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第三章: ジーク、入隊する。
瘴気の沼の主②
しおりを挟む『ダメ。全然じゃん。』
「はぁ?!」
グライドは声をあげる。断るのと断れるのは意味が違う。しかもその言い草!なんてやつだ!!竜はやれやれといった風に手を広げる。
『こんな奴全然オレ様にそぐわない。契約?笑わせるな。しかも属性が最悪だ。』
だがファフニールが煽る。くつくつと嘲った。
『ほう、逃げるか。契約もできない言い訳なのではないか?』
『ぁんだと?!』
『ここにどれほど縛られた?次はいつここに人が現れるかのぉ。こんな小さな沼、主にはちょうどいいようだな。居心地良さそうだ。』
くつくつと嘲い続ける白き鷹に黒き竜はぐぐぐと言葉を詰まらせる。そしてジークを見下ろし指さした。
『じゃあそのチ‥じゃなくてジークとやらと契約してやる!!』
『この阿呆が!殿下とは我と契約済みじゃ!重契約は許さんぞ!』
「オレもヤダこんなヤツ。」
あ、ジークに嫌われた。禁句言いまくったせいだろう。
竜がぐぐぐと言葉を詰まらせ、グライドを見やったあとファフニールに自棄のように吐き捨てる。
『仕方ねぇ!こんなんだが契約してやる!そして貴様をブン殴る!!』
「だから契約しないと言っている!人の話を聞け!!」
こんなん呼ばわりされグライドがキレる。竜はグライドに向き直る。
『ぁんだその口の利き方は?!せっかくこのオレ様が特別に!オマケで!お情けで!お前如きを選んでやってるのに!!虫以下の存在が!踏み潰される前にさっさと名をよこせ!!』
「それが契約してもらうやつの態度か?!誰がやるか!!」
今度は竜とグライドが睨み合う。
ファフニールがグライドの肩にとまり囁いた。
『この竜を退けないと帰れないのであろう?』
グライドはぐっと言葉を詰まらせる。
『契約により承伏させるか、叩きのめすか。叩きのめしてもいいがそうなればこの森は壊滅じゃな。』
「なんでそうスケールがデカくなる?!」
『腐ってもあやつも古竜、物理はないが魔法は使えよう。獄炎も吐けるようじゃ。総力戦を覚悟すればそうなろうよ。まあ我もこの足輪を砕けばこんな森、造作もないがな。』
あいつも古竜なのか?!古竜が二頭も!なんなんだこの森は?!
壊滅?魔封の森が丸焼けになってみろ。方々から俺がタコ殴りになるだろ。特に獅子と狼がおっかねぇ!
『まあ契約の方が楽ではあるな。なあに、名を与えて後は放し飼いにしておけばいい。主の命には絶対服従、違えることはできん。』
「契約ならアレクにさせた方がよくないか?」
『月輪の陛下の手を煩わせる程のものでもござらん。このような下品な竜は陛下にそぐわない。』
「俺ならいいのかよ!!」
ファフニールははて何だったかの、とぽりぽり頭を掻いて耳が遠いふりをする。こいつ、都合が悪くなるとじじぃのふりをしやがる!そもそもさっきから怪しい。
「‥‥お前、俺に竜と契約させたがってないか?」
『そ、そそ、そんなことはないぞ?』
ファフニールが声を裏返して視線を逸らす。下手くそな口笛まで吹いてみせる。鷹の嘴で器用だな。そして嘘も下手くそだ。
どうやら俺を竜騎士にさせたがっているようだ。竜騎士なんぞ俺的には全然いいところがない。だがこの竜が邪魔なのも事実だ。
「そもそもあれは闇属性じゃないか?俺は聖属性だし無理だろ?」
『あれは闇ではない、闇ではな。契約すれば属性は変わる。問題はない。そもそもあれは主なしで置いておかない方がいい。』
最後に物騒なことを言われた。どんだけヤバい竜なんだ?確かに野放しにするには危険なようにも思うが。
陛下は竜をなんと言っていた?寂しがり?ひっつき虫?うざったいのはごめんだが、このオレ様な竜に限ってそれはないようにも思える。
「契約は絶対なんだろうな?」
『絶対じゃ。』
厳粛にファフニールが頷いてみせた。グライドはしばらく躊躇った後長いため息をついた。
「仕方がない。契約してやる。」
『おい!オレが契約してやるんだ!言葉を慎め!』
「お前が慎め!主人は俺だぞ?!」
『誰がそんなことを決めた?!』
とことん相性が悪いじゃないか!!ほんとに大丈夫なのか?
