【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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二人の王編

そして未来へ

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 レオンハルトはゆっくりと瞼を開けた。

 そこには見慣れた面々がいた。なんだか随分時間が経った様に感じられた。アレックスが涙目でレオンハルトの手を取っていた。

「‥‥アレックス‥」
「‥‥陛下‥‥よかった‥‥」

 そう言い顔を伏せるアレックスの血で汚れた手を握り返す。うまく力が入らない。魔素が枯渇した時と似ていた。
 アレックスの両手の傷は『魔狼』の力で塞がっていたが、手や腕についた乾いた血から傷の壮絶さが窺える。

 レオンハルトはアレックスの首の絞められた跡を見た。レオンハルト始祖王がアレックスを殺そうとしてこの手で絞めた跡。だがツェーザルが止めてくれた。約束を守ってくれたのか。

「ご気分はいかがですか、陛下」
「‥‥ツェーザル‥」

 レオンハルトを横抱きに頭を撫でるツェーザルを見た。
 みんな無事だったが、ひどい有様だった。それ程に始祖王が暴れたのだと申し訳なく思った。
 だがあいつも消えた。これで全て終わったのか。安堵で瞼が重くなる。

「お辛いですな。ひとまず邸に戻りましょう。アレックス、陛下を頼む。」

 ツェーザルはアレックスにレオンハルトを渡し立ち上がる。そしてオベリスクがあった場所に立つロザリーに歩み寄った。ロザリーはただ虚空を見上げていた。

「すまなかった。またお前に手を下させてしまったな。」

 ツェーザルの言葉にロザリーは黙って首を横に振った。

 封印碑を壊すだけではだめだった。ブリュンヒルデがいないことを始祖王にわからせなければならなかった。しかしそれはロザリーにも酷なことだった。かつての主を二度失ったのだから。

「これでよかったのでしょう。束縛を解き放つためには。」

 ロザリーの左目から雫がこぼれた。想いが千年前に馳せる。

「束縛‥‥そうだな‥‥」

 ツェーザルは目を閉じた。この男の長い旅も終わったのだろう。
 再び目を開けツェーザルはロザリーを見る。それはラウエン家先代当主の顔だった。

「‥‥これからもメリッサの傍にいてやってくれ。」
「はい、我が君。」


 千年前、命じられるまま主を封じた秘術の反動で魔素に取り込まれた後、ロザリーの主はブリュンヒルデからメリッサの母シシーリアになった。
 束縛された一千年の時の中、久遠と思われたただ孤独しかない深き闇の魔素からリーヴァを救い出し、ロザリーと名付けた幼いシシーリアに。

 そのシシーリアの命が消え、ロザリーの心は闇に塞いだ。あの久遠に比べれば口惜しいほどに呆気なく終わってしまった幸福の時間。
 だがダリウス卿に請われ新たにメリッサを得た。主がメリッサに変わっても、これからも付き従っていくことだろう。

 ロザリーは青く澄み渡る空を見上げた。

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