【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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王の陥落編

時空魔法

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 ツェーザルが侍女に問いかけた。

「リーヴァ。時空魔法をディートの前で使ったことがあったか。」
「はい。ございます。」

 レオンハルトは改めてロザリーを見た。こいつはアレも使えるのか。まあ日常使いする代物ではないが。
 始祖王の『記憶』ではリーヴァのことはとてもあやふやだ。相当な術者で『戦乙女』であることくらいしか残っていない。シグルズの配下だったからだろうか。

「時空魔法‥‥とはなんでしょうか?聞いたことありません。」
「古代魔法の一種だ。書に表す事なく一子相伝で伝えられる秘術中の秘術。今の世界では途絶えてしまっているな。今その侍女が使った術がそうだ。」

 レオンハルトは『記憶』をさらう。習得者は逸材中の逸材。習得自体も難しいが何より適性がないといけない。始祖王もこれに似た術を施したが、完全に成功させることはできなかった。
 千年前、今よりも高度に発達した魔術が多数あった。人類の叡智、その最高峰、至宝と呼ばれた時空魔法。だが魔素の大量噴出で全て失われた。

「その名の通り時と空間を操る。ディートが陛下のお部屋にいたというのなら、空間をすり抜けたことになる。結界は『魔狼』の力ですり抜けたのだろう。素晴らしい才能だ。」

 ほくほくと微笑んで頭を撫でるツェーザルをディートリントは不思議そうに見上げた。

 結界をすり抜けどこまでも走るジークヴァルドをロザリーが時空魔法で探しに行き帰還する。それを見ていたディートリントがその技を盗み脱走する。天才だ。見ただけで真似できるものではない。
 ロザリーがディートリントの前にひざまずく。ディートリントは小首を傾げた。

「ディートが成長しているのだがわかるか?」
「時空魔法の一種です。筋が良くていらっしゃいます。不安定なところがございません。」

 アレックスが不安げに問いかけた。

「本当に成長してしまったのか?」
「いえ、核たる部分は赤ん坊のままです。術が解ければ元に戻ります。」

 ロザリーがディートリントの額に触れると、しゅん、と少女の姿が消えて服の中に赤ん坊の姿が現れた。アレックスが安堵の息をついてディートリントを抱き上げた。あの少女がディートリントだと言われても実感はなかったのだろう。

 なるほど。会話をしないのもあの生活能力のなさも赤ん坊だったからかと納得した。しかしこのままだとこの赤ん坊はやりたい放題になる。誰かが止めねば。
 レオンハルトの好奇心も疼いた。

「ロザリー、始祖王は時空魔法の適正はあったか?
「ございました。」
「俺にもあるか?」
「ございます。」
「ならば習得できるだろうか。」
「問題ないかと。」
「そうか。ツェーザル。後のことは任せる。」

 ツェーザルはにこりと笑った。

「とうとう時空魔法まで極められますか。御心のままに。公務は承りました。」
「ロザリーを借りたい。アレックス、構わないか?」

 呆然としていたアレックスは我に返った。

「構いません、と言いたいところですが、双子の子守がいなくなります。特にジークの脱走が酷くロザリー以外対応できません。」
「それはやりようがある。解決すればいいか?」
「何か手があるのですか?」
「結界をすり抜けられなければいいのだろう?明日までに魔道具を仕上げよう。」

 アレックスはディートリントを抱いて帰っていった。時空魔法は自身にのみかけられる。他者を連れては行けない。
 公務は全てツェーザルに任せたので、レオンハルトはその日は魔道具作りに費やした。



 翌朝、レオンハルトは右手で頭を抱え嘆息した。

 ディートリントがまた隣にいる。しかもまた裸の少女の姿で。艶やかな銀髪がベッドに広がっている。

 至宝と呼ばれた幻の魔術なのに、いとも簡単に飛んでくるな。まさに小鳥か。
 裸はわざとなのか?ラウエン家では服を着せてないのか?そもそもこれ自体、奴らの仕込みじゃないだろうな!何でもぶち込んでくる家風のラウエン家ならあり得そうだ。腹の底からじりじりと怒りがこみ上げてくる。

「ロザリー!リーヴァか!どっちでもいい、出てこい!」

 ガウンを羽織りながら苛ついたレオンハルトの声にロザリーが現れた。無言で膝を折る。

「ディートがまた来てる。ラウエン家は何をしていた?答えろ!」
「時空魔法は結界では押さえ込めません。」
「手がないということか。なぜ裸なんだ?」
「意識の問題かと。そう意識すれば着衣のまま飛べます。」

 赤ん坊だからその意識がない、と。最悪だ!
 レオンハルトは苛立ち、前髪をかきあげロザリーにペンダントを渡す。

「『鉄壁』の魔道具だ。ジークにつけろ。ジークに張られた結界と場に張られた結界同士は干渉してすり抜けられない。これで森にも入れないはずだ。試して脱走しなければ今日から時空魔法を始めたい。それとアレックスをディートの迎えによこせ。」
「畏まりました。」

 ロザリーを返してからディートリントの魔法を解かなかったことに気がつく。仕方ない、アレックスがここに来たらまた呼ぶか。

 そうしてアレックスが王宮に到着するまでの間、レオンハルトはため息をつきながら目が覚めた銀髪の少女の世話をした。
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