39 / 44
第四章: ジーク、ダンジョンに入る。
探索
しおりを挟む問題の古代遺跡は氷の神殿と呼ばれていた。他の遺跡よりも浅く冷気や罠が多い。祭壇らしき間もあることからの呼び名だ。
階層としては浅いがエリアが広大で全ては踏破され尽くしていないという。
古代遺跡の前で応援の冒険者を待っていたら、現れたのはライマーだった。ジークは隊長!隊長!と歓喜の声をあげる。
「あれれ?隊長?応援って隊長?」
「ここでは隊長ではなくライマーと呼べ。」
驚いたグライドにため息をついたライマーが応じ、頭を掻いた。
「第八部隊で罠解除ができるものが俺しかいなかった、というのが理由か。まあこの古代遺跡はしょっちゅう入っていたから第一層なら道案内くらいはできる。」
おお!本物の経験者だ!助かった!
「先に送ってくださった持ち物リストも助かりました。」
「装備は欠けると命取りになるからな。守りの魔道具はあるな?あまり時間もない。行くか。」
元冒険者だということは噂では聞いたことがあったが本当だったのか。ライマーならジークのことも知っているし色々と安心だ。
ジークとグライドはリュックを背負っている。
本当はレオンハルトの時空の袋に入れることもできるが、流石に手ぶらで入るのはおかしい。だからそれっぽい程度の装備は背負っている。
予備の食料や、これあったらいいな、というものは次元の袋に入っている。
入り口の受付で記名をし許可証を提示して中に入る。これは魔封の森と手続きが同じだ。
子供連れ、そして鷹と黒猫連れということで、警備の兵士に奇妙な顔をされた。
ジークは楽しみなのか辺りを走り回っている。中に入ったら一人で突っ走りそうだ。
「ジーク、一人で勝手に行くなよ?」
「わかってるよ!早く早く!!」
少し歩けば地下に続く穴がぽっかり空いていた。
中は石造の白い階段が下に続いていた。
グライドは事前に頭に入れた地図を思い浮かべる。この古代遺跡は地下タイプ。地下二階と浅い。
地上タイプなら最悪窓から外に古竜で逃げるということもあるが、地下タイプは逃げ道がない。まあ浅いからそれほど問題ないか。
ライマーがランタンを灯し先導する。ひんやりとした空気が肌を刺す。氷の神殿というだけある。これに備えて既に重装済だ。
ファフニールが心地良さそうに翼を広げる。少し濃いめの魔素が漂っていた。
ライマーの足に迷いがないということはそれ程に通い詰めていたということか。その意図を汲み取ってかライマーが口を開いた。
「第一層ならほぼ暗記している。だが第二層は俺が軍に入ってから発見された。そこは当てにするなよ。」
「第一層は探索済みということでよいですかね。」
「いいが、何かまだ罠はあるかもしれない。みだりに触れるなよ。」
なるほど、とジークにもその指示を伝える。
一階はただひたすら小部屋が続いていた。盗掘され尽くしてか何もない。ジークはつまらなそうにため息をついた。
だがただ一人、いや一匹だけ様子がおかしかったのはローゲだった。
探索開始時はキョロキョロと楽しそうにしていたが、すぐにとぼとぼと下を向いた。そしてドボンとグライドの影に飛び込んでしまった。
「どうしたローゲ?」
『ここつまんない。オイラ寝てる。主殿気をつけろよ。』
「気をつける?」
『ここはまだ生きてる。警告は出すがあんま触んない方がいい。』
「生きてるってなんだよ?おい?!」
そしてローゲは沈黙した。
一階の探索はあっけなく終わった。もう盗掘され地図まで出回っている。罠もなく魔獣も出ない。各部屋に異常がないか確認するだけだ。
「何もありませんね。」
「本命は下だろう。ここは低レベルの冒険者でも来られる。」
一行は階段を降りた。二階。冷気と魔素が濃くなったように感じられた。
『ここも魔獣の気配はありませんな。』
ファフニールはふむと首を傾げる。なんの危険もなさそうな古代遺跡だ。
「ここはまだ探索され尽くしていない。罠もあるかもしれないから不用意に触るな‥‥、ジーク!!」
ライマーの叫び声にグライドは振り返る。ちょうどジークが壁の出っ張りを押し込んだところだった。
ジークの足元の床がぱっかり割れて落とし穴になる。ジークと鷹はそのまま落とし穴の中に落ちていった。
「ジーク!!」
「ふえぇぇ!!」
「おい!大丈夫か?!」
二人は穴に駆け寄り声をかける。ジークの鼻声の悲鳴が聞こえる。
なんてぇベタな罠にかかってるんだ!!一応獣なんだろ?!
しばらくすると、よっと掛け声が聞こえジークと鷹が落とし穴からよじ登ってくる。壁は指をかけるところがないのにヤモリのように登ってきた。
「ふー、ひどい目にあったよー」
「何があったんだ?」
ライマーがやれやれと問いかける。
「もう臭くってさー!鼻曲がるかと思った!なんか白いものがいっぱい落ちてた!あれなんだろうね?」
元気よく言っているが間違いなく人骨だろう。そして腐臭。そうとわからんお前も鈍いな。
罠って面白い!と楽しそうに言うジークにグライドは脱力と同時にこの少年の行動を予想して戦慄した。
まずいぞ、この展開。これはきっと嬉々としてやり始めるんじゃないか?
そこからジークは大活躍だった。ちょろちょろと先行し自ら罠に嵌る。そしてそれらを華麗に躱す。
なぜそれに触る?という罠まで発動させてみせた。
落とし穴。槍。針山。火炎放射。鉄球。檻。毒噴射。
落とし穴程度ならいいが火炎放射や飛び道具系はグライドやライマーにも飛んでくる。罠発動後も結局三人で敗走することもしばしあった。
獣の本能で罠自体を躱すことはできないのか?こっちの心臓に悪すぎる!!
