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王の陥落編
密室の事件
しおりを挟むその翌朝、事件は起こった。
朝いつものようにレオンハルトが目を覚ますと、目の前に白いものがあった。よく見れば白い手。当然自分のではない。たっぷり十秒ほど硬直しレオンハルトはがばりと起きた。手がある。なんでだ?
隣に少女が寝ていた。歳の頃は十から十ニ歳くらい。蒼みがかった長い銀髪の美しさが目につく。寝息を立てて寝ているがその顔も愛らしい。
レオンハルトは目を瞠る。魅入られて視線を外すことができない。見たことのない少女、メリッサに似ている。瞳が蒼ければそっくりだろう。メリッサの縁者か?なぜここに?
レオンハルトの視線に気が付いたのかのように少女が寝返りを打つ。そしてその身に何も纏っていないことに初めて気がついた。華奢な白い肩が、むき出しの背中が見える。
レオンハルトは声を出しそうになり手で口を押さえる。ここはレオンハルトの寝所。レオンハルトも裸。これではそういうことをした後のようではないか。目元に朱色がさした。
身に覚えがない。というか初めて会った。誰だ?なぜ?どうして自分は目を醒さなかった?そしてあることに思い至る。
レオンハルトはベッドから出てガウンを羽織り、呼び鈴の紐を乱暴にひく。しばらくして従者のテオドールが現れた。
「おはようございま‥‥」
そう言いかけたテオドールを部屋に引き込み扉を閉め、胸ぐらを掴んで扉に押しつけた。テオドールが目を見開いた。
「陛下?!」
「テオドール‥お前だけはこういうことをしないと信じていたのだがな!!」
「何のお話でしょうか?」
「まだしらを切るか!!」
主の剣幕にテオドールは訳がわからないように言い淀む。レオンハルトは苛ついて詰問する。
「お前が仕込んだんじゃないのか?!」
「ですから何をですか?!」
ごそりと音がして少女が身を起こした。目が覚めたようだ。ぼうっとこちらを見ている。二人がそちらに振り返る。テオドールが目を見開き驚いたようにレオンハルトに問いかける。
「陛下?あのご令嬢はどなたですか?」
「あぁ?!お前の仕込みじゃないのか?!」
「はぁ?!そんなこと致しません。そんなラウエン家のようなことは!」
その揶揄もどうかと思うが仕込みではなかったのか?
少女が起きたことで肩の掛け布がはらりと落ちる。ますます見てはいけない格好になるが、本人は気にした風でない。あわててレオンハルトはベッドの天蓋を閉じた。テオドールの視線が痛い。
「言っておくが俺は知らん。」
「そんなわけないではないですか!ここどこだとおっしゃいますか?陛下の寝室ですよ?部屋を間違えた程度でたどり着ける場所ではありません!」
まったくもってその通りだ。
レオンハルトの自室は応接と続き間、居室含め四部屋。廊下に面した入口には衛兵が立っている。四階にあるこの部屋の窓の外も同じだ。王の自室には古より強力な結界が張られ、寝室にはレオンハルト自身も結界も施している。事実上ほぼ密室。
そう簡単には入れない、‥‥王が招き入れない限り。確かに言い訳が苦しい。
「とにかく知らん。誰か手引きしたものがいないか調べろ。」
「手引きは不可能です。ですがそうおっしゃるのでしたら調べてはみます。」
当たるとすれば警護のものだろう。テオドールは部屋を辞した。
一人になったレオンハルトはここで、天蓋を握ったままはーっと長い息を吐いた。
ああは言ったがどうせ調べたところで何も出ない。手引きは不可能だ。このままでは自分が引き込んだことになる。名前も知らない少女を。
下手をしたら彼女は気を回した周りのものたちに側妃にでも祭り上げられるかもしれない。どこぞの貴族の養女に出すというおまけ付きで。欲に塗れた奴らならやりかねない。その騒動がとてつもなく面倒だ。側妃など置く気もないのに。
レオンハルトはふと、少女の顔が気になった。メリッサにとてもよく似た少女の顔が。
どこかで会っているような気もする。それもごく最近。いつだろうか。
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