【完結】少年王の帰還

ユリーカ

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王の懐刀編

少年王の即位

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 君主は愛されるより恐れられるほうがずっとよい。

 マキャヴェリ「君主論」より



 少年王レオンハルト・カイゼル・デ・ヴァールの即位は四年前にさかのぼる。

 当時の王位継承権は第五位。普通であれば玉座にもまつりごとにも関わらない順位だ。王太子は成人しており病に臥しがちな王に代わり即位する準備も進められていた。
 レオンハルトは継承権も低く六歳ということもあり、教育も一般教養程度のものだった。第三正妃である生母と共に後宮で暮らしていたこの時が彼の人生で一番穏やかな時期であった。

 それが一変する出来事が起きる。王が崩御した。
 
 新王擁立で親国王派内で対立が起き、王太子は暗殺。第二、第三、第四王位継承者である兄皇子達も次々に失脚または幽閉された。
 第五位のレオンハルトが王に担ぎ出された理由は、伝えられた王家初代王・始祖王と同じ太陽のような金髪と金色の瞳、それに帝王学を施されていない子供である、ただそれだけだった。

 傀儡かいらいの王を仕立てようと画策した貴族達は、後にその判断を後悔することとなった。



 レオンハルトは激昂げっこうした。

 王位継承権は五位。俺が王になることはまずない。他の兄達はアレだが王太子はまだマシだ。賢政は望めないが国の安寧あんねいは惰性で保てるだろう。
 母が後宮で過ごせるくらいの働きならこなしてみせる。あとは自分は好きなことをして暮らせばいい。

 そう思っていたのに、欲にまみれた貴族達に王に据えられた。六歳の王子など傀儡王にする気満々だ。
 俺ではなく王太子がいただろうに、奴らは傀儡に適していた王太子をしいた。なんて見る目のない、馬鹿じゃないのか。

 群がる貴族達は親国王派とは名ばかりだ。もし俺が言うことを聞かないのなら何某なにがしかの理由で廃位させてまた別の王を擁立するだろう。こんな奴ら如きに使い捨てにされるものか。
 もう即位は止まらない。だから即位するまでは何もわからない六歳の子供のふりをしていた。泣いて怖がる演技までしたが過剰だったか。奴らは疑いもしなかった。

 こうしてレオンハルト・カイゼル・デ・ヴァールは玉座についた。後のユーリウス一世の誕生である。

 そして復讐劇の幕が上がった。



 即位後レオンハルトが最初に行ったことは、自分を擁立した貴族達の粛清しゅくせいだった。
 予想だにしない展開に貴族達は慌てふためく。次々に暴かれる横領や収賄、不法行為の汚職に言い逃れができず、投獄や失脚、追放を余儀なくされる。

 一応親国王派にも王政信者がいた。その者たちは失脚は免れたが、皮を剥くように一枚ずつ権力を削がれていく。
 狂信者こそ逆ギレしたら手強い。名家出身も多い。下手に反抗されるよりは権力をむしり取った後に生かさず殺さず適当に拝ませておくのがいい。そうして名ばかりの大臣職や閑職が与えられた。

 反国王派も驚いた。王自ら後ろ盾を切って捨てたのだ。
 幼いが故の愚行かと侮っていたが、その後その幼き王の苛烈かれつさに恐れ慄くこととなる。



 粛清が終わりレオンハルトは胸がすいたが、即位した以上仕事はするかと議会の設置に動く。今は親政でも議会はあったほうがいい。体制を整えて政が回り出したら玉座は誰かに押し付けるつもりだ。

 レオンハルトは残った親国王派、反国王派、中道派からふるいにかけ、特に領地管理を行なっている者を中心に王宮に呼び一人一人謁見した。
 特に目立ったものはいなかった。皆毒にも薬にもならない。この中から使えそうな何人かを大臣に任じた。

 同時に今までいた大臣で使えないものは資産差し押さえの上で僻地送りにした。ぶくぶくと私腹を肥やし国益を害する寄生虫は容赦しない。つまらないことをする前に速攻潰すに限る。ぬるいことをすればこうなると言う見せしめにもちょうどいい。
 一方で綱紀こうきを守り務めを果たしたものには然るべく褒賞や爵位で報いた。
 大臣達の追放で極寒となった地に撒かれた恩賞という温もりの欠片。極寒であるが故にその欠片はより暖かく輝いて見えたことだろう。

 綱紀粛正の末に王宮を制圧する苛酷なる王か、それともその中でも家臣をねぎらい慈しみを忘れない慈愛の王か。大臣達には幼い王がどのように映っただろうか。

 レオンハルトは双眸を細めほのかに笑った。


 大臣選定後も謁見を進めていたが、少し気になるものもいた。

 ラウエン公爵家当主代行のアレックス・ラウエン。八歳年上で俺の母方の従兄弟に当たる。王家の双子と呼ばれる名家所以か、淡い金髪が王家の血を感じさせる。がガイアの領地管理を全て任せていると聞いたが、十四歳にしては使えるのではないか。血筋なのか、あの男と同じ匂いがする。

 謁見の時も口数は少なく、他の者のように才能をひけらかす素振りもない。むしろ面倒ごとは御免と言わんばかりの様子が伺えた。憮然とした様子も隠さない。
 謁見でその態度であれば、王の逆鱗に触れ無礼討ちにあってもおかしくない。こいつ、馬鹿なのか?呆れを通り越していっそ興味が湧いた。

「アレックス・ラウエン様ですか。あれはすごい方です。」

 従者のテオドールに話を振ってみたが、すごいではなくやはり馬鹿だった。

 一昨年、公式行事に公爵当主代行として出席を求められるが、なんだかんだと言い訳をつけて欠席。
 議会に楯突くのか、と事の真偽を問う議会に召喚されたが、議長の制止を無視して出奔。城内を逃げ回り取り押さえようとした近衛騎士団長らをぶん殴り団長ほか騎士数名が昏倒。
 先代王が仲裁に入ったが、公爵家嫡男でも流石に自由にやりすぎだろう。むしろよく俺の謁見にやってきたな。

 さらに興味が湧いたので再度呼び出してみたが応じない。なるほど。ブレないな。

 公爵家当主代行が来ない。
 ならばと、あの男を呼び出してみた。
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