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019:成長熱⑤
しおりを挟むハテナ満載の無限ループの思考でガチガチに固まったまま動けない。未経験の多重事故に脂汗を流しながら完全にパニクっていた。そこへ無慈悲な悪魔が乱入してくる。
「おー、すげぇ、ルキナ喋ってる」
「もうニクスったら、お邪魔してはいけませんわ。ラブラブの真っ最中じゃなくて?」
は?ラブラブ?ラブラブって?
何が?誰が?
微笑むルキナを見やる。やっぱり可愛い。歳の頃は十四、五。もう幼い子供ではない。体が大きくなったルキナは朔弥に抱きついている。夜着で。ベッドの上で。そこを見られた。脳がようやく状況を理解した。驚愕で朔弥の喉がひゅっと鳴る。振り返ればいつものおじゃま虫が二人。
「お前ら!いつの間に?!」
「え?ずっといたけど?何度か声かけたんだがなぁ?ルキナの様子見に来たが取り込んでたか?なんか告られてた?」
「コク?!」
「ルキナ、すっかり元気になりましたわ。よかったですのね。予想より早い回復ですし。しっかり喋れてますわ。ちゃんと成長できましたのね」
ヴァルナがルキナの頭を撫でている。朔弥に抱きついたままルキナもほんのり頬を染め微笑んでいた。
「いつ?お前らいつから聞いてた?!」
「ん?まずは水飲もうな、のあたりからか?」
「最初ッからじゃねぇか!!なんで声かけないんだよ?!」
「だからちわーッて声かけたって。なんであたしらが怒られるんだ?」
怒声を吐く朔弥の肩をニクスが宥めるようにトントン叩いた。
「まぁまぁ落ち着けって、好きって告られただろ?よかったじゃんか」
「違うッこれは好きとかじゃなくて何かの間違い」
狼狽する朔弥にハグするルキナからトドメの凶器が飛んできた。
「サクヤ、だいすき」
「!!!!!」
「ほら、愛されてんじゃんか。別にいんでね?ルキナは王サマの側女だし?」
「だから違ッ」
「サクヤも可愛がってたんだし?一緒に寝た仲だろ?」
「添い寝は看病で仕方なく」
「だよなだよな?うんうん、その言い訳で添い寝して一線超えちまったんだし?この展開は当然手ェ出したんだろ?」
ニヤニヤと笑う黒銀に赤面朔弥が盛大にキレた。
「すすするか!病人相手に!」
「へ?」
「こここ超えてないッ俺は何もしてない!」
「いやいや?ウソだろ?状況的に手出すだろ?」
「お前どんだけケダモノだよ?!」
信じられないとニクスが目を見張る。
「へ?マジで?にゃんにゃんしてない?一緒に寝て?マジでか?すっげぇヘタr‥‥ゲフンゲフン、忍耐強い王サマだな」
「ヘタレで悪かったな!!」
濁されては余計居た堪れない。いっそはっきり言って欲しい。
「何をそんなに怒ってるんですの?別にいいじゃありませんの?」
「別に怒ってないッちょっと色々多発して事後処理に手間取ってるだけだッ」
「ルキナはサクヤを好き。サクヤもルキナが好き。今までと何も変わっていませんわ。そうでなくて?」
冷静にヴァルナに諭され朔弥がはたと気がついた。確かにそうだ。今までと何も違っていない。ちょーっとテイストが違う気もしたがそこは無視して押し流した。
「‥いい?いい‥のか?そうか!いいんだよな!俺も大好きだよルキナ!そうだ!なぁんにも悪くない!ハハハ!ハラ減ったよな?何かメシ食おう?パンがゆ作ろうな!」
どの意味かわからないがルキナに好かれているとわかった。そうと納得すれば朔弥のテンションも上がってきた。ここで深くツっこんでイタいことにもなりたくない。血迷って掘り起こしかけた穴を必死に全部埋め立てる。朔弥はハイテンションのままにキッチンへ向かうべくベッドから降りた。それを見て少し小首を傾げたルキナが囁いた。
「サクヤ‥だいすき‥ゴハン」
「「んん?」」
「サクヤ‥‥ゴハンだいすき」
「「‥‥‥‥」」
たどたどしく喋るルキナ。ぐぅと腹のなる音がした。ルキナの正面で絶句する大精霊二人。二人の背後では異常に喜んでいる精霊王。あちゃぁとニクスが目元を覆った。
「マジか?倒置法?サクヤのゴハンが大好き?腹減ってたんだなぁ。あー‥やっベぇ‥煽っちまった。どうすんだこれ?あいつすげぇ喜んでるぞ。これ聞いたら精霊界が火の海になるんじゃね?」
「このままでよろしいのではなくて?オトコにはこういうロマンも必要ですのよ」
腹黒ヴァルナがおっとりと微笑んだ。ベッドの中のルキナの隣に腰掛けてヴァルナが悪魔のようにそっと囁く。
「ほらルキナ、復唱なさい?パンケーキにレアチーズケーキ、クッキーシュー、スイートポテト、いちごアイスが食べたいの、たくさん作って?」
「つくって」
「おう!任せとけ!すぐ作るからな?たくさん食えよ!」
「うわぁ、ひでぇ。鬼だ!鬼がここにいるぞ!」
ニクスがゾッと身を震わせてドン引きした。
そしてその日は幸福絶頂の精霊王が作ったスイーツ三昧日となった。
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