4 / 38
王の懐刀編
上を決める儀式
しおりを挟むテネブラエ王国の中央に位置するラウエン公爵領ガイア。王都ウラノスと対になるガイアは、その半分近くを魔封の森で占められており、遥か昔に魔神が封じられたと伝えられている。
始祖王が神竜を従え、国を滅ぼそうとした黒き魔神を森に封じ込める。誰もが子供の頃に一度は聞かされる御伽噺だ。
その森から垂れ込める魔素は獣を魔獣に変える。人であれば狂わせ最悪死に至らしめる。そのため魔素が満ちる森のほとんどが保護区域とされ結界で守られていた。
魔素が濃い森近くにあるラウエン家別邸。初代当主が森を切り開き建てたとされる謂れは古い。森の中心は特に魔素が濃く、ラウエン家はその血で魔素を取り込み強靭な力に変えて代々森の守りを担う役も負っていた。
その庭にレオンハルトとアレックスが立っていた。どちらも上着を脱いで身軽な格好になっていた。
「お前が勝てば今日俺が言ったことは忘れろ。俺が勝ったらお前はさっき言った全てを丸呑みしろ。魔術はなし。武術のみでスキルは自由に使え。」
「‥‥陛下、流石にこれはちょっとまずいのでは‥‥。」
アレックスに躊躇いがある。まあ六歳児の国王相手だ、当然なのかもしれないが。これでもそこらの六歳児よりは体は大きいのだがな。このままでは先に進まない。仕方ないので少し煽ることにする。
「全力で来い。それともハンデが必要か?」
「ハンデ?ですか?」
アレックスはまた怪訝な顔をする。ああ、言葉がわからないな。そういえば。
「手加減‥というやつか。俺は両手を封じてやろう。これなら互角じゃないか?」
レオンハルトは背中の腰ベルトに両手を突っ込んだ。アレックスの顔がカッと赤くなった。
よし、単純な奴で助かる。レオンハルトは目を細めた。
「—— 参ります。」
組手の型から一気にアレックスが踏み込んできた。思っていたより速い。だが対応できない速さではない。スピードはレオンハルトの方が上だった。
繰り出される拳や蹴りを瞬時に判断してかわす。動きが素直だからかかわしやすい。もっと老練な武道家、バースがこのスピードだったら避けきれなかっただろう。それにまだ躊躇いが見える。
もっと熱くなってもらわなければならないのに。仕方ない。
ずっと避けていたレオンハルトが反撃に転じる。避けた隙に足を使い攻撃を仕掛ける。
足払いをかけよろついたところに蹴りでたたみかける。パワー差はもちろん体格差もある。だからここぞという力点に力を込めてアレックスの腹に回し蹴りを入れた。アレックスはよろめいたがやはり吹き飛ばすことはできなかった。
レオンハルトから距離をとりアレックスは息をついた。目を見張っている。意外だったようだ。
そうだろうな。八歳も年下の子供にやり込められる。力や体格差で優っても技で劣っては面白くないだろう。
「どうだ?バース仕込みであれば条件は一緒だぞ、兄弟子殿?」
「いえ、それだけではありません。父の手ほどきを受けられましたか?」
「いいや、だが柔術と組み手を合わせれば色々できる。そう思わないか?」
アレックスがぐっと押し黙る。ツェーザルの教えをとことん拒むのか。それもいい。あとは無理矢理引き出すまでだ。長くなると体力的に不利になる。だからさらに煽ることにする。
「さあどうする?武術では互角か?両手を封じてやったが足りなかったか?残念だな。」
さぁお前の手の内を見せてみろ。
アレックスの体から魔素が発生する。きたか。ラウエン家固有スキル『狼化』。これを待っていたのだ。
アレックスは魔素を纏いながら変化した。全身黄金の毛皮に覆われた人狼。後ろ足でゆらりと立つ姿は狂化した魔獣にも見える。
魔素を取り込み魔力に変え強靭な力を発揮する『狼化』は王家と一部のものしか知らないラウエン家の秘密のスキルだ。
アレックスは人狼よりさらに魔力が強い『魔狼』にもなれるが戦闘特化ならこちらだろう。
人狼は一気に距離を詰めてレオンハルトに襲いかかってきた。
流石に手封じは無理で咄嗟に手で受け流す。流したはずなのに打撃が重い。いくつか避け流したが、当たってないはずなのに圧にまかれ軽くよろめいたところを殴られた。腕で防御したが簡単に蹴り飛ばされる。これが『狼化』か。
転がって受け身をとったレオンハルトは地に手をついて人狼から距離をとった。狼顔がニヤリと笑ったように見えた。レオンハルトの手封じが解けたからか。
この程度で本当にガキだ。とはいえこれはしんどい。こちらも本気を出すか。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―
碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。
騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。
主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる