25 / 44
第二章: ジーク、冒険者になる。
ピクニック
しおりを挟む「で?その森のじいちゃんにはどこに行けば会えるんだ?」
「うーん、どこだったっけ?」
大きな体躯の魔獣に囲まれたジークがその問いにきょとんとする。
グライドは嘆息した。これはダメだ。今までの話だと湖にいる、しか情報がない。ジークは会ったことがないというのも弱かった。
「そこ大事だろうが!まあひとまず湖畔を回ってみるか?」
「そだね!」
ひょいと白虎に跨り、歩み出した。赤熊がその左右に侍る。
まるで森の王様の行進だな。その背後からグライドはついていった。
湖は大きい。森の木々を避けながら湖畔を大きく回る。湖を見ても竜の気配は、異常は感じられなかった。
そもそもが漠然とした依頼だ。出会えるまで達成条件が満たせない。すぐ見つけられると思ってたが、流石に甘かったか。
その時、先を行くジークがびくりとした。後ろから見ても様子がおかしい。獣が毛を逆撫でる緊張感があった。獣の行進が止まる。白虎が背のジークを仰ぎ見た。
「なんだ?どうした?」
グライドも警戒するも何もない、と思われた。ジークは白虎の上で手をつき四つん這いで身を屈める。呼吸を浅くして気配を探っていた。それがかなり広範囲だということをグライドは魔素探知でわかった。不意に顔を上げた。
「やっぱりいた!!あっち!!」
そう言って白虎の背から飛び降り猛烈な勢いで走り出した。砂煙が上がりその一瞬で姿を見失った。
遠くで森の木が倒れる音がする。鳥が飛び立ち獣の吠える声がした。グライドは舌打ちした。何やってんだあいつ!!慌てて跡を追った。
ジークが通ったところは地面が抉れているから追跡はできるが速度で追いつけない。×30の腕輪で加速した。白虎がグライドの斜め前を軽やかな足取りで飛ぶように進む。赤熊二頭は脱落したようだ。
急に視界が開ける。湖畔に出た。そこに立つジークの姿を見つける。きょろきょろとあたりを見回していたがある一点を見つめて駆け出した。
そして草むらの向こうにいる侍女に飛びついた。
「ロザリー!みいつけた!!」
飛びつかれた侍女、ロザリーはふわりとジークを受け止めた。
「やはりぼっちゃまでしたか。気配を感じました。」
「やった!オレってすぐわかった?」
「とても大きな気配でしたので。」
嬉しそうにゴロゴロと擦り寄るジークにグライドは唖然とした。
この広大な森の中で、あんなに遠くからロザリーの気配を察知しただと?バケモンだ!
「騒がしいと思ったらジークだったの?それにグライドも?」
「母様!エル!」
草むらの奥からメリッサとエレオノーレが顔を出した。なぜ奥様やエレオノーレが森の深淵部の湖にいるんだ?
メリッサとエレオノールは探索者の装備を身につけていた。
メリッサは昔の勇姿を彷彿とさせる佇まいだ。ただ身につけている護符の数が尋常じゃない。今のグライドにはそれが気配だけでわかる。
アレクの心配症か、どれだけ身につけさせているんだ?これものすごく金がかかっている。
エレオノーレも同じく探索者姿であったが、メリッサ譲りの装備が本格的でもう本物のようだ。そして五歳にしてこの貫禄。もうハンター登録していいんじゃね?
「これは一体どういうことですか?」
「そうねぇ、結論から言うと家族で竜を見に来ていたところよ。」
なぜそうなった?!ハンターや冒険者ギルドの上級クエストなのに!!しかもめちゃくちゃノリが軽い。グライドの目がジト目になる。
「結論だけではわかりません。」
「そうよね。じゃあ掻い摘んで言うと。」
竜がいるという報告がハンターギルドから上がってきた。
流石に竜はないだろう、と夕食の団欒で話していると、エレオノーレの探索者訓練にちょうどいいのではないかという話になった。エレオノーレが探索で出会った湖に住むおじいちゃんの話をすれば、双子の弟のフィリクスも行きたいと言い出す。
こうなればラウエン家の斜め上が顔を出した。
「それなら皆で竜を見に行こう。エルの仲良しの森のじいちゃんに会ってみたいと思っていたしな。」
「おじいちゃん、きっと喜ぶ。」
「長くなるかもしれないからお弁当も持っていきましょう。ロザリーに言っておきますね。」
「茶請けはパイがいいな。」
「二種類準備しましょうね。」
「ミートパイがいい!明日はちょうど天気もいいみたいだよ!」
「アップルパイも。」
「そういえばあなたたちはどうしてここに?」
語り終えたメリッサが不思議顔になる。
緊張感のない話にグライドは額に手を当てて嘆息する。
家族ピクニックか!!魔封の森の深淵部に?!そもそもがエレオノーレの探索者訓練?まだ五歳なのに?上級クエストなのに凄くない?
