37 / 53
032: アリスの騎士①
しおりを挟むリオンとアリスの婚約が結ばれて4日後、二人は揃って馬車に乗っていた。この国の第二王子に会うためだ。
その知らせは昨日、カラバ家にもたらされた。まだ夏季休暇中のアリスと共に自宅で昼食をとっていたところ使者が手紙を持ってきた。王族の蜜蝋で封がなされている。アリスとラブラブ水入らずのところに邪魔が入りリオンは内心ムッとしていた。
「レオナード様からだわ。急にどうしたんだろう?」
「レオナード?」
「うん、この国の第二王子様。学園で仲良くしていただいているの。あ、りおん君と同じ王子様だね、そういえば」
「第二‥王子」
リオンが記憶を探る。確かギードの調査でアリスの恋人とされていた王子だ。消しているはずのしっぽが感情の起伏で毛が逆立って太くなる。
「王子と仲がいいの?」
「えっと‥学園では私、あまり‥友達いないから」
「そう‥なんだ?」
何か言い濁されたようにも感じられた。友達が少ない?それは第二王子の婚約者のいじめのせいだろうか。そしてこの王子はそれを放置して笑っているという。
手紙を読んだアリスが首を傾げる。
「どうしたのかしら。明日会いたいとあるわ」
「王子が?」
あと一週間もすれば学園が始まるだろうに。長い休暇でアリスに会えずに恋焦れたのだろうか。そんな王子とアリスを二人きりになんてできない。王子からの誘いなら断ることもできないだろう。
「ボクも一緒に行ってもいい?」
「あ、いいんじゃないかしら?是非りおん君に会わせてあげたいわ。そうお返事を書くわね」
王子に自分を会わせたい?王子か虐めてくる王子の婚約者から庇って欲しいという意味?それにしてはアリスは満面の笑顔だ。
アリスから告白されアリスは自分を好きだと聞いている。それはアリスの纏う桃色のオーラからもわかる。だがアリスの気持ちは第二王子にないにしても第二王子がどう思っているかわからない。そういう意味でも同伴した方がいいだろう。ここでアリスが誰の婚約者かはっきりさせておかなくてはならない。
そこでふと向かいに腰掛けるアリスに視線を送ったリオンは目を疑った。
「‥‥‥‥え?ありす?」
「りおん君?」
小首を傾げるアリスの頭に黒いものがひょこんと出ている。黒く尖ったそれは感情を伴ってピクピク動いていた。その愛らしい姿にリオンに激震が走った。
「え?ええええ?!なんで?!」
「え?なになに?りおん君どうしたの?ってえ?!なにこれ?!」
腰を浮かせたアリスの背後で黒いものがモゴモゴしている。ついでにピクピク動く耳にも気がついて頭に手を当てているがアリスは満面の笑みだ。
「猫耳にしっぽ?やった!私、猫になれたの?!」
「いやいやいや?ありすは人族だから!」
興奮したアリスがすっ飛んでいった先には姿見、そこに映る自分の姿に歓喜の声をあげる。
「やだ可愛い!猫耳?しっぽも?私猫になれた!りおん君とお揃い!嬉しい!」
「え?落ち着いて!ダメでしょこれじゃ!誰かに見られちゃう!」
「猫耳!私可愛い?りおん君?」
「か、かかかかかわいいけど!めちゃくちゃ可愛いけど今はダメ!」
黄色い声できゃあきゃあ騒ぐアリスを必死で宥め、リオンが耳としっぽを消す要領でアリスに魔力を流してみれば耳としっぽは消すことができた。二人きりの時でよかったとリオンは安堵の息を吐いたがアリスは不満げだ。
「せっかくの可愛い耳としっぽだったのに」
「夜になったら出してあげるから」
「ホントよ?夜はりおん君とお揃いにしようね」
ボクの魔法の暴走?ありすと繋がってるから影響がでちゃった?
原因不明だが大好きな子に自分と同じ猫耳としっぽが生えた。嬉しくないわけがない。リオンは視線を逸らしそっと頬を染めた。
そういうわけで翌日、待ち合わせに指定された公園に向かうべく二人は馬車に乗っていた。馬車の上にはギードが乗っている。出発前、ギードはいつものバルコニーで人形リオンからあらかじめついてくるように命じられていた。
『そういうわけだからお前もついて来い。最悪手が必要になるかもしれない』
『なんの手ですか?』
『ボクがタイマン中のお嬢の護衛』
「えーっと‥‥一体何をなさるおつもりですか?』
『ボクのありすがとられるかどうかの大事なタイマンだろうが!』
『そうだな、男ならツガイはコブシで守べきだ』
やはりバルコニーの下で伏せて目を閉じているドーベルマンが念話で割って入ってくる。口調は落ち着いていたが発言はなかなかに過激だ。
『当然です!差し違えてでもありすは渡しません!』
『妖精族の王族として人族の王族に負けるなよ、存分に意地を見せてこい。負けたら私が骨を拾ってやろう』
『えー、差し違えは困ります。私の首も一緒に飛びますので』
あぁまたこの展開か。なぜこの王子殿下と王弟殿下は普段温厚なのにツガイがからむとケンカっ早いのか。第二王子とはこういうもの?人族の第二王子はこうではないといいのだが。
穏健派なギードがげんなりとため息をついた。
『ケンカになりますか?相手は第二王子と伺いましたが』
『関係ない。横恋慕など邪魔なだけだ。問いただした上でキッチリありすのことを諦めさせてやる!こっちはありすと婚約したんだし!』
『その件ですが、ズバリお嬢さんに聞いてみればいいのでは?王子とどういう関係か』
ギードから正論が出たがリオンがぶすりと頬を染めて俯く。
『聞けるか。なんで王子のこと知ってるってなるだろ?』
『なりますね、ダメですか?』
『ダメだろ!こっそり嗅ぎ回ってたと思われる』
『まあ確かにこっそり嗅ぎ回ったのですが』
『先に素行調査してるとか。嫉妬深いヤな男と思われたくない』
『逆にそれだけお嬢さんに殿下のお気持ちがあるということではないでしょうか』
『ダメだといっただろ!とにかく!ありすに聞くのはダメだ!』
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる