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二人の王編
始祖王
しおりを挟むアレックスは愕然とした。間に合わなかったのか?
レオンハルトから立ち込める闇の魔素を見て血の気が引いた。
レオンハルトが走り出した後をすぐに追ったが振り切られた。あれが陛下の本当の力?それとも始祖王の?
「始まったか。」
アレックスは傍らのツェーザルを見る。
この男、父なのに昔からわからなかった。アレックスを我儘で振り回すくせに、肝心なところは押さえており大ごとにはならない。家族にはあんなにベタベタなのに、笑顔で残忍な判断を下す腹黒。思えばその傲慢さこそ王たる所以だったのだろう。
「陛下の中の狂気を解き放つ。陛下のご意志だ。そもそも内に秘めておけないものだ。お前はあれを止めろ。バースに援護させる。あれに触れられるのは『器』であるお前だけだ。」
「簡単に言ってくれる。あれは手強いぞ。」
立ち上がる魔素の勢いでわかる。あれはバケモノだ。
「陛下の意識がお戻りになるまでだ。それまで始祖王から陛下の『器』を守りきれ。今この国はあの方を失うわけにはいかないからな。」
「—— 陛下のこと、いつから知っていたんだ?」
昨日今日のことではないだろう。この男はずっとレオンハルトを見ていたのだから。
「即位される一年前にスキルが発現した。『聖戦』は始祖王にのみ許されたスキルだ。その時に先代王に陛下の事を頼まれた。身の内の狂気はおそらくもっと前からいただろう。」
即位半年後にレオンハルトはアレックスに命じた。懐刀になれと。覚悟を決めろと。その時から今日のことを予測していたというのか。あれから四年近く、いやもっと前からずっと一人でその身に秘して抱えていたのか。アレックスは唇を噛んだ。
「グライド。」
「おう、上げるぞ。」
アレックスの背に手を置いてグライドが『防御強化』と『障壁』をかける。
ゆらりとレオンハルトが、始祖王が振り返った。黒い目がアレックスを見た途端、どす黒い魔素が体中から吹き出す。姿はレオンハルトなのに魔素に揺らぐその姿は始祖王のものだった。
「シぐルズぅっ!!」
アレックスがシグルズの『器』だとわかったようだ。
「だいぶお怒りのようだ。俺もメリッサを取られたらああなるだろうな。相手を八つ裂きにしたくなる。」
「同感だ。」
「あれに触るなよ。援護だけでいい。」
「任された。」
グライドは一歩下がった。始祖王から大量に漏れ出した魔素がアレックス達を襲う。重い魔素だったがバースの展開した『鉄壁』がそれを阻む。
アレックスが始祖王の前に出る。
「——ルズぅゥ!!」
始祖王が魔素の刃を雨のようにアレックスに飛ばすがそれを背後のグライドの『鉄壁』が弾く。アレックスが始祖王に拳を入れるが始祖王を覆う重い魔素に弾かれる。構わず蹴りを入れて力で押し込めようとする。
「くっ堅いっ」
「若!きますぞ!」
始祖王が天に右手を突きあげる。その頭上に空を覆い尽くす魔法陣が展開された。雲がたちこめ稲妻が走る。魔術も使うのか。アレックスは舌打ちした。
「雷撃の古代魔術『雷神』だ。一撃でも受ければ命がないぞ。」
ツェーザルの声にバースが『鉄壁』を幾重にも重ね掛けする。
空一面に轟く黒き電撃が大量に二人に降り注いだ。眩い光と轟音が轟く。バースの『鉄壁』は雷に貫かれ破壊されるも辛うじて二人を守った。
始祖王が魔素で曲刀を作りアレックスに斬りかかる。見たことがない演舞のような太刀筋にアレックスが翻弄され防戦になるもグライドが『鉄壁』で曲刃を弾き援護する。
「へぇ。いい太刀筋じゃん。とんでもねぇ王様だな。」
「やり合ってみるか?剣越しなら相手できそうだぞ?」
「ご冗談を。」
グライドが苦笑いする。攻撃を加えるも魔素が邪魔して決定打にならない。そして何より強い。これを止めるのは厄介だ。
「アレク!なんで『狼化』しない?」
「あれは使えない!今はまだだめだ!」
始祖王の曲刃をかわしながらアレックスは叫んだ。
その時始祖王の動きが止まる。一気にあたりの魔素をかき集めだした。あれは———
「来るぞ!退がれ!!」
アレックスが手を払いグライドを後ろに弾いた。始祖王からどす黒い闇が溢れ出した。それは炎のように立ち上り舐めるように地面を進む。
アレックスが一気に黒炎に巻き込まれた。
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