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外伝:元帥になりたい!!
アレックス
しおりを挟むアレックスはため息をついた。
約束の時間なのにジークが帰ってこない。
グライドをつけたのにこれでは意味がない。まああれに引きずりまわされているのだろう。
アレックスは二十六歳になっていた。
アレックスとメリッサの間にはあれからさらにもう一組男女の双子が生まれた。しかし五歳になったこの双子は『魔狼』を引き継いだ割には至極真っ当だった。
姉の赤毛のエレオノーレは今頃メリッサの側で絵を描いているだろう。親が言うのもなんだがなかなか上手い。俺の画才を引き継がなくて本当によかった。
最近はメリッサの武勇伝に憧れてハンターになると言っていた。母の装備を譲り受け、兄弟たちと森を駆け回る姿はまさに探索者だった。
弟の銀髪のフェリクスはバランス型だ。本の虫で書庫から出てこない日もあるが最近始めた武術も筋がいいと思う。そしてとても冷静で智略家だ。今朝はジークとシャムロック領に赴いたが帰ってこないところを見るとダリウス卿とチェスでもしているのだろう。
まあジークとディートが規格外すぎたのか。
ジークはディートと違い普通通りに育ってはいるが、なかなか扱いが難しい。
良くいえば素直、悪くいえば無自覚すぎる。
『魔狼』の体質で破格の能力をすでに身につけているが、それにあぐらをかいて欲しくない。もっと高みを目指せという意味で、お前はまだまだ弱い、と言い続けたら本当にそうだと思い込んでしまった。
力が強すぎるから警告の意味で、殺生はだめだ、といえば魔獣たちを殺さずに従えるようになった。
当主は使用人たちを大切にしなければならない、といえば恐ろしく家族のように仲良くなってしまった。距離感が近いというか、人好きする性格が過剰になってしまったようだ。
言いたかったのはそういうことじゃないんだが。
何か言えばまた変な解釈をしそうだ。どうしたものか。
公爵家嫡男だし対人対策でそろそろ本格的に鍛えなければとは思っている。
筋はいいのだ。しかしあの無自覚をさらに武装させるのはなぜか恐ろしい様な気がした。
だから性根を叩き直すべく陛下に鍛えてもらったのだが。俺にしたように圧倒的な実力差で無慈悲にやってくれて構わない、と言ったのにかえって懐かれたらしい。一体何をしたんだろうか。
まずはあの無自覚で幼い性格を矯正しなければならない。
八歳だった俺はもう少しまともだったように思うのだが。
今日のように約束をしてもすぐ忘れてしまう。約束は守れと叱りつけてもごめんなさい!と元気よく言われてはそれ以上きつく言えない。そしてまた忘れてしまう。
悪気がないのだ。なぜこんなに記憶力がないのか。将来当主になる上で問題ではなかろうか。本当にやりにくい。
いっそのこと教育はバースかグライドに丸投げしてしまおうか、とも思うが『魔狼』の相手は厳しいだろう。
王宮にいるあの男は論外だ。妙なことを吹き込みまくるだろう。絶対ダメだ。
陛下がもっと暇だったら押し付けるのだが。あいつの性根を叩き潰し、言うことを聞かなければどうなるか一から陛下の恐ろしさを刷り込むだろう。何より実力的にも安心だ。
嫌がるだろうが義理の息子だからとゴリ押しすれば苦い顔をして引き受けそうなのだが。
—— いや、悪くないかもしれない。本当に。
「バース、あれの迎えを出せ。グライドを付けたがやはり手に余ったか。」
「まあ坊ちゃま相手では仕方がございませんな。」
バースがニコニコと応じる。こいつもジークに骨抜きか。そう言う意味では使用人全員そうだ。
あいつは無自覚に愛される。まったくもって厄介なやつだ。
アレックスはため息をついて微笑んだ。
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