固まってしまった。
するとカップラーメンをいくつかカゴに入れた彼女が振り返って俺に気づいた。
『あ、アンスリウムの』
俺のことを覚えてくれていたのだ。
気持ちが高揚していたせいもあって、記憶が曖昧なのだが、
とにかく彼女の声を聞けて嬉しいとかいう気持ちよりも救われた様な気がした。
色々な気持ちがこみ上げてきて、彼女に振り絞るようにして
『ありがとう』と一言、伝えた。
彼女は当然なのだが
『えっ?』
と驚いた表情をしていたのを見て俺は焦ってしまい、
逃げる様にその場を去ってしまった。
何から逃げたのだろうか。
大人になっても心の芯には童心が残っているのだろか。
俺は一体、何をやっているんだと…
頭を掻きむしりながらとにかく歩いて、
ふと目に入った電柱を殴りつけたが痛みで冷静になった。
気付けば俺は清算前の買い物カゴを手に出てきてしまっていたので。
やってしまった…完全に窃盗犯ではないか。
何だかとってもあっけない形で俺の人生も終わりを迎えるのかと地べたに座り込み真っ暗な空を眺めた。
するとそこに、俺の好きな声が聞こえてきた。
『大丈夫ですか!?』
話を聞くと、
どうやら彼女が俺を追いかけようとするコンビニ店員に話をしてくれたらしく清算を済ませてくれたらしい。
俺は彼女に確かに救われたのだ。
その後、コンビニにカゴを返しに彼女と二人で歩いた。
彼女が俺の横を歩いていること、
隣を見ると彼女が俺と同じ歩幅で歩いていること…横顔。
全てが不思議だった。
優しく話を聞いてくれる彼女に気づけば母親の話をしていた。
頭で考える前に心に中に蓄積された気持ちが一気に溢れ出した。
誰にも相談するどころか話すことすら無かった母親の死をともちゃんが聞いてくれた。
見ず知らずと言っていいほどのおじさんの話を親身に聞いてくれた。
悲し気な表情をして頷いてくれた。
俺は素直に嬉しかった。
心の中に溜まったものを吐き出す相手がいるということがこんなにも素敵なことだと初めて気づかされた瞬間だった。
胸から何か得体のしれないドロっとしたものが溶けだす様な感覚だった。
コンビニで謝罪を済ませて、ハッと思った。
お金を返さなくてはと。
慌てて財布を出した俺に彼女は、
『今日は私のおごりです』
と屈託のない笑顔で言ってくれた。
俺は本当にその辺りにはえている木の様に棒立ちになり彼女をボーっと見つめていた。
『もう…しっかりして下さいね』
彼女に肩を叩かれて、我に返った。
驚く俺に少しだけ待っててというという合図をして彼女はまたコンビニへと入っていった。
想像していたよりも彼女は明るい人だった。
何か忘れ物だろうかと思っていたら、
彼女は缶ビールを片手に出てきた。
『私のおすすめスポットで一杯やりましょうか』
驚きで何の返答もしない俺の腕をつかんで彼女はどこかへ向かい出した。
俺は戸惑いながらも少しずつ冷静さを取り戻しが今起こっている現実に理解が追いつかず味わったことのない感情に包まれていた。
間違いないことは彼女は俺という存在を認識し、
俺のことを救い、
さらには俺と二人の時間を過ごそうとしていることだ。
とんでもないことになってしまった。
心中穏やかでは無かったし、
ともちゃんというか…女性と二人きりになることさえいつぶりだろうか。
遠くで感じていた彼女の香りや声が俺の全てに突き刺ささり吸い込まれていく。
少し歩くと小さな滑り台に砂場、
ブランコがゆらゆらと揺れる小さな頃によく遊んだ様な公園に着いた。
砂場の横に立つたった1つの街頭が滑り台を照らしていた。
彼女はおもむろに砂場の淵に座り手に持ったビールをかかげた。
俺はとてもではないが隣に座る勇気などなく、滑り台に腰掛けた。
『乾杯』
これが俺と彼女の関係の本当の意味での始まりの合図だった。
とにかく緊張を紛らわす為に一気にお酒を飲み干そうとしたら、
彼女がいきなり大声で笑い始めた。
『ホントに変な人だな~』
俺は慌ててお酒を吹き出してしまった。
でも、笑っている彼女を見て不思議と笑ってしまった。
自然に笑う…そういえば俺、ここ何年も笑ってなかった様な気がするな。
すると彼女がいきなり真剣な表情で
『私も早くに両親を亡くしたんです』
話を聞くと俘虜の事故だったらしい。
フワフワした時間だった。
初めて彼女に声をかけられた時と同じように俺はまた固まってしまった。
するとカップラーメンをいくつかカゴに入れた彼女が振り返って俺に気づいた。
『あ、アンスリウムの』
俺のことを覚えてくれていたのだ。
気持ちが高揚していたせいもあって、記憶が曖昧なのだが、
とにかく彼女の声を聞けて嬉しいとかいう気持ちよりも救われた様な気がした。
色々な気持ちがこみ上げてきて、彼女に振り絞るようにして
『ありがとう』と一言、伝えた。
彼女は当然なのだが
『えっ?』
と驚いた表情をしていたのを見て俺は焦ってしまい、
逃げる様にその場を去ってしまった。
何から逃げたのだろうか。
大人になっても心の芯には童心が残っているのだろか。
俺は一体、何をやっているんだと…
頭を掻きむしりながらとにかく歩いて、
ふと目に入った電柱を殴りつけたが痛みで冷静になった。
気付けば俺は清算前の買い物カゴを手に出てきてしまっていたので。
やってしまった…完全に窃盗犯ではないか。
何だかとってもあっけない形で俺の人生も終わりを迎えるのかと地べたに座り込み真っ暗な空を眺めた。
するとそこに、俺の好きな声が聞こえてきた。
『大丈夫ですか!?』
話を聞くと、
どうやら彼女が俺を追いかけようとするコンビニ店員に話をしてくれたらしく清算を済ませてくれたらしい。
俺は彼女に確かに救われたのだ。
その後、コンビニにカゴを返しに彼女と二人で歩いた。
彼女が俺の横を歩いていること、
隣を見ると彼女が俺と同じ歩幅で歩いていること…横顔。
全てが不思議だった。
優しく話を聞いてくれる彼女に気づけば母親の話をしていた。
頭で考える前に心に中に蓄積された気持ちが一気に溢れ出した。
誰にも相談するどころか話すことすら無かった母親の死をともちゃんが聞いてくれた。
見ず知らずと言っていいほどのおじさんの話を親身に聞いてくれた。
悲し気な表情をして頷いてくれた。
俺は素直に嬉しかった。
心の中に溜まったものを吐き出す相手がいるということがこんなにも素敵なことだと初めて気づかされた瞬間だった。
胸から何か得体のしれないドロっとしたものが溶けだす様な感覚だった。
コンビニで謝罪を済ませて、ハッと思った。
お金を返さなくてはと。
慌てて財布を出した俺に彼女は、
『今日は私のおごりです』
と屈託のない笑顔で言ってくれた。
俺は本当にその辺りにはえている木の様に棒立ちになり彼女をボーっと見つめていた。
『もう…しっかりして下さいね』
彼女に肩を叩かれて、我に返った。
驚く俺に少しだけ待っててというという合図をして彼女はまたコンビニへと入っていった。
想像していたよりも彼女は明るい人だった。
何か忘れ物だろうかと思っていたら、
彼女は缶ビールを片手に出てきた。
『私のおすすめスポットで一杯やりましょうか』
驚きで何の返答もしない俺の腕をつかんで彼女はどこかへ向かい出した。
俺は戸惑いながらも少しずつ冷静さを取り戻しが今起こっている現実に理解が追いつかず味わったことのない感情に包まれていた。
間違いないことは彼女は俺という存在を認識し、
俺のことを救い、
さらには俺と二人の時間を過ごそうとしていることだ。
とんでもないことになってしまった。
心中穏やかでは無かったし、
ともちゃんというか…女性と二人きりになることさえいつぶりだろうか。
遠くで感じていた彼女の香りや声が俺の全てに突き刺ささり吸い込まれていく。
少し歩くと小さな滑り台に砂場、
ブランコがゆらゆらと揺れる小さな頃によく遊んだ様な公園に着いた。
砂場の横に立つたった1つの街頭が滑り台を照らしていた。
彼女はおもむろに砂場の淵に座り手に持ったビールをかかげた。
俺はとてもではないが隣に座る勇気などなく、滑り台に腰掛けた。
『乾杯』
これが俺と彼女の関係の本当の意味での始まりの合図だった。
とにかく緊張を紛らわす為に一気にお酒を飲み干そうとしたら、
彼女がいきなり大声で笑い始めた。
『ホントに変な人だな~』
俺は慌ててお酒を吹き出してしまった。
でも、笑っている彼女を見て不思議と笑ってしまった。
自然に笑う…そういえば俺、ここ何年も笑ってなかった様な気がするな。
すると彼女がいきなり真剣な表情で
『私も早くに両親を亡くしたんです』
話を聞くと俘虜の事故だったらしい。
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