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王の陥落編
発端
しおりを挟むあの騒動から半年。レオンハルトは十一歳になっていた。
レオンハルトはラウエン家別邸にいた。ここは双子の部屋。椅子に腰掛けベッドの中ですやすやと眠る双子をじっと見下ろしていた。
双子のジークヴァルドとディートリントを。
発端はディートリントに『魅了』をかけられたこと。そこからレオンハルトのスキル『多重記憶』が発現した。そしてハイドが警告をした。あの赤ん坊に気をつけろ、と。
「ただ赤ん坊と言われてもどちらのことだかわからない。あの研究馬鹿ももう少しハッキリと情報を出してくれればよかったのに。」
レオンハルトはため息をついて独りごちた。
気をつけろと言われても狙われる心当たりがない。俺の命か?王位か?赤ん坊が欲しがる様なものを持っていないぞ。
魔狼姿のジークヴァルドの首根っこをつまみ上げる。ぐっすり眠っているのでされるがままだ。
口の中に歯が見えたので、好奇心から口を開いて覗いてみる。ほう、魔狼の口はこうなっているのか。
ジークヴァルドはふがふが言ったが目覚めない。母メリッサの体質を受け継いだのか、魔狼は一度眠るとなかなか目覚めなかった。
兄のしっぽに叩かれて妹が目を覚ました。あくびをしうーんと伸びをする様が愛らしい。
生後一年が経っていた。ジークヴァルドはほとんど魔狼の姿。人の姿をレオンハルトは見たことがない。起きればボールを口に咥えてそこら中を走り回っている。サイズこそ中型犬だが、まさに仔犬だった。
ディートリントは大人しい。もう一歳なのに座ることも這い回ることも立ち上がる気配もない。そろそろ何か喋れてもおかしくないがそれもなかった。首元の『魅了』封じのペンダントを手に取る。こんな大人しい赤ん坊に『魅了』をかけられたことがレオンハルトは信じられなかった。
レオンハルトをじっと見上げるディートリントの鼻をくすぐるとくしゅんとくしゃみをした。
どこにでもいそうな赤子。この二人のどこに気をつけろというのか。
「陛下、そろそろ一時間になりますが、お茶でもいかがでしょうか?」
メリッサが気をつかって声をかけてきた。双子をいじっていたらもうそんな時間か。早いものだ。
「いや、帰る。邪魔をしてすまなかった。」
子煩悩なアレックスがいたら大変なので不在のところを来ていたのだ。そろそろ帰ってくるかもしれない。
ハイドの警告は杞憂だったか。
たまたま手に取っていたディートリントの左手に、なんの気もなく別れのキスを落とす。その手が赤くなったのをレオンハルトは見逃していた。
ローブを纏い深めのフードで太陽の如く眩い金髪と顔を隠した。
この濃い金髪と美貌はこの国では一人だけのもの。まだ十一歳であったがそれはとても人の目を惹きつけた。国民の人気取りにはとても役立っていたが、晒して歩けばすぐに身元がばれる。本人にしてみれば悪目立ちしすぎだった。ローブなど面倒ではあったが仕方がなかった。
レオンハルトは窓から飛び降り『魔猊』の足で王宮へ帰っていった。
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