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第四章: ジーク、ダンジョンに入る。
遭遇
しおりを挟む途中休憩に入った際にそういえば、とグライドはジークの冒険者カードをライマーに見せた。色々あって忘れていたが、ジークの記号を知っているかもしれないと聞いてみたのだが。
ライマーは目元を覆いはぁとため息をついた。
「これは計測不能という意味だ。」
「はい?計測不能?」
ライマーは困ったように顎をさする。
「冒険者ギルドにあった水晶玉はまだ試作品と聞いた。だから計測できない部分は記号で表されるらしい。ジークのレベルはそういうことだったんだろうよ。だが実際にそれが出たのは初めて聞いた。」
確か俺のレベルは400後半、それは表示された。俺よりは強いからそれ以上ということか。トップランカーが200弱、確かに一般と比べるとジークはバケモンだ。
「じゃあ適職がでなかったというのも?」
「規格外だったということだろうな。ノービスか。うまいこと書いてある。まあこのままでいいんじゃないか?多分誰にもわからないだろうが。」
だが、とついでに見せろと言われたグライドのカードにライマーが眉間に皺を寄せる。
「これはダメだ。本名は使うなと言っただろう。」
「すみません、先に登録してしまってて。」
「伝手がある。ここを出たら修正してしまえ。諸事情で名を変えることもある。その態でいけ。」
おお、なんか頼もしい意見が出た!さすが経験者!
「ちょうどいいから言っておく。あのジークの鷹とお前の猫、あまり連れ回さない方がいい。」
「え?ダメですかね?」
それは初めて言われた。陛下からの指摘もなかったのに。ライマーはジークの鷹を見て目を細める。
「形を変えても見る奴が見れば魔獣とわかる。今まで騒ぎにならなかったか?魔道具で封じられているが溢れる魔素で正体がわかる。連れ回すなら場所を選べ。」
ん?王宮魔術師や将軍の前でもスルーされましたが。
今まで見破られたことはないと自覚していたが、こっそり気がついている奴もいるかもしれない。
見るやつってどの程度の強さなんだろうか。これに気がついたライマーこそすごいのではないか。
それを確かめたくて問いかけてみた。
「えーと、ちなみに何に見えますか?」
それを言わせるのか、という顔のライマーだったがやれやれと答えてくれた。
「あれは竜だな。伝承では聞いたことがあったが見たのは初めてだ。しかも二頭。変化ができるものもかなり上位だろう。」
「はぁ。なるほど。気をつけます。」
正確には古竜です。すみません。
だが竜だと見破ったライマーにグライドは内心感嘆した。
本当に、これほどの力があるのになんで第八部隊の隊長なんかしているんだろうか?
二階の未探索エリアに進むと扉も施錠されている。
「ジーク、罠はあるか?」
「うーん、ないです!」
ジークが元気よく答えるとライマーが鍵を確認し開錠する。方法は魔法だったり工具だったり。場合により力づくだ。
今回は『開錠』の古代魔術が使われた。
「『開錠』は古代魔術としてはもっとも流通している魔術だな。これがないと古代遺跡には入れない。」
「魔術で開錠できる錠など意味がないのでは?」
「当然最初は古代遺跡に魔術封じが施されている。それが破壊されて初めて『開錠』が有効になるんだ。鍵は暗号化されているから『開錠』も解読技術が必要だ。」
なるほど。そういうものなのか。最初に古代遺跡に入った者は命懸けだっただろうな。
扉をあけ部屋に入る。そこは手付かずの部屋だった。誰かが生活をしていただろう部屋。寝る場所や机などがある。
塵で埋まっているが何やら書物や黒い四角いものがあたりに置いてある。書物に記された文字は古代文字でグライドたちには読むことはできない。
「無闇に触れるな。宝の様なものはないな。人が入った形跡もない。ここではないだろう。」
「失踪者の捜索という意味では施錠された部屋は探索から除外してもよいのではないですかね。」
「そうだな。もう少し他の部屋を見てから決めるか。」
同様の部屋を探索するも人が入った形跡はない。やはり人の暮らしていた跡のようなものと大量の書籍、そして何やら黒い四角いもの。触れば金属とわかるがこれが何なのかはわからない。全ての正面にボタンがついている。
ジークが好奇心からそれを押した時は慌てたが、特に何も起こらなかった。それは完全に死んでいるようだ。
「ここは居住エリアですかね。特に何というものもなさそうです。」
衣装部屋らしき扉を開くも中は塵と化していた。金属さえ長い年月で朽ちている。
「そうかもしれんな。重要なものがないということか。ひどい罠もなくなった。」
入り口の扉に鍵がある程度のもの。そういった部屋が延々と続いていた。
だが廊下の途中、開かれている部屋もあった。扉が強引に開かれ中が荒らされている。
塵に残された足跡からここ最近誰かが部屋に入ったようだ。
「金属探知の魔法持ちがいたな。金目のものを漁った跡があるな。」
「つまりここまでは誰かが来たと。」
「ここまで探索したという報告もギルドに出てないから来たのは失踪者かもしれん。金属探知持ちの魔術士が失踪している記録もある。」
ランタンをかざしたライマーが部屋を見回し同意した。
部屋を出たグライドは延々と続く廊下の先を見やる。その先は闇に閉ざされていた。
魔素が垂れ込め冷気に満ちている。閉ざされた空間は空気は澱み生命の気配がない。
この部屋があとどれだけ続いているのだろうか。
がりり
その時、何か鋭い音がグライドの耳朶に響いた。闇の中で何か引っ掻くような音。物が落ちた音ではない。
どくんとグライドの鼓動が跳ね、ぞわりと全身の毛が逆立つ。ジークも身を屈めてじっと闇を見つめていた。
がりり
聞き間違いではないと確認できるようにその音はもう一度聞こえた。闇の中で明らかに何かを削っている。
そしてはぁという空気音。それは誰かの吐息の様な音だった。
ライマーも気がついたように身を固める。一同は固唾を飲んでその音がした闇をじっと睨みつける。ランタンの光は届かずただ闇が垂れ込めるだけだった。
突然、ジークが闇に向かって走り出した。
「ジーク!どうした?!」
「あそこ!誰かいる!!」
『殿下!行ってはなりません!あれは!』
「待て!行くな!」
ファフニールとライマーの制止も聞かずジークは闇の中に消え、羽ばたく鷹が後を追う。
ジークは夜目が効く。獣故だろうが流石にこの状況で単独行動はまずい。
何かいるのはわかっていたが慌ててグライドも跡を追う。背後でライマーの制止と舌打ちが聞こえた。
グライドは用心のために×30の腕輪を装備し『鉄壁』始動の準備を行う。『自動回復』『魔素変換』がほぼ無意識で発動する。
足音は自分のものしか聞こえない。だがあれは聞こえた。
がりり
真っ暗な闇の中を走りながら自分の影に身を潜めるローゲに問いかける。
「ローゲ!状況がわかるか?!」
『わかるけど‥まずいよ。何でこの階にあれがいるのか‥。あれは触らない方がいい。神竜も何やってんだ!』
「あれとはなんだ?!ジークが消えた!気配がない!どういうことだ?!」
グライドの再び鼓動が跳ねる。焦燥で語気が強くなった。
ジークに限ってひどいことにはなっていないはずだ。だが状況が異常すぎる。
立ち止まりあたりを探すもジークの気配はやはりない。
がりり 近づいてくる
『そういう装置が働いてる。魔素が渦巻いてるんだ。あれは『看守』だ。ここはシステムが生きている。これ以上はだめだ。戻って!殿下は堕ちた!ここは崩れる。主殿も堕ちる!』
「おちる?どういう意味だ?!」
おそらく同時に色々なことが起きていてローゲの説明が要領を得てない。それがグライドをさらに混乱させる。
早く!そうローゲに急かされ後退ったその時、
がくんと地面が歪んだ。
空間が歪んだように感じ。
天地が崩れ闇が広がる感覚。
続く浮遊感。落下かもしれない。
闇の中でガラガラと何かが崩れる。
がりり そして吐息 近くで 生臭い
『装置が起動した!ダメだ!さがって!!』
黒猫の舌打ちと鈴の音が聞こえたが暗闇の中でその姿が見えない。真っ青な二つの目が正面をよぎる。
鈴が壊れる音。そして穏形を解いて羽ばたく音がする。ローゲが自ら封じを解き竜になった音。
何かいる。庇われている。それがわかるがグライドは暗闇の中で足場を失い崩れる穴に落ちていた。
受け身をとろうとしたが続いた激痛にグライドは悲鳴を上げた。
それは今まで経験したことがない強制的に身を裂かれるようなもの。それが全身を貫いた。
その激痛を拒絶するかのようにグライドの意識が飛んだ。
必ず助けに行く。助けに行くから待ってて。
意識が閉じる直前、耳にローゲの囁きが聞こえた。
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