【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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二人の王編

シグルズ

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「今から申し上げることは記録に残ってはおりません。ですが事実です。今から千年ほど前にこの森に古代魔法で封印が施されました。あの封印碑はその名残りです。」

 記録にないのに事実?この男は何を言っている?
 レオンハルトが懐疑の目を向けた。

「当時二人の王がこの地を治めておりました。双子の王。兄である王家の始祖王・グンターと弟のラウエン家初代王•シグルズ。兄は日輪の王、弟は月輪の王と呼ばれておりました。双子の王のもと国は潤っておりましたが、ある日魔素が大量に発生したのです。」

 魔素は国を食い潰す勢いで大地から噴き出した。人を狂わせる魔素で国は壊滅した。民を守るため魔素を封じ込める魔術を展開するもその勢いに砕かれる。それを繰り返していた。

「そして最後の秘術を編み出します。『核』を封印碑に封じ込めることで魔素を抑え込む秘術です。これにより魔素を抑え留めることができました。始祖王はこの秘術を拒絶、弟王は賛同。そして弟王の強行の元に術が施されました。激昂した始祖王と弟王は決裂、こうして王家とラウエン家は分かれたのです。」

 レオンハルトはさらに怪訝な顔をする。この男の、話の意図が見えない。今する話なのか?アレックスも同じ顔をしていた。
 ツェーザルは感情を殺しただ淡々と話す。昔話を語るように。

「その秘術には副作用がありました。その『核』と繋がりが深かった二人の王と術者三人に呪いがかかったのです。当時は奇跡と言われましたが、敢えて呪いと言いましょう。それがラウエン家の『狼化』です。」

 呪い、そして『狼化』という言葉に、視線を外していたアレックスがツェーザルを見た。

「なんだって?」
「あれは呪いなのだ。森から離れられないのはそういうことだ。特に『魔狼』になれるお前はその束縛から逃れられない。」

 ツェーザルはここでフッと息をついた。その場に男が五人いたが、静寂が訪れる。

「三人の術者のうち二人はその場で狂死、残りの一人は魔素に取り込まれ行方がわからなくなりました。だが秘術は成功しました。だからあの森は魔封の森と呼ばれているのです。魔素を封じた森だと。」

 しばしの沈黙ののち、レオンハルトが問うた。とても、とても嫌な感じがする。

「——— 始祖王の呪いはなんだ?」

 レオンハルトの鼓動が速くなる。この男の言っていることが信じられない。だが事実だとなぜかわかる。身の内でハイドが肯定する。
 こんな話をするこの男は何者なのだ?
 レオンハルトに問われ、ツェーザルは顔を伏せた。

「わかりません。始祖王は封印が成就した翌日に自害しました。子はおりません。始祖王の血はその時に途絶えました。」

 一同は絶句した。始祖王の、王家の血が途絶えている?しかも初代で?
 その空気に流されることなく語りは進む。

「始祖王の遠縁のものが玉座を継いだのでしょう。現在の王家に呪いは受け継がれておりません。ラウエン家は子供も呪いを受けたため、そのまま呪いが受け継がれました。以降千年近くその意図も忘れ『核』に縛られ、ラウエン家は森を守り続けてきました。」

 ツェーザルは再び深いため息をついた。語る言葉は懺悔ざんげのように重くなった。

「始祖王は自害した際に古代魔法を展開していました。あの封印碑の下にはその術の跡が残っています。陛下もご覧になられたでしょう?あの温室にあった魔法陣を。あれは始祖王の狂気と執念です。『核』を取り戻すための。」

 あった。見たこともない魔法陣のようなもの。そしてどす黒いみがふたつ。あれは———

「始祖王は千年後に復活する術を施しました。千年後には魔素が落ち着き『核』が封印碑から解放されると知っていたから。そしてそれを止めようとした弟王を魔法陣上であやめ、始祖王は自害しました。二人の王は術に乗り千年後に復活したのです。—— アレックス。」

 ツェーザルがアレックスを見た。アレックスがびくりとする。信じられないものを見る目でツェーザルを見た。

「—— 嫌だ、聞きたくない。」

 アレックスがツェーザルを遮る。だがツェーザルは止まらなかった。

「お前は初代の、シグルズの生まれ変わり。その体は初代当主の『器』だ。だから『魔狼』になれる。『威圧』はシグルズに許されたスキルだ。」
「やめろ!ちがう!そんなはずっ」

 ツェーザルがアレックスの両肩を掴んで見つめる。運命さだめから逃さないように。

「拒むな。受け入れろ。私は初代当主シグルズの『記憶』を、魂を引き継いだ。」

 アレックスは言葉を失った。この男が初代当主シグルズ?
 ツェーザルはじっとアレックスの目を見た。

「『器』はお前に、『記憶』は私に。術が完全ではなかったからバラバラになったのだろう。始祖王は、グンターはあの時完全に狂っていた。」

 始祖王は狂っていた。その言葉にレオンハルトはぞくりとした。ならばこの身のうちにいる狂気は—— 。 ツェーザルがレオンハルトに振り返る。

「陛下もおわかりでしょう。陛下は始祖王の、グンターの『器』を受け継がれています。始祖王の『記憶』もその御身にいますが、陛下の自我がまさったため『多重記憶』のうちの『記憶』の一つとして押し止められていたのです。」

 レオンハルトは目を瞠り震えた。

「その狂気は始祖王です。」
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