そうして名付けの契約が始まった。
あれからどれほどの時間が経っただろうか。一行はまだ瘴気の沼の側にいた。ジークは待ちくたびれて寝てしまっている。俺ももうやめたい。これはいつまで続くんだ?
『それもダメだ。なんでそんなダサい名前しか出てこないんだ?』
黒い竜がぷいと顔を背ける。グライドが名前をつけるも竜はダサい!つまらん!下手くそ!とその名を拒否する。
名付けとはこういうものだったろうか?なぜ竜が拒絶する?そもそも拒否権あるんか?もう契約したくないんじゃないか?
名前のネタがなくなり“A“から始めた片っ端名付けは”P“まで来た。そしてまだ名付けはできない。
グライドはなんとなくわかっていた。これは竜の中で名前が決まっていてそれが出るまで終わらない。これはもはや名付けではなく名前当てだ。だから片っ端から名前を出しているのだが。いっそその名を教えてくれればそれでいいのだが、契約の建前上俺が名付けないといけないらしい。そうしてこの長丁場となっている。
グライドは嘆息した。本当に面倒臭い。
「もう契約なしでよくね?」
『それはお前が決めることじゃねぇ!さっさと次を出せ!!』
「もういい、自分でなんかつけろ。あるんだろ?それにする。」
『そんなものない!!それじゃ契約ができねぇんだよ!説明を聞いていたか?!』
竜がイライラとグライドを睨みつける。
兄ちゃん腹へった~とジークが伸びをしてあくびをした。もう陽も傾き出している。今日のところは出直してまた明日にするか。
「そうだな、今日は一旦帰るか。」
『はぁ?!ここまでやって帰るのか?馬鹿なのか?!』
竜が急におたおた慌て出す。もう面倒臭いことこの上ない。グライドがジト目で竜を見上げた。
「いやぁもう契約できる気がしない。」
『そ、それはお前のセンスがないから!あともう少しなのに!!』
やっぱり決まった名前があるのか。そしてなんでこんなに慌てるんだ?よくわからないやつだ。
ファフニールがふむ、と首を傾げる。
『あの名前に拘っているのかのぅ』
「なんかあるのか?教えてくれ!!」
『そういうのはよくないのじゃがなぁ』
「じゃあさあ、こういうのはどう?」
ジークとファフニールがごにょごにょ話をしている。そうしてこほんとファフニールが咳払いをした。
『それではグライド殿、我のいう音を出すんじゃぞ。R音のOの音は?』
「ろ?」
『それを伸ばして』
「ろー?」
『G音のEの音は?』
「んー、げ?」
『それらを全てつなげて』
「ろーげ?」
『おっっっっしゃ!やっと出た!!』
黒い竜が雄叫びをあげて首を天に逸らした。
おい!こんなんでいいのか?名付けとは一体?!しかも“R”だったか。“P”まできてたのに!くっそー!あともうちょっとだった!!俺の今までの苦労と努力が!!
グライドは別の意味で悔しがる。
名を得た竜の体が震える。
輪郭がふわりと溶ける。魔素が一層濃くなり様々な色を湛える。黒、青、赤、黄。それは艶やかな濡羽色。それが竜の形を変える。
背にはコウモリの羽の代わりに大きな一対の翼、蜥蜴のような鱗で覆われた尻尾は滑らかなものに、そして全身を漆黒を湛えた羽が覆う。羽ばたけばその濡羽が宙を舞い光を浴びてキラキラと輝いた。
長い首に黒いたてがみ、そして硬い鱗のような皮が現れ頭部に二対の角を生やした。開かれた瞳には青炎燃焼を思わせる蒼の炎が湛えられていた。その姿は正しくファフニールの対極であった。
『我が名はローゲ!再びこの地に降臨したる煉獄の竜ぞ!この世の生きとし生けるものよ!恐れ慄いて我が前にひれ伏すがいい!!』
ローゲは口から黒炎を空に吐き出し吠える。その声が森中に轟いた。
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