元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第三章: ジーク、入隊する。

猛獣使い

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 グライドはその巨大な竜を見上げて唖然とした。

「おい!契約は?!成立したのか?!」
『安心せい、無事契約完了じゃ。よかったのぉ。』
「よくねぇ!!なんだあの暴れようは?!」
『口は悪いが契約できて喜んでおるのじゃろ。きちんと聖属性になっておるし。』

 口が悪い?喜んでいる?そういう範疇ではない。あれじゃ冥府の竜の物言いじゃないか!!何だこの猛獣っぷりは!!しかも聖?本当に?!

「あれで聖?!真っ黒じゃないか!炎も吐いてるし!」
『見た目は気にするな。やつは元々炎属性じゃし。色々あってちぃとばかし闇堕ちしておったがそこも今回で光堕ちになってよかったぞい。』
 
 ファフニールはほくほく顔で喜んでいる。
 闇堕ち?!あの竜闇堕ちしてたんかい!全く聞いてない!!

『さあて、まずは誰を殴ってやろうか。オレ様の鉄槌で塵となりやがれ!!』
「やめろ!おとなしくしろって!」

 グライドの言葉を無視した黒竜の拳が地面をえぐった。飛び散る粉塵で竜が実体を得たことがわかる。その中を二人と一羽はひょいひょいと舞い散る岩石を躱した。

『それ、早速じゃ。従えてみよ。』
「やってるだろ!全然言うこと聞かねぇじゃないか!!」

 グライドがキレ気味に叫ぶ。俺は猛獣使いじゃねぇっての!!

『名を呼んで命じるんじゃ。きちんとな。』

 ローゲが口に炎を溜めている。吐炎する気か?!
 炎を吐く直前、ジークが下から顎を蹴り上げた。竜の顔が上を向き炎が空高く火柱を上げる。あんな火力を吐き出されては冗談抜きで森が丸焦げになる。
 顎を殴られ怒れるローゲが雄叫びを上げた。そして側にいたジークに拳を上げる。

「ローゲ!鎮まれ!」

 グライドが睨みつけてそう叫べばローゲの拳がぴたりと止まる。黒竜の全ての動きが縛られたように固まった。ローゲは目を瞠っている。辺りに沈黙が訪れた。

『なんだ?なんなんだこれ?!まさかコイツ‥‥』
『見事じゃ。それでこそ聖騎士ぞ。』
『聖騎士?!こいつやっぱり聖騎士なのか?!』
『おや、言っておらなんだかのぉ?』

 ファフニールのとぼけた声にローゲが固まったままガタガタと体を震わせる。ファフニールが怪訝な顔をするグライドの肩に舞い降りた。

「聖騎士が一体なんなんだ?」

 ファフニールが心得たようにその疑問に答えた。

『いやなに、竜は聖騎士に弱いんじゃ。特に闇の竜は聖騎士に逆らえない。こいつは闇属性ではないが闇堕ちが良い方に出たな。ほれ、震えておる、ばくを解いてやれ。』

 だから俺と契約させるように仕向けていたのか。グライドはやっと納得がいった。

「なら一言そういってくれればいいのに。」
『貴殿は顔に出るでな。知らない方がよかったじゃろ?』

 ローゲは可哀想なくらいガチガチに震えていた。それはもう小動物のように。グライドがよし、と言えば脱力し体を丸めてその場に伏せてしまった。

『聖騎士‥聖騎士‥とオレが契約‥‥』

 そう涙目でつぶやくローゲの目の焦点があってない。相当ショックだったようだ。先程の暴れん坊の様子は微塵も見られない。落差が激しすぎる。これじゃ俺がいじめたようじゃないか。流石にグライドも可哀想になった。

「まああれだ、悪さしなきゃ酷いことはしないから気落ちするな。」
『ほ、本当だろうな?』
「本当だ。その代わり騒ぎを起こすなよ?」

 そう言い震える頭を撫でてやると黒竜の輪郭が濡羽色に溶け出した。ぐぐぐと巨体が小さくなり、グライドの手の下には巨竜に代わり、濡羽色の艶やかな毛の黒猫が姿を表した。蒼い目がグライドを見上げる。

『まあこれも契約だ。仕方がない。このローゲ様がお前に従ってやろう、ありがたく思え!』

 黒猫のローゲはそんな尊大なセリフを吐いて、ふんと顔を背ける。長い尻尾でグライドの手をするりと撫でた。



 黒猫を連れて探索から駐屯地に戻れば戦争前かというくらいそこは殺気立っていた。
 聞けば森の深淵からこの世のものとも思えない唸り声と火柱があがり森の魔獣たちが一斉に逃げ惑ったらしい。
 何かとてつもない魔獣が森の奥にいる。森からそれが出てきた時に備え第八部隊はいつでも出撃できるように準備されていた。

 そんな中、お腹すいた!と元気よくジークが司令部の天幕に飛び込んだ。ただ一人落ち着いていたライマーは呑気に帰ってきた二人を呆れたように見ていた。

「さすが客員というか。まあ無事でよかった。」
「はぁ、なんだかすみません。」
「なぜ謝る?」

 騒ぎの元凶がこちらであるが話しても信じてもらえないだろう。そこで知らぬ存ぜぬを貫くようジークにも言ってある。この男になら話してもいいかもしれないと思ったが、何も言うな、とライマーに口止めされた。何かがあったと察したようだ。
 沼はなかった。そう報告すると、そうか、とライマーは短く答えただけだった。

