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王の懐刀編
太陽の王
しおりを挟むレオンハルトは体の中に一気に魔素を取り込む。生けるものを狂わせる魔素もラウエン家の血があれば死に至ることはない。
体内で練って練って魔力に変換する。ここは魔封の森に近く魔素が濃い。体中に力が行き渡り快感でゾクゾクする。魔力は身体強化に変化させる。『狼化』ではないが、強化の効果は一緒だ。魔術ではないため魔素がある限り継続できる強みがあるが体への反動もひどくなる。長くならない方がいい。
レオンハルトは正面から突っ込み、その刹那アレックスの頭を蹴り飛ばした。人狼がよろめいた。頭に手を当ててレオンハルトを見やる。
「意外か?俺だって半分ラウエン家の、獣の血が流れている。つまりお前と同じだ。狼に変化はできないが身体強化は可能だ。——さあもっと、もっとやろうぜ、従兄弟殿!」
レオンハルトが歯を剥いて笑う。力がみなぎる。快感が止まらない。ゾクゾクする勢いに任せ狂ったように拳を膝を狼に叩きこむ。これがラウエン家の獣の血なのか。
『狼化』で防御力が上がっているだろうから一撃一撃は効きにくいが、速度を上げ反撃の隙を与えずコンボでダメージを叩きこむ。人狼が一撃入れればレオンハルトは五撃返した。
ボコボコにされれば精神的にも効くはずだ。さあもっと追い込まれろ!
肩で息をした狼が距離を取りじっとレオンハルトを見た。そして魔素をかき集めて始めた。やっときたか。同じく肩で息をするレオンハルトはほくそ笑み、すでに取り込んだ黒き魔素を体に纏った。
狼はその背を反らして音のない咆哮を発した。
精神系スキル『威圧』。魔力抵抗の低いものはこの咆哮の圧で恐慌または発狂するという。だがレオンハルトには効かない。
狼から発せられた大量の魔素が襲いかかる。しかしレオンハルトから発せられたどす黒い魔素が大波のようにそれを飲み込んだ。その場で見たものがいれば、それは大海のように渦巻く巨大な黒龍に見えただろう。『威圧』は黒龍に巻き込まれて逆にレオンハルトの体内に取り込まれていく。まるで『威圧』を喰っているかのようだった。
それはほんの僅かの間のこと。襲いくるほとんどの魔素を龍が飲みこむように喰い尽くし残った散り散りの魔素が霧散する。
「これで終わりか?」
レオンハルトが薄く笑って問いかけた。
狼は慄き立ち尽くしていた。奥の手の『威圧』が効かなかったのだから無理もない。しかもほとんどが喰われたのだ。初めて見る魔素喰いに信じられないというふうに目を見張っていた。
「なぁ、『威圧』の上位スキルがあるのを知っているか?」
ゆらりと魔素を纏ったレオンハルトは両手を広げて魔法陣を展開する。立ち込める濃い魔素でレオンハルトが揺らいで見えた。レオンハルトは魔法陣からそのまま二人を覆い隠す聖属性の白い最上級結界を幾重にも重ねがけする。
魔術禁止だったがこのスキルはあまり他に見られたくない、周りに拡散させないためにも結界は必要だ。
「見せてやろう。これが俺のスキル『聖戦』だ。」
先ほど飲み込んだ魔素を一気に噴出させる。黒龍が唸りを上げた。
『聖戦』は『威圧』の上位スキル。『威圧』は相手を発狂させるが、『聖戦』は相手を狂わせ支配下に置き手駒にする。抵抗に失敗すれば主のために死ぬまで戦う狂戦士となる。さあ抵抗してみろ!
白い結界をも食い潰し破壊する程のどす黒い黒龍が人狼に襲いかかった。レオンハルトの体内で練って再構築された魔素は重い。黒龍の重圧に潰されながら狼は必死で魔力抵抗する。
『聖戦』は獣によく効く。『狼化』が仇となった。
魔素が霧散したのち、地面に伏せる人狼が残された。どうやら魔力抵抗は成功したようだが狼は動けない。
レオンハルトは狼の首を掴み持ち上げる。体格差で人狼の上半身のみが持ち上がった。
「お前の負けだ、アレックス。」
そしてレオンハルトは力任せに狼を地面にねじ伏せる。狼は目を剥いて黄金の少年を見上げた。太陽を背に立つその姿は輝く王冠をかぶっているようだ。
「誰が主か理解しろ!そして忠誠を誓え!俺がお前の王だ!」
狼は目を閉じ、狼化が解けてアレックスが現れた。意識を失ったようだ。
レオンハルトはここで、はぁーっとため息をついて膝から崩れた。
ヤバい。思ってたよりずっとしんどかった。
なんなんだこいつは!タフすぎるだろ!こっちは体力ない、体格ない、狼化ないでひたすら力押しさせられた。自分の未熟をこいつに知らされたようだ。なんだこの敗北感は。
ふわりと眩暈がする。見える景色が回りだした。あ、これはまずい、魔素の‥枯渇‥。
そうしてレオンハルトも意識を失った。
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