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023: 黒い想い《アリス》③

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 家に帰っても黒猫はいなかった。だけどなぜか不安じゃない。それはリオンが黒猫は必ず帰ってくると言ったから。夜に部屋で待っていれば外でなぉぉんと鳴き声がした。

「今猫の鳴き声した?どこ?どこどこ?リオン?帰ってきた?」
「なぉぉぉん」

 バルコニーから名を呼べば愛しい黒猫は腕の中に飛び込んできた。その体をぎゅっと抱きしめる。

「リオン!本当に帰ってきたのね?もう!どこにいたの?たくさん探したのよ?キングに見つかってない?よかったぁ」
「なぉぉんグルグルグル」
「もう一人で外行っちゃダメよ。お腹空いてない?ゴハン食べようね。クッキーもあるよ?」
「ごにゃんごにゃん♪」
「そうそう、ゴハンよ。いいこいいこ」
「にゃ~~~~~ん♪」

 すごい‥ホントにりおん君の言った通りになった。

 クッキーを食べてご機嫌な黒猫になぜかリオンの面影が重なった。膝の上の黒猫の背中を撫でれば黒猫は目を細め気持ちよさそうだ。

「クッキーが好き。名前同じなんだもの、性格も同じなのかな?黒い髪も一緒。すごく似てるね。カッコよくて可愛くて笑顔が素敵で。側にいないとこんなに不安で悲しくて。出会ったばかりなのにこんなに君にメロメロだよ」

 頬を染めるアリスを見上げ黒猫はにゃぁと口を開くが鳴き声はない。サイレントニャー、猫の愛情表現。

「フフッリオンは私のこと好き?私も君が大好きだよ」

 目を閉じて黒猫を抱きしめる。猫の早い鼓動と暖かい体温、お日さまの匂いを感じた。

「あったかい。君は太陽みたいだね。手、繋いだらあったかかったなぁ」

 アリスの抱擁を嫌がって逃げる猫が多いのに黒猫は大人しくしている。アリスの腕の中でぐるぐると幸せそうに喉を鳴らしていた。その姿が愛らしく胸がキュンと鳴る。

「明日、一緒に会いに行こうね。とても素敵な人なの。リオンにも会わせてあげたいな」







 翌朝、待ちきれずに朝食を終えて早々に家を出ることにした。

「リオン?どこいっちゃったのかな?リオン~?」
「なぉぉん」

 昨日の青年に早く会いたい。逸る気持ちで黒猫の名を呼んだらバルコニーから鳴き声が聞こえた。

 バルコニーにいた黒猫を抱き上げる。抱き上げるだけでこんなに愛おしい。他にもう一匹猫がいたようだが逃げられてしまった。

「ん?お友達?もう一匹猫たん居たみたいだったけど逃げちゃったのかな?おいで~お出かけするよ」
「にゃん?」

 黒猫は不思議そうにアリスを見ている。どこに行くのか気にしているようだ。

「にゃにゃ?」
「ああ、気になる?えっとね。昨日ね、君を一緒に探してくれた人がいるんだよ。今から会いに行くからね。一緒にお礼を言おうね」
「に?」

 朝早い市場はごった返していたが昨日約束した場所にたどり着いた。

「流石に早かったかな?いないなぁりおん君」

 猫が見つかったかどうか知らないのだからここに来ているはずだ。時間を決めなかったから念のためと早く出た。待つのは覚悟の上だった。だが黒猫はじっとしていられない。黒猫は一時間アリスの膝の上でモジモジしていたがとうとう膝から飛び出し裏路地に飛び込んだ。

「やだ!待って!リオンダメよ!また迷子になっちゃう!」

 今度こそ絶対に逃さないよ!アリスは猫を追いかけて勢いよく裏路地に飛び込むもいきなり目の前に人が現れた。避ける間も無くぶつかってしまい抱き止められる。飛び込む直前、確かにそこには誰も居なかった。まるで人が降って湧いたようだと思った。

「キャッごめんなさ‥ってりおん君?!」
「あああれぇ?お嬢?どどうしたの慌てて?」

 どもり気味に現れた青年に二重に驚いた。そして見えたものに何か違和感を感じたが目を瞬いた瞬間にそれは消えていた。

 ん?あれ?今何か?頭にひょこっと?

 だが改めてよく見ても黒髪に何もない。

 んん?見間違い?気のせいかな?
 それより!今りおん君の腕の中にいる!!ありがとう突発事故!!

 アリスは心中悶えつつ笑顔を浮かべる。

「よかった!りおん君に会いたかったんだよ!」
「昨日約束したもんね。待たせちゃった?ごめんね」

 会えて良かった!りおん君優しいなぁ

 だが今度は黒猫が消えてしまった。そのことを伝えれば一緒に探してくれるという。微かに何か引っかかったが差し出されたリオンの手に気が逸れた。繋いだ手から温かいものが流れ込む。気になっていたことがどうでもよくなった。

 今日もりおん君と一緒にいられるしいいよね?
 
 そして今日も二人で黒猫を探し回った。黒猫リオンがどこに行ったのか、お腹をすかしていないか心配だったが隣の青年と手を繋げばなぜかその不安は和らいだ。

 二人で昼食をとり会計するところでリオンがコインを差し出してきた。

「これ使えるかな?」
「んー‥使えるけど‥勿体無いかも」
「そう?別にいいよ、たくさんあるし」

 リオンが差し出したのは古代金貨だ。貨幣の価値では今の金貨と同じだが古代金貨は歴史的価値がある。アリスの父はコインコレクターだからアリスは一目でその価値に気がついた。傷もない綺麗な古代金貨。これを見たら父は喜んでこの金貨に今の金貨で300枚を出すだろう。
 リオンは構わないというがそこはアリスが会計を済ませた。このコインがあれば父とリオンは仲良くなれる。アリスの中にある算段があった。

「今度うちに遊びに来ない?父はコインが好きなの。これ見たらきっと喜ぶわ」
「え?そう?‥かなぁ‥喜ぶといいけど‥」

 リオンはなぜか苦笑いする。

 アリスの父であるカラバ男爵は歴代の中で特に商才があった。故に今では権力も財力も絶大で街の名士となっている。それゆえにカラバ家は有る事無い事囁かれがちだが商人としては真っ当だ。悪どいこともしていない。
 だからリオンの躊躇いの理由がアリスは気になった。

 りおん君は父を知ってる?悪い噂を聞いてるのかな?カラバ家に近づきたくない?それとも?

 その日探した猫は見つからなかった。アリスは落胆するもリオンに励まされ家に帰る。そうするとリオンの予言通り夜になると黒猫はひょっこりアリスの元に帰ってくる。街から屋敷まで相当な距離、どうやってたどり着いているのか。

「もう!明日はいなくなったらダメだからね!明日はりおん君に会うんだよ」
「なぉぉぉん」

 この黒猫をあの青年に会わせる。そうすればリオンと会う言い訳ができる。その思いつきにアリスはワクワクしていた。


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