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弱者の暇つぶし
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正直、このまま同じ日々を繰り返して老いて死ぬだけだろうと壮大でとても暗い未来をずっと頭の中で描いていた。
ただただ、生きる為だけに働き疲弊していく。
意味…ありますか?
家族を持つこと、誰かと交友を持つこと。
意味…ありますか?
そんな日々から抜け出すことが出来るかもしれない。
大人になればなるほど意味を求めてしまう。
人生は壮大な暇つぶしという人もいるが、弱者の暇つぶしほど辛いものはない。
少しの不安と大きな期待は自分の恋心の大きさを表していた。
人は恋をすると強くなるというが、本当だろうか。
夕暮れどきの帰り道は孤独さを大きくする。
高揚しながらも少し冷静に考えている自分がいた。
結局のところ彼女との距離を縮める為にどうすればいいのか分からないでいたからだ。
でも、今のままの俺では…
現実が俺の心地よい妄想を掻き消していく。
いつもそうだ、良い出来事をネガティブに変換してしまうのが俺という人間なのである。
圧倒的に自分に自信が無かった。
幼少の頃は明るく人気者を演じ心の中を見透かされないようにして生きていたが大人になると演じることにも疲れ、
演じなくても何となく生きていけることに気づく。
そして、無感情に生きるという不可能な自己暗示をかけて日々、堕落してきたのである。
子供の頃、蒸発していなくなった父親のDVが原因で気づけば常に怒らせないようにと父親に気を遣って生活していた。
時には殴られ、首を絞められ、熱湯を浴びせられる。
無知な子供にはそれがDVだとは分からなかったが大人になるにつれて劣悪な環境だったのだと少しずつ理解が追いついてきて今の感情と照らし合わせたりするときがある。
人をイマイチ信用出来なかったり壁を作ってしまうのはそれが原因かもしれない。
きっと過去を原因としてしまうことこそが原因なのだろうと今、思う。
こんな人間だからこそ、本当の優しさに触れるとスッと心を許してしまうところがある。
自分の嫌な部分を大人になって世間体で包み隠すことが出来ても心の芯というのは変わらないものである。
そんな俺が今のままで果たして彼女と正面から向き合えるだろうか。
ひとときの間、雲の隙間から射した光をよどんだ雲が覆うようだった。
でも、変わりたい。
気づけば闇に包まれて眠っていた。
目の前には俺を眠りにつかせたハイボールの缶が転がっていた。
堕落した俺にはゴミ箱が遠い。
無性に自分に嫌気が差した。
同じことの繰り返しだ。
ロボットの様にストレスを溜め込む作業とストレス発散を交互にずっと繰り返してきた。
お酒が好きなのではない、飲まれたいだけだ。
でも、俺は一歩踏み出そうと思った。
美容院に行こう。
今となるとアホらしいとも思うが、思考は単純だった。
もう何年も、いわゆる床屋でしか髪を切っていなかった。
でも、彼女は若い。
きっと多少なりともお洒落に気を遣っている男性でないと恋愛をするイメージも沸かないだろうと思った。
自分自身に自信を持てていない典型的な考えだったと思う。
俺は休日だというのに珍しく朝からシャワーを浴び出来る限りのお洒落をして美容室に向かった。
こんなおじさんが美容室に来てどういうつもりだろうという視線が怖くていつからか美容室に行くのが嫌になり避けていた場所でもある。
人間というのは本当に自意識過剰な生き物である。
自分のことを意識して見ている人間は実際にはいない。
美容室の少し手前の喫煙所で煙草をふかしながら気持ちを落ち着かせていた。
店員にどんな髪型にしますか?と聞かれてなんと答えればいいのだろう。
答えが出ないまま俺は美容室の扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ」
強制的な言葉が俺の緊張をグッと高めた。
周りを見渡すと普段はあまり視界に入れないようにしている人間たちで溢れていた。
輝こうとしている人間がとても苦手だ。
でも、今俺はそんな人間になろうとしている。
人は人と接しなければ生きていきないのに、それがとても億劫になったりもする。
俺が我儘なのか、欠陥人間なのか。
気付いてはいるが我儘と思われてしまうと腹が立つ。
余計な気を遣わぬように俺は男性の美容師を選んだ。
お任せでと言っても、こんなおじさんをどんな髪型にすればと相手も困るだろうと思い、雑誌を見ながら出来る限り当たり障りのない髪型を選び指さして俺はされるがままに目を閉じた。
緊張と恥ずかしさで心地良くない時間だけが流れた。
美容師も察してか俺に話しかけることはなく淡々と髪を切ってくれた。
唯一、この心遣いだけがありがたかった。
結果的にいうと、あまり髪型は変わらなかった。
もっとこうしてほしいとか言えるはずもなく、さも納得して満足したような表情を作り俺はお店を後にした。
まぁおじさんの久しぶりの美容室なんてこんなものだろう。
でも、ワックスでセットされた自分の姿を見ると恥じらいの中にちょっとした自信が沸いた。
いつもより少しだけ、ほんの少しだけ胸を張って町を歩くことが出来た。
彼女に会いたい。
建物や他人が俺の横を通り過ぎていく。
俺は思考が追いつく前に彼女が勤める花屋へと足を運ばせていた。
大人になってから感情の赴くままに行動したことなんてあるだろうか。
社会に対する絶望と挫折は人を無感情にしてしまう。
何故なら感情を持ってしまえば生きることが苦しくなってしまう。
そんな俺が今、感情を取り戻そうとしている。
生きるとは感情を持つことなのだ。
気づけば彼女が勤める花屋の前で息を切らしていた。
その時に味わった脳天を雷が打ち抜くような感覚を今でも覚えている。
「大丈夫ですか?」
その言葉を発したのは紛れもなく彼女だった。
何も言葉が出せなかった。
ただただ、生きる為だけに働き疲弊していく。
意味…ありますか?
