【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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王の懐刀編

ティアとツェーザルとエリス

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 レオンハルトはベッドの上で目を覚ました。その手を赤金ストロベリー・ブロンドの髪の美しい女性が握っている。

「目が覚めたのね、レオン。よかった。」
「‥‥ティア?」

 ティアと呼ばれた女性は目を潤ませてレオンハルトを抱きしめた。
 旧姓ルクレティア・ラウエン。ツェーザルの妹で、先代王に請われ後宮に入ったレオンハルトの母親である。レオンハルトの国王即位で国母こくもとなっていた。
 ここは確かラウエン家。後宮にいるはずの母がなぜここにいる?レオンハルトは混乱して半身を起こした。

「あなた、二日も目を覚さなかったのよ。バースの見立てでは魔素の枯渇による後遺症だと言っていたわ。」

 道理でぼうっとしているわけだ。あそこまで本気を出したのが生まれて初めてだったから反動が来たのか。
 片道三日かかるこの邸に二日目にティアがいるということは『狼化』の身体強化で駆けつけたのだろう。普段頑なに使わないスキルをレオンハルトのために使ったのだ。
 ルクレティアが涙目で言い募った。

「わかっているの?あなたはまだ六歳なのよ?その歳ではラウエン家でも魔素を扱う訓練はしないわ。子供の体に負担になるからよ。もう無茶しないと約束して。」
「わかったティア、約束する。」

 宥めるように言って手を握ると、安心したようにルクレティアは微笑みレオンハルトを抱き額にキスをした。王なのだからと諫めずただただレオンハルトの心配をする。ティアらしい、と思った。

「アレックスと何かしていたようね?彼、おもしろい子でしょ?喧嘩?」
「のようなものかな。」
「どちらが勝ったの?」
「辛うじて俺。」
「フフッ そういう楽しいことは今度私の目の前でやりなさい。」

 目をキラキラさせてルクレティアは笑った。
 そんな母子水入らずの時間に乱入するものがいた。扉がバンと開かれる。

「ティア!帰ってきてたのか!!おかえり!!」
「兄上?!」

 ツェーザルである。この男、昔から妹を溺愛しておりそれは妹が国母になった今でも変わっていない。両手を広げて二人に近づく。

「帰るなら言ってくれればよかったのに。」
「レオンが倒れたんです!そのような場合ではありません!」
「まあティアならいつでも大歓迎だ!おや、レオンハルト、目が覚めたのか!よかった!」

 ツェーザルはティアごとレオンハルトを抱きしめる。母といいこの男といい、過剰な愛情表現は何とかならないのか。

「旦那様。陛下と国母様です。少しはお控えください。」
「エリスもおいで!アレックスも!一緒にぎゅうしよう!」

 ラウエン公爵夫人のエリスが入ってきた。アレックスも背後に控えている。年甲斐もなくはしゃぐツェーザルを見るアレックスの視線が絶対零度だ。まぁ、気持ちはわかる。
 扉の側でエリスとアレックスが膝を折った。レオンハルトの気が滅入った。ここでまで王扱いはまっぴらだ。

「顔を上げよ。ここへは忍んできている。普通にしてくれ。」
「そうよエリス。レオンがお世話になったわ。ありがとう。」
「陛下、ありがとうございます。ルクレティア様、もったいないお言葉でございます。」

 エリスは礼を解いて近づいてきた。アレックスの頭を掴みぐぐっと頭を下げさせる。

「この度はアレックスが大変失礼いたしました。」

 顔は笑っているが相当アレックスにお怒りのようだ。むしろ笑っている方が怖い。ラウエンの家庭内の力関係がわかった。あまり荒立てて欲しくないのだが。

「気にするな、子供同士の喧嘩のようなものだ。」
「そうそう、子供同士よくある‥うぐっ」

 ツェーザルから苦悶が聞こえた。見えないところでエリスから何かされたようだ。エリスは重ねて詫びる。アレックスはずっと下を向いていた。こいつだけ悪者にされるのは忍びない。レオンハルトはため息を落とした。

「公爵夫人、謝罪はいい。喧嘩を売ったのは俺だ。これ以上言われては俺の立場もない。それよりアレックスと二人で話をさせてくれないか。ティアも外してくれ。」

 ルクレティアは渋っていたが、レオンハルトは大人達を退出させた。
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