【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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二人の王編

双子

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 あの儀式から三年半の月日が流れて現在。

 レオンハルトはラウエン家別邸の応接にいた。
 目の前には苦虫を噛み潰したような顔をしたアレックス。レオンハルトはソファに尊大に腰掛け茶を飲んでいた。

 レオンハルトは十歳、アレックスは十八歳になっていた。レオンハルトの背は伸びたが、アレックスがさらに大きくなったのでこの二人はまだ身長差があった。
 三年半の付き合いの中で、レオンハルトはアレックスの直情を面倒臭いと言いながらもなんだかんだアレックスに目をかけていた。アレックスの方も問題を起こしながらもレオンハルトの命にだけは忠実であった。

 そのアレックスも三年前に公爵家を継ぎ、ラウエン公爵家当主を名乗っている。一昨年結婚し幸せな生活を送っていた。そのアレックスがレオンハルトを胡乱うろん気に見やった。二人だけの時は王と臣下という関係は取り払われている。レオンハルトの意向だ。
 
「陛下、本日はどのような御用で。」
「そう邪険にするな。あまりにも王宮に来ないから来てやったんだ。」
「王宮には先日行きました。何が目的です?」
「ん?そうだったか?」

 レオンハルトがとぼけて見せる。アレックスはそれを忌々しげに見た。

「御用がないなら帰ってください。今頃テオドールが陛下を探していますよ。」
「大丈夫だ、あいつには言っておいてある。ここにくるなら大丈夫と言われた。」

 アレックスはチッという舌打ちが聞こえそうな顔をする。その様子を見てレオンハルトはニヤリと笑う。アレックスがさらに苦い顔になった。

「会わせませんよ?」
「ん?誰にだ?」
「わかってて言ってますね。とにかく会わせません。お帰りください。」
「そうはいかない。今までの貸しを返してもらうぞ。」

 言い合っているところに、侍女達を連れたメリッサが入ってきた。

「陛下、ご無沙汰ぶりでございます。」
「お、メリッサ。元気にしていたか。体調はどうだ?」
「ありがとうございます。この通り元気になりました。お見舞いのお花をありがとうございました。」

 ラウエン公爵夫人•メリッサとにこやかに話す。アレックスとは色々あったがなんとか結婚することができた。反対派をねじ伏せたのはレオンハルトの一括であったのだが。和やかな雰囲気にアレックスが割って入る。

「メリッサ、下がれ。陛下の御手がつくぞ。」

 レオンハルトが目を閉じてため息を落とした。

「まだそれを言うか。そろそろその冗談もいい加減笑えないぞ。」
「でしたら陛下も早く結婚して俺を安心させてください。それとメリッサを呼び捨てにするのもやめてください。」
「なんでお前を安心させるために俺が結婚しなければならんのだ?」

 アレックスはメリッサを隠すように立つ。
 あーあ、こいつもアレだったか。十歳相手に何をやっているんだ。
 ティアもツェーザルも溺愛体質だった。こいつにも出たのなら遺伝とかじゃないだろうな。俺もこうなったらいっそ死ねるぞ。レオンハルトはゾッとした。
 こんなのの側にいない方がいい。さっさと済まそう。

「で?双子はどこだ?」
「だから会わせませんって。」
「いい加減諦めろ。メリッサ、連れてこい。」
「はい、陛下。」
「メリッサ!ダメだって!!」

 半年前、メリッサは双子を出産していた。二卵性の男女だ。焦るアレックスを笑ってなだめ、メリッサは赤茶色の中型犬を差し出した。いや、中型犬サイズの魔狼の赤ん坊だ。

「へぇ、ほんとに魔狼なんだな。すげぇかわいいな。ジーク。」

 アレックスのもつスキル『魔狼』。そのスキルが長男ジークヴァルドにも引き継がれた。生後半年で魔狼に変化へんげできたのも父アレックスと同じだ。

 ジークヴァルドは魔狼の姿で大人しくレオンハルトに抱き上げられる。つぶらな瞳でじっとレオンハルトを見て手をぺろりと舐めた。しっぽがプロペラのようにぶんぶん回る。
 赤茶の毛皮に新緑色の瞳。アレックスの子供の頃の容姿をそのまま引き継いでいた。頭や体を撫でれば目を細めて喜んでいるように見える。

「人にはならないのか?」
「それが気まぐれでして。今日はならない日ですね。」
「ほう、それは残念。また見に来るか。」
「もういいでしょう!返してください!」

 アレックスがレオンハルトの手からジークヴァルドを取り返す。
 あのアレックスが子煩悩とかありえない。こんなに変わるものか?乾いた笑いしか出ないぞ。

 メリッサがもう一人、妹のディートリントを連れてきた。青みがかった銀髪に碧眼はメリッサを思わせる。レオンハルトはそっと膝の上に抱き上げた。ディートリントがじっとレオンハルトを見上げる。

「メリッサにそっくりだな。これは美人になる。初めまして、ディート。」

 ディートリントが目を見開いてレオンハルトに手を伸ばす。その手を取るとディートリントがレオンハルトの指をぎゅっと握った。ディートリントは瞬きもしない。ただじっとレオンハルトを見上げていた。
 その溢れそうな目を見てレオンハルトは何かぞくりとしたものを感じた。

 なんだこれは?背中がざわざわする。耳鳴りがする。圧されるような——

 こっそり『解析』でディートリントを見てレオンハルトは驚愕した。
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