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第二章: ジーク、冒険者になる。
竜を飼いたい!!!
しおりを挟む「ダメに決まっているだろうが!!」
こめかみを揉んだレオンハルトが正面のグライドを睨んだ。
ラウエン家ファミリーと別れ、飛竜二頭で森を後にした二人は冒険者ギルドに寄り正式に依頼の取り消しを受けた。
手続きの行き違いがあった、と受付嬢から平謝りされた。ジークは残念そうだったが仕方がない。依頼はまた改めて受けることにした。
依頼は未達だが冒険者登録まではできた。そうして二人は課題達成の報告のため登城したが、そこでファフニールがゴネた。猊下がおられる!一目ご尊顔を!!と譲らなかった。そこで皆で知恵を絞る。
もっと小さくなれば白いアヒルに見えなくね?
そこでジークの肩に乗るくらいまで小さくしてみた。そんな鳥がいるかもしれない、くらいまで擬態できた。
そうして報告のため執務室に入ったのだが、入った早々にレオンハルトにバレた。
そして現在のお説教に至る。
「なぜ連れてきた?!王宮に魔獣?しかも竜を飼う?お前の常識を疑うぞ!!ラウエン家に毒されすぎだ!!」
あれー?なんでだー?これでいけると思ったのだが。
グライドの隣にはジーク。その肩には白い鳥のような違うような生き物が乗っている。それがうるうると目を潤ませレオンハルトを見ていた。もう泣き出さんばかりだ。
『猊下!猊下!なんと眩い‥‥』
うーん?デカい時は威厳たっぷりだったが小さくなったらチョロくなったな。性格変わった?
一方その泣き虫な竜の様子にレオンハルトは腹立たしさを隠さない。
「飼うのはダメだ。拾ったところに戻してこい。」
「え?かわいそうだよ!ちゃんとオレが世話します!散歩もします!なんとか飼わせて下さい!お願いします!」
ほらかわいいでしょ?とジークはファフニールをレオンハルトに差し出すも手で払われる。
あれれ?陛下は竜が苦手ですか?
もう捨て犬を拾って飼いたいとゴネている子供と親のやりとりのようだ。だが子供の押しが弱い。いやいや、ここは情より竜の良さを訴えないとだろ。
グライドは援護射撃を出してみた。
「餌もいらない。鳴かない。家も痛めません。」
「当たり前だ!!」
「躾ければ芸もしそうですし、城に竜がいるなんてよくないですか?有事で使えますよ。」
「どんな有事だ?!」
レオンハルトの突っ込みが鋭い。
それほどに嫌なのか。カッコよさに訴えてみるか。
「陛下専用の飛竜にしたら凄くないですか?」
「飛竜は間に合っている。そもそも俺は飛竜に乗る必要もない。」
ですよね。とりつく島もない。
テオドールは最初は驚いていたが、今は呆れている様子だった。眉間に手を当てて目を閉じている。
「だいたい何処で飼うつもりだ?王宮内は論外だ!」
「えー?飛竜小屋とかダメですか?」
レオンハルトは呆れを通り越して可哀想な子を見る目をグライドに向ける。
「竜と呼ばれているからといって同じ竜と思うなよ。飛竜小屋にこれを突っ込めば、他の飛竜は皆ショック死だ。ウサギ小屋に狼を突っ込むに等しい。」
「え?そうなんですか?」
あれ?感覚麻痺してた?だからさっき二頭で飛んだ時に飛竜が震えてたのか。腹が減ってると思ってた。
やばい。これを飼う場所がなくなってしまった。王宮の噴水や池に入れるのはダメか?水鳥っぽくてよくね?
