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アニス編
副官
しおりを挟むアレックスがアニスに笑顔で告げる。まるで笑いを堪えて悪戯を耳打ちする少年のようだ。
「だがな、こいつの統治にはまだまだ不安がある。新設の部門だし立ち上げも大変だろう。アニス、すまないがついていってやってくれるか?」
アニスは耳を疑った。異動?私も?事態の急展開に目が回りそうだ。
グライドが膝をついたままがばっと顔を上げる。
「わ、私がですか?」
「正直、アニスを手放すかどうかが一番迷った。お前が来て業務はすこぶる捗ったからな。こちらとしても痛いが、この馬鹿を躾けられるのはお前だけだから仕方がない。どうだろうか?副官としてこいつを助けてやってくれるか?」
「お、仰せのままに。」
たどたどしくはあったがなんとか返事はできた。頭が混乱している。でもグライドと一緒に本邸に行けるということだけは分かった。
そしてじわじわと実感が湧いてきた。顔に熱が集まる。鼓動が速くなる。
もっと一緒に、側にいられる!しかも同じ仕事で!嬉しい!信じられない!
ぱんっとアレックスが手を叩いた。
「よし。ではそのように手配させよう。赴任は翌月から。それまで引き継ぎと引越しの準備を始めろ。
——っと、その前に、二人に明日から一週間の休暇を与える。」
「「は?!」」
グライドとアニスの声がハモった。
「急な赴任だ。色々と手続きもあるだろう。今日は今から休んでしまえ。グライド!」
「はっ」
「ちょっと早いが解禁にしてやる。がんばれよ。」
グライドはアレックスをじっと見て、そして腹の底から息を盛大に吐き出して立ち上がった。
まとっていた硬い雰囲気が霧散した。
「ありがとなアレク。やり方がわからなかったが、俺はずっとお前を守る盾になりたかった。だから絶対守ってみせるよ、相棒。」
グライドの突き出した拳にアレックスが拳を合わせる。
それは幼馴染の二人が子供の頃からする決意の儀式だった。
「アニス。一年近くよくやってくれた。本当にありがとうな。」
アレックスの予想外のねぎらいの言葉にアニスは涙腺が決壊しそうになる。大変だったけど頑張ってきてよかった!
そこへグライドが割り込んでアニスを横抱きに抱き上げた。
アニスは唖然とした。これは何事?!
グライドはアレックスをギリッと睨んで無駄にでかい声をあげる。
「この休暇!!ありがたく頂戴します!!!」
「あーあ、いい雰囲気だったのにな。」
「竜を借りるぞ。」
「好きにしろ。さっさと行け。」
アレックスに手で追い払われグライドはアニスを抱えたまま廊下を歩き出した。すれ違う使用人達が振り返る。アニスは真っ赤になった。なにこの辱めは?!
グライドは気にした風もなく突き進む。ぶつぶつ何か言っている。
「休暇。普段絶対に被らない休暇が明日から一週間も出た。どこに行く?竜を借りれたからひとまず飛ぶか。」
「グッ グライド?!ちょっと待って!!」
先ほどから状況についていけてない。真っ赤になってグライドを止める。
その場でピタリと止まったグライドが真摯な目でアニスを見た。無言でじっと見つめられアニスはたじろぐ。心臓がうるさいくらいどくどく言っている。
しばらく見つめあった後、アニスが根負けして下を向いた。なんなんだこの男は。視線で射殺されるところだった。
ふぅと息をついてグライドが再び歩き出した。
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