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二人の王編
『記憶』
しおりを挟む寝室のベッドに寝かせられツェーザルから無理矢理魔力を流し込まれる。せり上がる不快感にレオンハルトは顔を顰めた。
「気持ち悪い‥」
「横になっていれば良くなる。間に合ってよかった。」
ツェーザルが何度目かの安堵の息をつき、目を閉じた。
おそらくテオドールがツェーザルを呼んだのだろう。母でもアレックスでもないあたりがあいつらしい。頭が回り出して何となく状況がわかった。
ツェーザルがベッドの端に腰掛ける。
「レオンハルト、暫定でいい、宰相の権限をよこせ。しばらく私が代わりに公務につく。」
「いや、俺が‥‥」
「正しく状況を理解しろ。今のお前はダメだ。ゆっくり休め。」
起きようとした頭を易々と抑え込まれる。体力もかなり落ちていた。ツェーザルに力なく頷き、頭を撫でられながらレオンハルトは瞼を閉じ深い闇に‥‥
—— 夢の中のあの部屋に堕ちた。
レオンハルトはふと目を覚ました。どのくらい寝てたのだろうか。傍に座るツェーザルを見た。資料を手にしていたが、起きた気配を感じてかレオンハルトを見て微笑んだ。頭を撫でられる。
「レオンハルト、起きたか。気分はどうだ?」
「だいぶいい。どのくらい寝ていた?」
「憶えてないのか。寝たり起きたりで三日ほどだ。」
レオンハルトは困惑気に目を瞬かせる。
「そんなに長く?記憶が全くない。」
「宰相の仮叙任の手続きもしたが憶えがないか。まああの状態では仕方がないか。」
ツェーザルの頭を撫でる手が気持ちいい。子供の頃からこの扱いだった。そういえば口調も、即位前よりずっと前、子供の頃のようになっていたなと気がつく。名前呼びも懐かしく違和感はなかった。今のツェーザルは王ではなく小さい頃の甥に対する態度だった。
「公務は問題ない。よくここまで一人で組織を整えたな。私はあまりやることはなかった。何かあれば諜報から連絡が来るようにしてある。」
「そうか。」
レオンハルトが即位から四年かけて作り込んだ組織の意図を、この数日で理解したツェーザルはすごいと素直に思った。
ツェーザルは手の資料をサイドテーブルに放りレオンハルトの目を覗き込む。いつになく視線が鋭い。レオンハルトがたじろいだ。
「うわ言を言っていた。夢でも見たか?」
「‥‥見たといえば見た。」
「聞こう。」
話せ、ということか。諸々聞かれただろうから話さない訳にいかない。だがこの男に話してもいいのだろうか。ずっと幼い頃より誰にも漏らさず抱えてきた闇の存在。しばし躊躇ったが、レオンハルトはため息をこぼし腹を括った。
「この間、ディートに『魅了』をかけられた。」
「のようだな。バースから聞いた。」
「多分そのせいで俺の四つ目のスキルが発現したらしい。」
「『多重人格』か?」
『多重人格』ー王族によく出るスキルでその名の通り複数の人格が現れる。このスキルが出ると自我が崩壊するため、皇子に出れば廃嫡、王に出れば廃位・幽閉となる。
「『解析』で見ると『多重記憶』となっている。人格ではなくあくまで記憶、らしい。」
「いくつ居るんだ?」
「しっかり形になっているもので四つ。あとは細かい記憶が散ってる。」
「四つもか‥。それはキツかったな。」
ツェーザルは手で顔を拭った。『多重人格』であれば一つでも自我を崩壊させるに十分だ。
「一つは薬学博士。研究欲と知識欲がものすごい。こいつとは相性がいい。それにどこかの国の役人。憎悪‥というより怨嗟に近いか。全てを怨み呪って部屋に引きこもっていた。あとは多分この国のいつかの王。支配欲が強い。正しく国を治めることに拘っている。最後はぐちゃぐちゃでよくわからない。恐らく破壊欲、いや狂気か。開いてみようかと思ったが、触るなと言われた。」
「誰に?」
「薬学博士に。夢の中ではハイドと名乗っていた。」
ツェーザルは目を瞠る。普通であれば相反する存在である内なるものと対話など不可能だ。
「会ったのか?夢の中で?すごいな。」
「相性が良かったからかもしれない。色々教わった。」
レオンハルトはあれとの会話を思い出していた。
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