「噴水や池もダメだ!!」
オウムっぽく部屋にポールハンガーを置いてそこに。
「それもダメだ!屋内は絶対許さんぞ!!」
ゲージを置いて。
「どこにゲージを置くと?!人の目に晒される!!」
レオンハルトがグライドの思考を読む。もう以心伝心がすごい。
レオンハルトがさらに呆れたように竜を見やる。
「しかもあれは古竜だ。古竜とは聞いてなかったぞ。これを飼うなど聞いたことがない。」
俺は飛竜じゃない竜を飼うのが初めてです。
しかし古竜?聞いたことがない。
「古竜ですか?なんでしょう?」
「竜の上位種だ。始祖王の時でさえ数頭しかいなかった。伝説級だ。それが何故魔封の森に居た?」
『猊下!お忘れですか?!ファフニールでございます!!』
ファフニールが必死の形相で訴える。怒られていると知って黙っていたようだが我慢できなかったようだ。
レオンハルトがピクリとする。
「ファフニール?あの?」
「どの?ですか?」
ふうと息を吐いたテオドールが話をする。
「絵物語に登場する始祖王の配下の竜です。名はファフニール。」
「そうそう!神竜ファフニール!カッコいいよね!!」
そんな名前だったか。ジークの名付けは絵本から取ったのか。ダサい名前じゃなくて良かったと思ったが。なんだパクリか。
『畏くも猊下と共に魔素と戦い、我は力尽きてあの地で眠りにつきました。猊下がご無事で本当にようございました。』
当時を思い出したのか、感じ入ったようにはらはらと泣き出す。器用に前足で涙を拭った。見た目は鳥っぽいがよく見ると翼以外に足が四本ある。どっちか消させないとすぐバレそうだ。
レオンハルトはしばし思案しきっぱり言い切る。
「さっぱりわからん。」
『猊下!!』
「そこらへんの記憶が曖昧だ。だが竜は覚えている。だから捨ててこい。」
「えええ?そんなぁ。」
ショックで目を潤ませたファフニールをジークが抱きしめる。ファフニールに釣られてか涙目だ。
しかしここで飼えないと今後の扱いが面倒だ。毎週森通いなんてやってられない。なんとか城で飼いたいところなのだが。ダメの理由がわからないと説得もできない。
「なぜそれほどダメなのでしょうか?」
レオンハルトはふぅと椅子の背もたれに寄りかかる。
「お前らは竜の恐ろしさがわかっていない。これは恐ろしい存在だ。」
え?なにそれ?見たまんまじゃないの?
そんなヤバい生き物だったか。グライドがごくりと喉を鳴らした。レオンハルトが真顔になり声を低くする。
「いいか?竜は寂しがりだ。それはもう酷いものだ!始終巨体でひっつき虫のように主人に付き纏う。そして猊下猊下と涙する。うざったくてしょうがない!」
え?そっち?
「それが十、二十になってみろ。うざすぎて発狂する。だから始祖王は竜を各地に分散して竜の村に封じた。うざったいからだ!」
うわぁ実は酷い話だった。これは始祖王の心的障害?
だから竜に会うのを嫌がったのか。でもアレクかジークが契約して同じ目に合うのはいいと思ったんだよな。それもひどくね?
「え?じゃあ一匹なら楽勝?」
ジークが目をキラキラさせてみせる。おいおい、どんだけポジティブシンキングだ?
グライドは切り替えて打開策を出す。
「えーと、それでは付き纏いはジークのみということでいかがでしょうか?主はジークですし。ジークの肩の上に常に乗せておけば悪さもしないでしょうし。」
うんうん!とジークが全力でぶんぶん頷く。竜はひしとジークの首にひっついている。四つのうるうる目がレオンハルトを見た。
レオンハルトはじぃっとジークと竜を見て諦めの息を吐いた。
「わかった。ただし魔道具で姿を封じる。ジークはしっかり世話をするように。怠った場合は俺がお前を八つ裂きにするぞ。」
「はい!ありがとうございます!!」
八つ裂きってどんだけ心的障害なんだ。だが何とか許可がおりた。
「よかったな、ジーク」
「うん!ありがと!兄ちゃん!オレ世話頑張る!」
気合が入っているところ申し訳ないが、多分言うほど世話は必要ない。
魔素でできた魔獣は飯も排泄も風呂もない。ただ魔素を喰らうだけ。それに羽毛がちょっと抜けるとか。
あとはたまに外飛ばしておけばいいくらいだ。それさえも勝手にやれと言えばするくらいの知能が十分にある。寂しがりだから必ず主人の許に戻るだろう。だから綱もいらない。抜けた羽毛の掃除さえ自分でしそうだ。
ジークが毎日する世話といえば、話し相手になって泣いたら慰めるくらいだろう。
ファフニールはご機嫌でジークに頬擦りしている。懐きっぷりがすごい。古竜は愛玩動物か?
これで森通いはなくなったな。アレクに報告しておかなくては。
ファフニールは気をつけて擬態するようになったので、見た目は白い鷹の姿となった。魔素の薄い王宮ではいっそ小さい体の方がいいくらいだと言っていた。
レオンハルトが作った魔道具の足環をつけているので、そう簡単に竜に戻れない。それでも本人は主人の側にいられて幸せのようだ。
たまに王宮の庭で鷹を飛ばすと辺りから一斉に鳥や獣がいなくなる。魔道具で姿を封じられてもそれくらい恐れられているようだ。
こうしてジークは白い鷹を肩に乗せた従者見習いとして王宮内に知られるようになった。
実は伝説級の古竜を従えたとは露ほども思われていない。
そうしてここに幼い竜使いが誕生した。
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