そしてこっちも巻き込まれるからは発動させるのはやめろ!!
「これなら俺は要らなかったな。」
罠の場所を地図に書き込みながらライマーも呆れて息をついた。解除する前に罠に手を出すジークもジークであるが。
一階の探索で既に飽きていたジークは楽しそうに罠に嵌っていた。
「見て見て!兄ちゃん!これ壁が開いた!」
がこんと何か押し込んだのかジークの嬉々とした声がした。開いたと同時に何かが飛び出してくる。大蛇だ。
「まずい!そいつは猛毒だ!噛まれる‥‥」
「ん?なにー?」
ライマーが途中で口籠もる。蛇は威嚇音を発しながらジークに飛びかかってきたが、ジークの曲刀で同時に首を刎ねられていた。その鮮やかさに二人は絶句していた。
うん、俺さえ要らなさそう。
途中の部屋を確認しながら二階の探索を進めれば、すぐに未探索エリアとなった。ここまでも一階同様何もなかった。
「罠解除には時間がかかる。ジークの戦法もあながち間違ってはいないな。」
「最短コースかもしれませんが、普通は無事で済まないでしょうね。俺たちもよく無事でした。」
グライドは遠い目で応じる。罠発動に巻き込まれてとんでもなく疲れていた。
「まあそうだな。この階はしばらく好きにさせてみるか。」
「はぁ。まあそうですね。楽しそうですし。」
二人は縁側で孫を見る老人のように前方で飛び回る少年を見やった。
目の前で針山地獄の罠を作動させ、おぉ!とジークは歓喜していた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】少年王の帰還
ユリーカ
ファンタジー
——— 愛されるより恐れられよ。
王の崩御後、レオンハルトは六歳で王に祭り上げられる。傀儡の王になどなるものか!自分を侮った貴族達の権力を奪い、レオンハルトは王権を掌握する。
安定した政のための手駒が欲しい。黄金の少年王が目をつけた相手は若き「獣」だった。
「魔狼を愛する〜」「ハンターを愛する〜」「公爵閣下付き〜」の続編です。
本編でやっとメインキャラが全員参加となりました。
シリーズ4部完結の完結部です。今回は少年王レオンハルトです。
魔封の森に封じられた魔神とは?始祖王とは?魔狼とは?
最後の伏線回収です。ここまで何とかたどり着けて感無量です。
こちらも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
細かい設定はさらっと流してます。
※ 四部構成。
一部序章、二部本編はファンタジー、三部は恋愛、四部は外伝・無自覚チートです。
※ 全編完結済みです。
※ 第二部の戦闘で流血があります。苦手な方はご注意ください。
※ 本編で完結ですが、後日談「元帥になりたい!!!」ができてしまいました。なぜ?
こちらはまだ未完ですが、楽しいので随時更新でゆるゆるやりたいと思います。
セイントガールズ・オルタナティブ
早見羽流
ファンタジー
西暦2222年。魔王の操る魔物の侵略を受ける日本には、魔物に対抗する魔導士を育成する『魔導高専』という学校がいくつも存在していた。
魔力に恵まれない家系ながら、突然変異的に優れた魔力を持つ一匹狼の少女、井川佐紀(いかわさき)はその中で唯一の女子校『征華女子魔導高専』に入学する。姉妹(スール)制を導入し、姉妹の関係を重んじる征華女子で、佐紀に目をつけたのは3年生のアンナ=カトリーン・フェルトマイアー、異世界出身で勇者の血を引くという変わった先輩だった。
征華の寮で仲間たちや先輩達と過ごすうちに、佐紀の心に少しづつ変化が現れる。でもそれはアンナも同じで……?
終末感漂う世界で、少女たちが戦いながら成長していく物語。
素敵な表紙イラストは、つむりまい様(Twitter→@my_my_tsumuri)より
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
自然神の加護の力でのんびり異世界生活
八百十三
ファンタジー
炎神インゲ、水神シューラ、自然神カーンの三柱の神が見守り、人々と魔物に加護を与えて発展させている異世界・ルピアクロワ。
その世界に、地球で命を落としたごく普通の中学生・高村英助の魂が流れ着く。
自然神カーンの手によってヴァンド市の羊飼い、ダヴィド家に一人息子のエリクとして転生した英助は、特筆すべき能力も見出されることもなく、至極平穏な日々を過ごすはずだった。
しかし12歳のある日、ダヴィド家の家政婦である獣人族の少女・アグネスカと共に、ヴァンド市近郊の森に薪を拾いに行った時に、彼の人生は激変。
転生する時にカーンから授けられた加護の力で「使徒」の資格を有していたエリクは、次々と使徒としてのたぐいまれな能力を発揮するようになっていく。
動物や魔物と語らい、世界を俯瞰し、神の力を行使し。
そうしてラコルデール王国所属の使徒として定められたエリクと、彼に付き従う巫女となったアグネスカは、神も神獣も巻き込んで、壮大で平穏な日常を過ごしていくことになるのだった。
●コンテスト・小説大賞選考結果記録
第1回ノベルアップ+小説大賞一次選考通過
HJ小説大賞2020後期一次選考通過
第10回ネット小説大賞一次選考通過
※一部ボーイズラブ要素のある話があります。
※2020/6/9 あらすじを更新しました。
※表紙画像はあさぎ かな様にいただきました。ありがとうございます。
※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、ノベルピア様にも並行して投稿しています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886818732
https://ncode.syosetu.com/n1574ex/
https://novelup.plus/story/382393336
https://estar.jp/novels/25627726
https://novelpia.jp/novel/179
この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる