元帥になりたい!!!

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
38 / 44
第四章: ジーク、ダンジョンに入る。

ダンジョンに行きたい!!!

しおりを挟む



「兄ちゃん!オレ、古代遺跡ダンジョンに行きたい!!!」



 朝、ジークの開口一番のこの言葉に、登城して従者控室の扉を開けたグライドはドアハンドルを持ったままガックリきた。

 第八部隊に入隊して半年が経っていた。
 どうも最近色々と忙しい。第八部隊から呼び出しがあったりラウエン家の応援に駆り出されたりで、実は外出も多くなっている。その度にジークと古竜に乗って駆けつける毎日だ。それもだいぶ片付いた。

 アニスも無事女の子を出産した。アニスに似た可愛い赤ん坊だ。名はイリーネ。グライドはシンクレアと共に赤ん坊の絶賛お世話中である。

 仕事も落ち着いてきたからしばらくはゆっくりしたいと思っていたのに‥‥。なのにだ!!

 なのに古代遺跡?!なぜに古代遺跡?!

 グライドは青筋をたててジークの肩にとまる白い鷹をぎろりと睨む。

『我ではござらんよ!!』

 ファフニールは慌ててジークの頭にひしと隠れる。グライドの鷲掴み対策だ。

 では、とグライドの肩でじゃれつく黒猫を見やる。

 契約してわかったが、契約者にとって古竜は見た目ほど重さを感じない。シンクレアが抱き上げたローゲを重いと言っていたから、契約者以外には見た目通りの重さなのだろう。

 真剣な顔で服の飾りに爪を立ててじゃれついていたローゲが無邪気な声をあげる。

『オイラでもないし。ダンジョン?なにそれウマいの?』

 グライドはべりっと黒猫を引き剥がして放り投げる。この爪でグライドの服が結構やられているのだ。
 ローゲはシャキーンと鋭い爪を肉球から見せてニヤリと笑う。

 爪切りならシンクレアがしているはずなんだが、こいつには無意味ということか。
 城や家の壁で爪研ぎしないが、俺の服ではやめてくれよ!



 ダンジョン—— 地下迷宮または古代遺跡と呼ばれるもの。この国では古代遺跡の比率が高い。

 魔素が立ち込めるエリアもあるため魔獣が手強い場合もある。稀にすごいお宝が隠されていることがあり冒険者が探索に入るが、生還率がいいとはいえない。
 古代遺跡の場合は救助が間に合わない場合もあるためだ。

 古竜こいつらではない。では誰がジークに吹き込んだ?最近大人しい腹黒宰相閣下か?久しぶりにかましてくれたのか!!

 例によりジークがジタバタと話したそうなので話を聞いてやることにする。今度こそツッこみなしだ!!そう自分に言い聞かせ、しゃがんでジークを見上げたのだが。

「で?誰に聞いた?」
「んーとね、今朝師匠から‥‥」

 グライドはジークを荷物よろしくひょいと小脇に抱えて全力疾走、そのまま執務室へ突撃した。扉をばん!と開く。

「陛下!!これは一体‥‥」

 どういうこと?と言いかけてグライドは凍りついた。

 暗殺用短剣アサシンダガーが恐ろしく正確にグライドの足元に刺さったからだ。正確には足元と頭の右、左脇に飛んできた。壁に六本、床に三本の短剣が刺さっている。

「誰が入室を許可した?」

 短剣を構えたレオンハルトの冷たい声にグライドはゾッとした。おそらく引き出しにペーパーナイフのようにたんまり入れてあった短剣だ。

 レオンハルトの隣に控えていたテオドールがはぁとため息をつく。また執務室の壁紙修理を出さなければならない。

「ここまでしなくても!!」
「最近ジーク含め執務室への突撃が多い。ここらで躾ねばならんだろう?言っておくが、お前が一番多いからな。」

 そうグライドを睨んで手元の書類に目を落とした。
 あれれ?そうですか?ラウエン家本邸のノリでつい入室してしまうからか。
 レオンハルトの機嫌が悪い。今話しかけてはいけなかったか。小脇のジークを放り出し、音を立てないようテオドールの側に忍び寄った。

「明後日から休暇の予定なんです。ですから今追い込み中です。」

 テオドールがこっそり教えてくれた。そういえばそうだった。そこでグライドは納得する。

「あ!つまり陛下が休暇中の課題に古代遺跡にいけ、と。」
「察しが良くなったな。」

 レオンハルトは手の書類をテオドールに渡し次の書面に目を落とす。
 陛下、お忙しいですからね。課題という名の手抜き‥‥もとい武者修行みたいなもんだな。しかしなぜに古代遺跡?

「ここ最近、ある古代遺跡で失踪が相次いでいる。」

 グライドの心中を読んだレオンハルトが手を止めずに語り出した。

「失踪?それはその、不運にも、ということではなく?」
「それなら死体や残留物が残る。そうではない。跡形もなく消える現象だ。」
「消える?だから失踪?そうと言い切れますか?なにか罠の可能性もありますし。」

 ダンジョンの中はとにかく罠が多い。古代遺跡に至っては罠だらけだ。すでに探索された場所ならば解除されているが、そうでなければ不用意に入ればどんな目に合うかわからない。

「まあ、ずっとそう言われてきて失踪者の探索はなされなかった。だが先日失踪者が自力で戻ってきた。そいつの証言では古代遺跡から飛ばされた、となっている。」


 その冒険者はある日突然、古代遺跡から外の山に飛ばされた。仲間もいたはずだが一人だけだ。だがたまたまそこは自分の生家の側で見覚えがあったという。

 レオンハルトが執務中ということで、ジークは鼻歌こそ歌っていないが喜びの舞を絶賛披露中だ。ファフニールとの息もぴったり合っている。なんだろうな、この二人は。

 床に寝そべった黒猫のローゲは、それは残念そうな目で二人を見ている。こいつは程々に常識がありそうでよかった。

 レオンハルトは書面にサインをしつつ話を進める。

「だがパーティの他のものは音信不通。そのものの証言も鵜呑みには出来ない。だがそいつが古代遺跡の出口から外に出た記録もない。古代遺跡の出入りは二十四時間監視されている。漏れるわけがない。だから一度調査に入らせようと思っていた。」
「第八部隊ですか?」

 そこで初めてレオンハルトは顔を上げてグライドを見た。

「場所の性質上、部隊の投入は適切ではない。少数精鋭の投入となる。」
「で、俺たちですか。」

 精鋭と言われればそうかもしれないが、正直攻撃力があっても古代遺跡はどうにもならない。

「お前、古代遺跡の探索経験はあるか?」
「二、三回程度ですが。正直経験があると言えません。罠解除も必要です。できれば経験者が参加してくれれば助かります。」

 そうでなければあの狼少年と猛竜が遺跡破壊を尽くしてしまう。いっそそれもありか?
 レオンハルトはしばし手を止め、それもそうだな、と呟いた。

「ならば手練てだれを手配しよう。それと共に古代遺跡に潜り、何が起きているか確認してこい。」
「状況確認だけですか?」
「古代遺跡は下手にいじらない方がいい。あくまでも偵察だ。本当は俺が行ければいいが時間もない。」

 ふうと嘆息し、視線を落としたまま書類を差し出せばテオドールが受け取った。もう次の案件に進んでいるのか。

「ちょうどよくお前はローゲと契約した。竜持ちは古代遺跡では有利に働く。ジークとお前なら何とかなるだろう。」
「古竜は有利になるんですか?」
「なる。その時になればわかる。」

 勿体ぶった言い方は身をもって知れという意味か。説明が面倒くさいのか。まあいつものことですが。

「問題の古代遺跡はそれほど深くはない。未探索エリアもあるがお前らなら踏破は二日といったところか。準備を進めておけ。明後日から行ってこい。」

 二日か。その程度ならアニスもなんとかなるだろうか。ラウエン家から応援を頼むのもありだ。

 ジークとファフニールのヘンテコな舞を見ながらグライドは嘆息した。















しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

天使の隣

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

【完結】少年王の帰還

ユリーカ
ファンタジー
 ——— 愛されるより恐れられよ。  王の崩御後、レオンハルトは六歳で王に祭り上げられる。傀儡の王になどなるものか!自分を侮った貴族達の権力を奪い、レオンハルトは王権を掌握する。  安定した政のための手駒が欲しい。黄金の少年王が目をつけた相手は若き「獣」だった。 「魔狼を愛する〜」「ハンターを愛する〜」「公爵閣下付き〜」の続編です。  本編でやっとメインキャラが全員参加となりました。  シリーズ4部完結の完結部です。今回は少年王レオンハルトです。  魔封の森に封じられた魔神とは?始祖王とは?魔狼とは?  最後の伏線回収です。ここまで何とかたどり着けて感無量です。  こちらも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。  細かい設定はさらっと流してます。 ※ 四部構成。  一部序章、二部本編はファンタジー、三部は恋愛、四部は外伝・無自覚チートです。 ※ 全編完結済みです。 ※ 第二部の戦闘で流血があります。苦手な方はご注意ください。 ※ 本編で完結ですが、後日談「元帥になりたい!!!」ができてしまいました。なぜ?  こちらはまだ未完ですが、楽しいので随時更新でゆるゆるやりたいと思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...