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050:精霊王の絶叫①
しおりを挟む「これがホントの雨降って地固まるってヤツか?」
「どうですかしらねぇ」
初夜の翌日。朔弥とルキナがエプロン姿でアイランドキッチンに立っていた。覚醒して大人になったルキナの頬が染まっている。もう新婚ラブラブ絶頂な様子だ。
ファウナとニクスが戻った翌日の昼。前日に仕込んであった料理を朔弥とルキナで仕上げている。ルキナはミズキとヒカルの作り出したふわひらエプロンドレスを纏っていた。最初は以前ヴァルナが創ったメイドドレスをリサイズして着たのだが、刺激が強すぎる!と赤面朔弥に止められこのドレスになった。すっかり新婚の奥さんであるが初めてキッチンに立った手元はかなり危なっかしい。
「朔弥できたよ」
「お、うん上手。バナナきれいに切れてるな」
「ルキナも包丁使いたい」
「まだ早い。テーブルナイフからな。気持ちだけでいいって。お手伝いサンキュ」
朔弥が笑顔でルキナの頭を撫でる。頬を染めたルキナは触れてもらって嬉しそうだ。体は大きくても中身はまだ十歳の純情少女である。
目の前で繰り広げられるイチャコラに微笑ましげに目を細めるファウナ。一方で残りの大精霊二人がケッと顔を顰めた。
「あーッなんかイラっとする!腹たつ!」
「リア充ほどムカつくものはございませんわ」
「ここは俺たちのキッチンだ。見たくないならどっか行け」
朔弥の一喝に二人がぶすっと口をつぐんだ。じゅわじゅわととりの唐揚げの揚がる音が聞こえている。
はぁと息を吐いてニクスがルキナを見やった。
「意外だな、ルキナの方がラブラブみたいだ」
「あら、気がつきませんでしたの?最初からでしたわ。私はわかってましたし」
「ルキナずっと無表情だったし?わからんて普通。てかそれならサクヤに教えてやればよかったんじゃね?すっげぇ拗らせてたぞ」
ヒカルの出したお茶を飲んでいたヴァルナは満面の笑顔だ。
「こんなに面白いのにそんなこと致しませんわ」
「ひっで。成長熱の時サクヤ誘導したろ?わざと目を逸らさせたな?」
「あらひどいですわ。サクヤが動揺していたのでちょっとしたお手伝いですのよ。どうせルキナが成長すればちょろサクヤも否応なしにルキナにハマると思ってましたもの。実際そうでしたし」
「そのルキナの成長も早すぎだしな。まだ生まれて十年だぞ?」
「陛下のご寵愛と食事の賜物ですわ」
ファウナが安堵の息をついている。二人の結婚に肩の荷が降りたようだ。
光の大精霊の覚醒には百年かかると思われていた。実際は二ヶ月足らずで完全体になってしまった。まだ十年しか生きていないと考えれば異常成長である。王が料理を作り王妃を育て上げた。色々と前例がない。
「ま、こっちとしては赤んぼができればいっけどな」
「でもあの二人にしては随分少しづつですわ。もっとパーッと」
「パーッとなに?」
ぶすりと顔を顰めた朔弥がとり唐山盛りをドカンとテーブルに置いた。すかさずニクスが唐揚げに手を出した。
「いやぁめでたい!ご結婚おめでとうございますぅ。唐揚げゴチっす」
「心よりお祝い申し上げます」
「ホントうまく纏まってよかったですのよ」
「祝いはいい!言っとくが!元はと言えばお前ら二人のせいだからな?」
「ふぇ?ウヒらがにゃにか?」
「まは、にゃんでふの?」
すでに唐揚げを頬張るニクスとヴァルナに朔弥が苦言を呈する。
「召喚の時!記憶転送無理矢理やってればこんなことにならなかったんだよ!」
「へー?だっへー?あへ王サハがー?あひぃ」
「そこを無理矢理やっちまえばよかったんだよ!あともうちょっとだったんだろ?!こう、問答無用にえいと」
「その点についてはお詫びの言葉も」
「うわぁッファウナさん頭あげてよ!ファウナさんのせいじゃないって!悪いのはニクス!」
「あたひ悪ふなひし」
唐揚げをはふはふ頬張るニクスに朔弥が顔を詰めて低い声を出した。ヒソヒソ声でキッチンのルキナには届いていない。キッチンではルキナが真剣な表情で引き続きテーブルナイフでバナナをスライスしている。
「じゃあなんでにゃんにゃんとかラブラブとか言ったんだよ?!俺が何も知らないのわかってて!誤解すんだろがッ」
「誤解?なんの?」
「俺に言わせんのか?子作り!常世と全然違うじゃねぇか!」
「違わんよ?何も」
きょとんとするニクスに朔弥はん?と顔を顰める。
「にゃんにゃんしないと子供出来ない。それは常世も下界も精霊界も一緒」
「え?」
「昨日の初夜もそうだったろ?光の赤んぼ出来てたから。あれルキナのだろ」
「え?え?」
朔弥の頭が真っ白になった。昨日はルキナと散々イチャついて光属性の子供がたくさん生まれた。だが一線は超えていない。さらにそれ以上があると?
そこを敏感に察知した黒銀の大精霊はあけすけだった。
「‥‥ひょっとしてお前ら、まさかまだシてな」
「うわぁぁッ聞こえない!なんッも聞こえない!」
「あり得ますわね。この二人の組み合わせなら」
ヴァルナの声は冷静だ。その声に朔弥が詰め寄った。
「どういうことだ?!」
「サクヤの超強力な精霊力とルキナの大精霊の力で致さなくても赤ちゃんが生まれたということですのよ」
「な?」
「確かに‥過去そのような王がいたと。触れただけで子を成したと記録がございます」
「ん?」
触れただけで。それは今の朔弥に当てはまる。
えっと?つつつつまり?
「じゃあ致したらすげぇのが生まれんじゃね?」
「まあそうですわね。今でもちょろちょろ生まれてますが、致せばひょっとしたら大精霊を生み出すことができましてよ?」
「まあ!大精霊の誕生ですか?!それは奇跡です!」
性にあけすけな三人が臆面もなく話している。大奥の若年寄りのようである。だが恋愛精神年齢十三の朔弥はそれどころではない。
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