家族を持つこと、誰かと交友を持つこと。
意味…ありますか?
そんな日々から抜け出すことが出来るかもしれない。
大人になればなるほど意味を求めてしまう。
人生は壮大な暇つぶしという人もいるが、弱者の暇つぶしほど辛いものはない。
少しの不安と大きな期待は自分の恋心の大きさを表していた。
人は恋をすると強くなるというが、本当だろうか。
夕暮れどきの帰り道は孤独さを大きくする。
高揚しながらも少し冷静に考えている自分がいた。
結局のところ彼女との距離を縮める為にどうすればいいのか分からないでいたからだ。
でも、今のままの俺では…
現実が俺の心地よい妄想を掻き消していく。
いつもそうだ、良い出来事をネガティブに変換してしまうのが俺という人間なのである。
圧倒的に自分に自信が無かった。
幼少の頃は明るく人気者を演じ心の中を見透かされないようにして生きていたが大人になると演じることにも疲れ、
演じなくても何となく生きていけることに気づく。
そして、無感情に生きるという不可能な自己暗示をかけて日々、堕落してきたのである。
子供の頃、蒸発していなくなった父親のDVが原因で気づけば常に怒らせないようにと父親に気を遣って生活していた。
時には殴られ、首を絞められ、熱湯を浴びせられる。
無知な子供にはそれがDVだとは分からなかったが大人になるにつれて劣悪な環境だったのだと少しずつ理解が追いついてきて今の感情と照らし合わせたりするときがある。
人をイマイチ信用出来なかったり壁を作ってしまうのはそれが原因かもしれない。
きっと過去を原因としてしまうことこそが原因なのだろうと今、思う。
こんな人間だからこそ、本当の優しさに触れるとスッと心を許してしまうところがある。
自分の嫌な部分を大人になって世間体で包み隠すことが出来ても心の芯というのは変わらないものである。
そんな俺が今のままで果たして彼女と正面から向き合えるだろうか。
ひとときの間、雲の隙間から射した光をよどんだ雲が覆うようだった。
でも、変わりたい。
気づけば闇に包まれて眠っていた。
目の前には俺を眠りにつかせたハイボールの缶が転がっていた。
堕落した俺にはゴミ箱が遠い。
無性に自分に嫌気が差した。
同じことの繰り返しだ。
ロボットの様にストレスを溜め込む作業とストレス発散を交互にずっと繰り返してきた。
お酒が好きなのではない、飲まれたいだけだ。
でも、俺は一歩踏み出そうと思った。
美容院に行こう。
今となるとアホらしいとも思うが、思考は単純だった。
もう何年も、いわゆる床屋でしか髪を切っていなかった。
でも、彼女は若い。
きっと多少なりともお洒落に気を遣っている男性でないと恋愛をするイメージも沸かないだろうと思った。
自分自身に自信を持てていない典型的な考えだったと思う。
俺は休日だというのに珍しく朝からシャワーを浴び出来る限りのお洒落をして美容室に向かった。
こんなおじさんが美容室に来てどういうつもりだろうという視線が怖くていつからか美容室に行くのが嫌になり避けていた場所でもある。
人間というのは本当に自意識過剰な生き物である。
自分のことを意識して見ている人間は実際にはいない。
美容室の少し手前の喫煙所で煙草をふかしながら気持ちを落ち着かせていた。
店員にどんな髪型にしますか?と聞かれてなんと答えればいいのだろう。
答えが出ないまま俺は美容室の扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ」
強制的な言葉が俺の緊張をグッと高めた。
周りを見渡すと普段はあまり視界に入れないようにしている人間たちで溢れていた。
輝こうとしている人間がとても苦手だ。
でも、今俺はそんな人間になろうとしている。
人は人と接しなければ生きていきないのに、それがとても億劫になったりもする。
俺が我儘なのか、欠陥人間なのか。
気付いてはいるが我儘と思われてしまうと腹が立つ。
余計な気を遣わぬように俺は男性の美容師を選んだ。
お任せでと言っても、こんなおじさんをどんな髪型にすればと相手も困るだろうと思い、雑誌を見ながら出来る限り当たり障りのない髪型を選び指さして俺はされるがままに目を閉じた。
緊張と恥ずかしさで心地良くない時間だけが流れた。
美容師も察してか俺に話しかけることはなく淡々と髪を切ってくれた。
唯一、この心遣いだけがありがたかった。
結果的にいうと、あまり髪型は変わらなかった。
もっとこうしてほしいとか言えるはずもなく、さも納得して満足したような表情を作り俺はお店を後にした。
まぁおじさんの久しぶりの美容室なんてこんなものだろう。
でも、ワックスでセットされた自分の姿を見ると恥じらいの中にちょっとした自信が沸いた。
いつもより少しだけ、ほんの少しだけ胸を張って町を歩くことが出来た。
彼女に会いたい。
建物や他人が俺の横を通り過ぎていく。
俺は思考が追いつく前に彼女が勤める花屋へと足を運ばせていた。
大人になってから感情の赴くままに行動したことなんてあるだろうか。
社会に対する絶望と挫折は人を無感情にしてしまう。
何故なら感情を持ってしまえば生きることが苦しくなってしまう。
そんな俺が今、感情を取り戻そうとしている。
生きるとは感情を持つことなのだ。
気づけば彼女が勤める花屋の前で息を切らしていた。
その時に味わった脳天を雷が打ち抜くような感覚を今でも覚えている。
「大丈夫ですか?」
その言葉を発したのは紛れもなく彼女だった。
何も言葉が出せなかった。
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