【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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王の懐刀編

説教

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 バースがレオンハルトの側に上がり半年が経った。

 レオンハルトはバースから様々なことを学んだ。魔素操作、魔術、柔術、組手、剣術、槍術、暗殺術。そして魔道具、外交、兵法、治政。
 あえて帝王学は学ばなかった。今更だ。時間が惜しい。

「半年間世話になったな。」
「こちらこそ陛下のお傍に置いていただき身に余る光栄でございました。」

 バースは頭を下げる。この男から学んだ最大のことはやはり覚悟だろうか。あの男のためあらゆることを成す覚悟があった。自分の配下でないことが少し悔しい。

「ツェーザルによろしく伝えてくれ。この借りはいつか返すと。」
「承りました。主はそのようなこと望んではおりませんでしょうが。」

 さて、半年で可能な限り身につけた。これであの獣に敵うかどうか。早速試してみよう。



 というわけで、翌日ラウエン家別邸の執務室に窓から乗り込んだ。

 執務室にいたアレックスとバースはあっけに取られていた。
 こういうのは度肝を抜いた方がいい。特に獣には有効だろう。しかしバースまで唖然としたのは意外だった。こういうの慣れているんじゃなかったのか?

「へ、陛下?!」

 アレックスの声が固まる。謁見の時に見られなかった十四歳の表情を見られてレオンハルトはほくそ笑む。

 窓枠から二階の執務室に入る。話に聞いていたが、本当に一人で回していたのか。部屋にはバース以外誰もいない。紙だらけの雑然とした部屋は執務室とは思えない。
 副官さえ、補佐さえいないのか。全然ダメじゃないか。

「バース、誰も近づけるな。」

 手を振ればバースが恭しく頭を下げて執務室から辞した。
 空いていた隙間の埃を手で払い机に腰掛ける。これで座ったアレックスを視線で見下ろす位置になった。アレックスはまだ固まったままだ。

「呼んでも来ないから来てやった。直答を許す。何か言え。」
「‥‥お一人ですか?」
「誰か連れているように見えるか?」
「王宮からここは片道三日かかります。単身ではとても‥‥」
「移動速度が速いのは何もお前やバースだけじゃない。そういうことだ。」

 だが今の王宮でそれができるものが自分以外いないのが忌々しい。レオンハルトは心中で舌打ちした。

「今日俺が何をしに来たかわかるか?」
「‥‥いえ。」
「説教だ。」
「は?」

 アレックスは再び唖然とする。こいつ本当に獣なのか。反応がいちいち素直すぎる。あれか、猛犬が仔犬におどおどするやつか。舐め腐ってやがる。
 レオンハルトは厳威げんいに言い放つ。

「俺の命に逆らうな。ツェーザルの言う事を聞け。バースの教えを守れ。王宮からの要請に応えろ。国に忠誠を誓え。この甘い領地管理をなんとかしろ。まだあるぞ。もっと言われたいのか、六歳の子供に。」

 ツェーザルの下りに反応しアレックスはぐっと堪えて下を向いた。含むところがあったか。

「何か言いたげだな。言え。」
「‥‥‥‥。」
「言えと言っているのが聞こえないのか。」

 重く口を閉ざすアレックスに重ねて詰問した。命に逆らうことは許さないと言わんばかりに低い声で圧をかける。俯いたアレックスは息をついた。

「陛下は六歳の子供ではありません。」
「六歳だ。」
「その、そういうことではなく。こういう時ばかり年齢を使うのは卑怯です。」
「大人達は俺が六歳だと言って侮るが?‥まあいい。ツェーザルの言う事を聞くのが嫌か。」

 アレックスが再び押し黙る。親子ゆえの確執か。面倒だ。レオンハルトは目を細めた。

「まあ性格はちょっとあれだが公爵当主として至極真っ当だ。」
「ちょっと?あれがちょっとですか?!ほいほい安請け合いして全部俺に投げて‥。あの性格のせいで俺はどれだけ苦労したか。当主の自覚ならあいつの方がないんです!」

 がばっとアレックスは顔を上げる。

 お前、今さらっと自分のこと棚にあげたな。

 アレックスはまだ何がぐちぐち言っていたが長くなりそうなのでぶった斬る。この男、どこまでも己が道を行く奴だ。

「父親だろ。そのくらい息子が器を大きくしろ。」
「陛下はあいつの性悪をご存知ないんです!あの悪魔の所業を‥!これは息子である俺にしかわからないんです!」

 レオンハルトはちくりとした。しかしこれは仕方がないことだ。こいつにはそれを言う権利がある。少年王は目を閉じて囁くように呟いた。

「持つ者は持たざる者の気持ちがわからないものだな。」
「は?」
「ガキだということだ。」
「ガキ?とはなんでしょうか?」

 アレックスは素直に問い返す。それにレオンハルトはイラッとした。何故こうも勘に触るんだこいつは?!

「道理がわからない子供という意味だ!親子のいざこざを外に持ち出すな!公爵家嫡男として当主の言うことを聞け!これは俺の命だ!‥‥といってもお前に俺への忠誠がなければ聞けない命だな。」

 レオンハルトは机から飛び降りアレックスに言い放った。

「外に出ろ。どちらが上かはっきりさせようじゃないか。」
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