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王の陥落編
そして時空へ
しおりを挟むそれからレオンハルトは公務がない夜は毎晩ラウエン家別邸に通った。
少女の姿になったディートリントに食事を与え、レオンハルトの膝の上で絵本を読んだり一緒にままごとをしたりして最後にお休みのキスをして寝かしつける。
やっていることは子守りそのものなのだが、見た目は麗しい男女なだけあってただただ甘やかに見えた。侍女達から声なき悲鳴が上がる。
特にレオンハルトの甘さは紳士然としており侍女達のときめきを集めたものだ。
その頃からディートリントの成長が加速し始める。そして——
あの密やかな婚約から四年。十五歳になった少年王レオンハルトの成人と共に婚約が公にされた。相手はラウエン公爵家長女・ディートリント。御歳十五歳。
女神の寵愛を一身に受けた賢くも美しい王と眩い蒼銀の少女の婚約で国中が熱狂した。それほどにこの婚約は国民を魅了し沸かせた。
あれからディートリントの成長が止まらなかった。
レオンハルトを追いかけるように歳を重ね、とうとう追いついてしまった。兄のジークヴァルドはまだ五歳。つまりこれはディートリントのみのスキルだった。
ディートリントのスキルは『魅了』『魔狼』そして『成長加速』。
このスキルに気がついたレオンハルトは大笑いした。なんというチートスキルだろうか。
年齢があわないのでディードリントは公爵家の養女の態を取った。これも仕方がない。
こうなることをひょっとしたら予想していたのではないか。アレックスがメリッサに尋ねると、なんとなくですが母親の勘でしょうか、と答えた。
ディートリントがレオンハルトの正妃になる。アレックスの心中は複雑だ。
十四の時に初めて目見えた少年王。その苛烈な様に真の主だと忠誠を誓った。バースがあの男に誓う忠誠の意味をあの時悟った。
あれから九年。まさかこのような縁が結ばれるとは。
メリッサに似た娘を可愛がりまくる予定だったのだが、たった五年で手放すことになろうとは思いもよらなかった。
でもあのレオンハルトにはディートリントが良いのだろう。『魔狼』であるあの娘なら、あの王についていけるのだから。
魔狼になりっぱなしのジークヴァルドと比べ、普段のディートリントは『魔狼』を使わなかった。その必要もない。
おそらくその姿を見たのはレオンハルトだけだろう。蒼く輝く銀色の美しい『魔狼』であろうその姿を。それでいい。
成人とともに王名をユーリウスに改めた黄金の王は婚約者の蒼銀の頭を愛おしげに撫でる。ディートリントは恥じらって俯いた。
「これからもよろしくな。ディート。」
「はい。よろしくお願い致します。レオンハルト様。」
たおやかな見た目とは裏腹にディートリントは芯が強い。
この四年の間、怒涛の教育を受けた。港町バベルの副官アニスに弟子入りし行政から教養、淑女教育を徹底された。猫も何匹か仕込まれたようだ。母メリッサからも護身術の手解きを受けたと聞いた。
得手不得手もあったが必死に頑張っている姿をレオンハルトは知っていた。
これから一年後の婚礼に向けて妃教育が施される予定だ。そんなもの取っ払って今日にでも婚礼をあげたいが諸々の準備もありもう一年の我慢となった。だが当初の十四年待ちよりずっといい。
成長の過程でディートリントの時空魔法はあやふやになった。
もともと赤ん坊の勘で飛んでいただけだったのだ。一人では飛べずレオンハルトの導きがあれば飛ぶことができる程度になったがレオンハルトはそれでいいと思った。
小鳥が一人でどこかに飛んでいってしまうのは許せなかったから。
今日は婚約発表の日。この日ぐらい二人きりでゆっくりしたい。そう思い予定は入れなかった。
さて、この小鳥とどこに飛ぼうか。
肩を抱けばディートリントがレオンハルトに甘えるように寄りかかった。
「飛ぶよ。ついておいで。」
「はい、レオンハルト様。」
そして二人は時空の中に消えた。
王の陥落編 完
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