 意図していなかったとはいえ竜をまた増やしてしまった。しかも今度はグライドが。流石に城に報告しにいかねばなるまい。あの竜嫌いの陛下からどんな雷が落ちるかグライドは心中で恐怖していた。
 そういうわけでライマーに離脱許可を願い出た。森の様子が落ち着いたらという条件で翌日から離脱許可がおりた。




「ほう、ローゲだったか。」
『よ、猊下。ご機嫌麗しゅう。』

 レオンハルトは黒猫の首根っこを摘み上げそう呟いた。黒猫のローゲもピンク色の肉球を見せて応える。レオンハルトの態度は落ち着いていた。落ち着きすぎていて身構えていたグライドはむしろ拍子抜けした。

「え?なぜ?なぜに大丈夫?」
「ローゲは他の竜と違い付き纏わなかった。それだけだ。」

 飽きたように放れば黒猫はくるりと回転して着地する。

「えーと、ではここで飼っても?」
「契約したのなら仕方ない。魔道具で封じるぞ。あと世話をしろよ。」

 あっさり許可がおりてさらに拍子抜けだ。側に寄せ付けないファフニールよりもむしろ無関心に近い。関心なら先程からテオドールがむずむずと示している。猫好きだったか。

『ま、オイラと猊下はいっつもこんな感じだった。他の奴らは群がりすぎだったし。あんなに群がって何が嬉しいんだかさっぱりだった。』

 そう言うローゲは日向で腹を出して寝っ転がっている。
 猫になったローゲはあの暴れん坊の性格はなりを潜め飄々ひょうひょうとしていた。やはり化ける形で性格が変わるのか。
 ファフニールの様に寂しがることもなくグライドにべったりということもない、と思われたが。

 ローゲは気がつくとグライドの足元にいたりストンと膝に乗ってきたりする。
 別にお前に甘えてるわけじゃあない!ないからな!とそっぽを向くが尻尾がビタンビタンとグライドの足を叩く。猫が故かなんか性分なのか色々屈折してるようにも思う。まあ怯えてビクビクされるよりはマシだが。
 そしてグライドの影にドボンと潜り込む。やっぱり闇属性残ってんじゃないか?

 ローゲはグライドの自宅では大歓迎を受けていた。

 シンクレアが嬉々としてお世話をしたがる。
 ブラッシングや爪切りをされるローゲは死を覚悟したように涙目でブルブル震えていた。まあそれぐらいは耐えてもらおうか。

 レオンハルトの魔道具の鈴を適当な紐に通して首にかけていたのだが、シンクレアより瞳の色と同じ真っ青なリボンに替えたいと言われた。
 リボンが解けないように封をする。そうすればさらに可愛らしくなってしまったが、煉獄のローゲ様がこんなんでいいのだろうか?

 ファフニールといいローゲといい、古竜は本当に愛玩動物なのかもしれない。

 そんな感じで、グライドの心配などなかったかのようにローゲは生活に溶け込んでいた。

 しかしローゲとの契約で自身の能力に影響が出始めていたことに、グライドが気がつくのはもっとずっと後のことであった。




「どうだった?あの二人は」

 レオンハルトは腕を組み、向かいに座る大男に面白そうに問いかける。その男、ライマーは盛大なため息を落とした。

 そこはライマーの天幕の中。人払いされた上にレオンハルトの結界が張られている。

 ライマーはレンハルトの手駒の一人。冒険者ギルドで声をかけられ、レオンハルトに興味を惹かれここの隊長を担っている。隊長任命はハンター、冒険者両ギルドに在籍する技量を買われてのことだ。

 レオンハルトを高位の役人だと思っていたがまさか王だとは思わなかった。そして何でも屋よろしく王様から持ち込まれる厄介な案件を対応していた。
 押し付けられる案件に戦力不足だと申し立てれば、これを使えと二人が送り込まれた。
 戦力としては十分だったがその二人ともが無自覚で世間知らずという厄介な代物だった。

「何でしょうかね。見た目以上に火力がありすぎて扱いづらい二人です。今後もうちで預かるようですか?」
「そのつもりだ。不満か?」

 レオンハルトの笑みを含んだ表情にライマーは目を閉じる。あの二人とはこれから長い付き合いになりそうだ。

「戦力として助かりますが厄介ごとも多い。先日は森から戻れば妙なものを手懐けている。あんなことをしょっちゅうされてはこちらの心臓が持ちません。」

 あの鷹にあの黒猫。本人達は無自覚で連れ回しているが、見る奴が見れば魔素の濃さで尋常ではない魔獣とわかる。こちらの正体を明かさずにそれをどう本人達にわからせるべきか。

「ああ、あれな。正体がわかってみれば何事もなかった。封印碑がなくなって魔獣達が目を覚ましだす頃だ。二人にはそこらへんの駆除もさせればいい。お前の呼び出しには優先させる。」
「今のところ駆除ではなく服従のみのようですが?二人を猛獣使いにでもなさるおつもりですか?」
「なるほど、それも面白いな。」


 くつくつと笑うレオンハルトを見てライマーはげんなりする。

 あんなバケモノを周りに悟られないように使いこなせと?躾るにしても強すぎて面倒この上ないことだ。厄介な獣たちを押し付けられたものだ。

 俺が猛獣使いにさせられた気分だ。

 ライマーは深いため息を落として天を仰いだのだった。
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