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二人の王編
魔封の森へ
しおりを挟む翌朝、竜に乗った男が邸に着いた。
「グライドか、久しいな。直答を許す、顔をあげよ。」
レオンハルトの前に膝を折った男が頭を上げる。公爵家領地ガイアの心臓、港街バベルの守護者グライドだった。探索服を着て全身武装している。濃い蜂蜜色の髪が印象的で記憶に残る男だ。アレックスの招きに応えて副官にバベルの護りを任せ飛竜で駆けつけてきた。
「ご無沙汰しておりました。今回陛下にお供すべく馳せ参じました。」
「ずいぶん化けたな。バース仕込みか。よくここまで防御に特化したものだ。」
「『鉄壁』の二つ名をいただいております。」
アレックスの幼馴染でバベルの管理を分け与えたとは聞いていたが。
防御特化の駒か。悪くない。竜騎士で魔力と防御が高い。聖属性持ちで、身につけた術も相乗効果がある。盾役としても機能しそうだ。まったく、ラウエン家にばかりよくもこんなに人材が集まるものだ。
まじまじとグライドを見やっていれば、思考を読んだアレックスが釘を刺した。
「引き抜きはやめてください。俺の唯一の手駒です。」
「お前のものは俺のものだ。引き抜くまでもない。」
「それはすごい横暴ですね‥」
アレックスが目を瞠り言葉を詰まらせた。
そう言われると確かにそうだな。するりと出たがハイドの世界の言葉か。実際、アレックスのものは俺も普通に使う気でいたのだが。
遠くで何やらメリッサと話しているツェーザルがいた。メリッサに戸惑う様子がある。そしてツェーザルに頷いた。何を話しているんだ?
しばらくしてメリッサに手を振るツェーザルがこちらに歩いてきた。森にはレオンハルト、アレックス、ツェーザル、バース、グライドの五人で入ることになった。
アレックスが道順の説明をする。
「正門から入って封印碑まで最短で二、三時間程度です。バースとグライドは『加速』を持っているので我々のスピードについていけるでしょう。俺が先導します。」
「メリッサは残せよ。」
「当然です。双子の守りを言い付けました。」
魔封の森は結界に囲まれているため、正門と呼ばれる入り口からでしか入れない。飛竜でそこまで飛び、正門から徒歩となる。魔素が濃い森の中を飛竜は飛べないためだ。
封印碑がある森の中央へ道が蛇行しているため人の足では三日ほど掛かる。そこを直線距離で短時間で駆け抜けるのだ。
正門を抜けると、結界内の森は魔素の濃度が一気に上がる。その心地よさにレオンハルトは目を細めるが、普通の人間であれば魔素の圧迫感を感じる程だ。グライドは息苦し気に空を見上げていた。守りの魔道具を身につけても魔素を全て中和することはできない。
「お辛くはありませんか?」
「いや?大丈夫だが?魔素のことを言っているのか?」
アレックスの労るような問いかけに何を今更、という顔で答えれば、アレックスは困惑気な顔をした。
「ラウエン家の人狼でも初めて森に入れば、慣れるまで多少の抵抗感はあるそうです。森は二回目とのことですが、やはり陛下は別格のようですね。自分は『魔狼』なので森は居心地良かったのですが。」
「別邸には何度か通っている。魔素など今更だろう。」
「おわかりになりませんか?この森はその比ではありません。」
そうだろうか?何も変わらない森を眺め自分の体の異変を探ったが心地よさしかなかった。何故か微かな不安がよぎった。
魔封の森はアレックスの庭。勝手をわかっているアレックスが封印碑への道なき道を先導する。まさに獣のようだ。
森をすり抜け崖を降り川を飛び越える。ラウエン家の血があればなんてことないが、バースとグライドには酷な道のりだ。その配慮でアレックスが何度目かの休憩のために足を止めた。
「中心までだいぶ近いです。あと少しでしょう。」
「思ったより早く着けそうだな。」
レオンハルトも初めての道のりだったが獣の血のおかげか苦ではなかった。いっそ気分がいいくらいだ。一方グライドは肩で息をしていた。人の身では無理もない。
「うわー、最近書類仕事ばっかだったからキツい‥‥」
「鍛錬を怠っておったツケじゃな。」
「バース様、本当に人間ですか?夜な夜なアレクの血を吸ってませんか?」
訝って師匠を見たグライドはぽかりと殴られる。五人の中でも最高齢のバースのスタミナは確かに謎であった。
ツェーザルはじっと森を見ていた。封印碑のある方を。やはりあの時のように震えていた。ツェーザルが重い口を開く。
「陛下、お話しておきたいことがございます。」
「今か?」
「おそらく、今が良いでしょう。アレックス、お前も聞きなさい。」
ツェーザルがため息をつく。これを今日何度見ただろう。まだ迷いがあるようだ。倒木に腰を下ろしするりと手のひらで顔を撫でた。
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