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第四章: ジーク、ダンジョンに入る。
ダンジョンに行きたい!!!
しおりを挟む「兄ちゃん!オレ、古代遺跡に行きたい!!!」
朝、ジークの開口一番のこの言葉に、登城して従者控室の扉を開けたグライドはドアハンドルを持ったままガックリきた。
第八部隊に入隊して半年が経っていた。
どうも最近色々と忙しい。第八部隊から呼び出しがあったりラウエン家の応援に駆り出されたりで、実は外出も多くなっている。その度にジークと古竜に乗って駆けつける毎日だ。それもだいぶ片付いた。
アニスも無事女の子を出産した。アニスに似た可愛い赤ん坊だ。名はイリーネ。グライドはシンクレアと共に赤ん坊の絶賛お世話中である。
仕事も落ち着いてきたからしばらくはゆっくりしたいと思っていたのに‥‥。なのにだ!!
なのに古代遺跡?!なぜに古代遺跡?!
グライドは青筋をたててジークの肩にとまる白い鷹をぎろりと睨む。
『我ではござらんよ!!』
ファフニールは慌ててジークの頭にひしと隠れる。グライドの鷲掴み対策だ。
では、とグライドの肩でじゃれつく黒猫を見やる。
契約してわかったが、契約者にとって古竜は見た目ほど重さを感じない。シンクレアが抱き上げたローゲを重いと言っていたから、契約者以外には見た目通りの重さなのだろう。
真剣な顔で服の飾りに爪を立ててじゃれついていたローゲが無邪気な声をあげる。
『オイラでもないし。ダンジョン?なにそれウマいの?』
グライドはべりっと黒猫を引き剥がして放り投げる。この爪でグライドの服が結構やられているのだ。
ローゲはシャキーンと鋭い爪を肉球から見せてニヤリと笑う。
爪切りならシンクレアがしているはずなんだが、こいつには無意味ということか。
城や家の壁で爪研ぎしないが、俺の服ではやめてくれよ!
ダンジョン—— 地下迷宮または古代遺跡と呼ばれるもの。この国では古代遺跡の比率が高い。
魔素が立ち込めるエリアもあるため魔獣が手強い場合もある。稀にすごいお宝が隠されていることがあり冒険者が探索に入るが、生還率がいいとはいえない。
古代遺跡の場合は救助が間に合わない場合もあるためだ。
古竜ではない。では誰がジークに吹き込んだ?最近大人しい腹黒宰相閣下か?久しぶりにかましてくれたのか!!
例によりジークがジタバタと話したそうなので話を聞いてやることにする。今度こそツッこみなしだ!!そう自分に言い聞かせ、しゃがんでジークを見上げたのだが。
「で?誰に聞いた?」
「んーとね、今朝師匠から‥‥」
グライドはジークを荷物よろしくひょいと小脇に抱えて全力疾走、そのまま執務室へ突撃した。扉をばん!と開く。
「陛下!!これは一体‥‥」
どういうこと?と言いかけてグライドは凍りついた。
暗殺用短剣が恐ろしく正確にグライドの足元に刺さったからだ。正確には足元と頭の右、左脇に飛んできた。壁に六本、床に三本の短剣が刺さっている。
「誰が入室を許可した?」
短剣を構えたレオンハルトの冷たい声にグライドはゾッとした。おそらく引き出しにペーパーナイフのようにたんまり入れてあった短剣だ。
レオンハルトの隣に控えていたテオドールがはぁとため息をつく。また執務室の壁紙修理を出さなければならない。
「ここまでしなくても!!」
「最近ジーク含め執務室への突撃が多い。ここらで躾ねばならんだろう?言っておくが、お前が一番多いからな。」
そうグライドを睨んで手元の書類に目を落とした。
あれれ?そうですか?ラウエン家本邸のノリでつい入室してしまうからか。
レオンハルトの機嫌が悪い。今話しかけてはいけなかったか。小脇のジークを放り出し、音を立てないようテオドールの側に忍び寄った。
「明後日から休暇の予定なんです。ですから今追い込み中です。」
テオドールがこっそり教えてくれた。そういえばそうだった。そこでグライドは納得する。
「あ!つまり陛下が休暇中の課題に古代遺跡にいけ、と。」
「察しが良くなったな。」
レオンハルトは手の書類をテオドールに渡し次の書面に目を落とす。
陛下、お忙しいですからね。課題という名の手抜き‥‥もとい武者修行みたいなもんだな。しかしなぜに古代遺跡?
「ここ最近、ある古代遺跡で失踪が相次いでいる。」
グライドの心中を読んだレオンハルトが手を止めずに語り出した。
「失踪?それはその、不運にも、ということではなく?」
「それなら死体や残留物が残る。そうではない。跡形もなく消える現象だ。」
「消える?だから失踪?そうと言い切れますか?なにか罠の可能性もありますし。」
ダンジョンの中はとにかく罠が多い。古代遺跡に至っては罠だらけだ。すでに探索された場所ならば解除されているが、そうでなければ不用意に入ればどんな目に合うかわからない。
「まあ、ずっとそう言われてきて失踪者の探索はなされなかった。だが先日失踪者が自力で戻ってきた。そいつの証言では古代遺跡から飛ばされた、となっている。」
その冒険者はある日突然、古代遺跡から外の山に飛ばされた。仲間もいたはずだが一人だけだ。だがたまたまそこは自分の生家の側で見覚えがあったという。
レオンハルトが執務中ということで、ジークは鼻歌こそ歌っていないが喜びの舞を絶賛披露中だ。ファフニールとの息もぴったり合っている。なんだろうな、この二人は。
床に寝そべった黒猫のローゲは、それは残念そうな目で二人を見ている。こいつは程々に常識がありそうでよかった。
レオンハルトは書面にサインをしつつ話を進める。
「だがパーティの他のものは音信不通。そのものの証言も鵜呑みには出来ない。だがそいつが古代遺跡の出口から外に出た記録もない。古代遺跡の出入りは二十四時間監視されている。漏れるわけがない。だから一度調査に入らせようと思っていた。」
「第八部隊ですか?」
そこで初めてレオンハルトは顔を上げてグライドを見た。
「場所の性質上、部隊の投入は適切ではない。少数精鋭の投入となる。」
「で、俺たちですか。」
精鋭と言われればそうかもしれないが、正直攻撃力があっても古代遺跡はどうにもならない。
「お前、古代遺跡の探索経験はあるか?」
「二、三回程度ですが。正直経験があると言えません。罠解除も必要です。できれば経験者が参加してくれれば助かります。」
そうでなければあの狼少年と猛竜が遺跡破壊を尽くしてしまう。いっそそれもありか?
レオンハルトはしばし手を止め、それもそうだな、と呟いた。
「ならば手練れを手配しよう。それと共に古代遺跡に潜り、何が起きているか確認してこい。」
「状況確認だけですか?」
「古代遺跡は下手にいじらない方がいい。あくまでも偵察だ。本当は俺が行ければいいが時間もない。」
ふうと嘆息し、視線を落としたまま書類を差し出せばテオドールが受け取った。もう次の案件に進んでいるのか。
「ちょうどよくお前はローゲと契約した。竜持ちは古代遺跡では有利に働く。ジークとお前なら何とかなるだろう。」
「古竜は有利になるんですか?」
「なる。その時になればわかる。」
勿体ぶった言い方は身をもって知れという意味か。説明が面倒くさいのか。まあいつものことですが。
「問題の古代遺跡はそれほど深くはない。未探索エリアもあるがお前らなら踏破は二日といったところか。準備を進めておけ。明後日から行ってこい。」
二日か。その程度ならアニスもなんとかなるだろうか。ラウエン家から応援を頼むのもありだ。
ジークとファフニールのヘンテコな舞を見ながらグライドは嘆息した。
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