一番の常識人と思われていたメリッサが止めていない。もうすっかりラウエン家に染まってるようだ。
メリッサの問いにどう説明しようかとチラリとジークを見やる。ブランケットの上でジークはロザリーからサンドイッチをもらって美味しそうに齧り付いていた。いつの間にか白虎も欠片を頬張っている。
そうしてジークは咀嚼しながらロザリーとエレオノーレに冒険者カードを見せていた。
「兄さまいいなぁ。私も欲しい。」
賑やかな雰囲気は揶揄なしで、本当にピクニックの様相になってきた。ラウエン家恐ろしい。
「えっと、その説明の前に、アレクはいないんですか?それにフィリクスも。」
「二人なら今エルのおじいちゃんを探しに潜っているわ。」
「出てこないから心配。おじいちゃん弱ってたから。」
口数少なくエレオノーレが俯いて話す。エレオノーレが仲良しと言っていたから気にかけているのだろう。
ざばりと湖面が鳴ってアレックスが水面から顔を出した。髪をかき上げながら湖畔に上がってきた。風魔法で服を乾かす。
「気配がしたから戻ってみれば、やはりジークにグライドだったか。」
「父ちゃん久しぶり!」
ソースまみれの顔でジークが手を振った。グライドが呆れる。
お前何食ったらそんな顔に?久しぶりって先週家に帰ってただろ?どういう感覚だ?
アレックスはジークの頭をぐりぐり撫でる。
「お前たちも竜を見にきたのか?」
「まあそうだけど、冒険者ギルドの依頼だ。お前が出してたろ?」
ああ、といってアレックスは頭を掻いた。
「行き違いになったか。あれは手違いで出してしまった。すぐに取り消しを出したんだがな。」
「依頼取り消し?」
やば。取り消しならこれ無駄骨じゃんか。多分明日まで待機していれば取り消し連絡が間に合ったんだろうなぁ。
なぜ冒険者ギルドの依頼を?と言う話になりかけたところでエレオノーレがアレックスの服の裾を引っ張った。
「とうさま、おじいちゃんどうだった?」
エレオノーレが心配げに問いかける。アレックスはしゃがんで目線を合わせる。
「そうだな、元気がないみたいだ。今フィリクスが側についている。魔素をかき集めたいんだが、二人だけでは足りなかった。エルも呼ぼうと思ったが、ジークがいるなら足りるかもしれない。」
「え?オレ?いいよ!いくいく!」
「ちょっと待った!!」
グライドが割って入る。どうも話が読めない。
「元気がないのは一体誰だ?じいちゃんとは何者だ?」
「誰‥だろうな。元気がないのはエルのじいちゃんだがたぶん竜だ。」
「たぶん?」
「形が定まっていない。あれは自分は竜だと言っている。そういう存在だ。」
ますますわからない。こういう場合それ竜じゃないんじゃないの?
「だいぶ弱っているから魔素を与えてみようという話になっている。そうすれば形を具現化できるかもしれない。」
「推測だらけだな。そいつ、危なくないのか?」
アレックスはうーんと唸る。判断に迷っているようだ。
「たぶん大丈夫だ。だったとしても俺がねじ伏せる。あと猊下に会いたいと言っている。」
「誰それ?」
「わからない。名は忘れたそうだ。だが俺を見てそう言っていた。だから‥‥」
ならばたぶんそれ、陛下のことだ。きっと。
だがだからと言って安心はできないのだが。
「とう!!」
そんなことを話している間にジークが湖に飛び込んだ。助走をつけた走り飛び込みだ。
助走と呼べない速度から空中を飛んでかなり遠くに水柱が立つ。
おい、変な掛け声覚えたな。
「ではもう一度行ってくるか。リックスも待っている。グライド、ちょっと魔素がキツいことになると思う。メリッサとエルを頼む。」
アレックスも湖面に潜った。そのじいちゃんが出てくるまでここで待機か。何も起こらなければいいが。
白虎はいつの間にかロザリーの側に伏せて目を閉じている。その頭をロザリーが撫でる。侍女に猛獣。これも絵面がとってもシュールだ。
もう猫みたいに懐いてない?一応伝説級なんだけど?この場合はこの侍女の凄さを讃えればいいのか?
メリッサがにこやかな声をあげる。エレオノーレもお行儀よくブランケットに乗っている。
「グライドも一緒にお茶をどう?パイもあるわ。ミートパイとアップルパイ、どちらがいいかしら。」
「ではミートパイで。」
本当にピクニックになってしまった。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
自然神の加護の力でのんびり異世界生活
八百十三
ファンタジー
炎神インゲ、水神シューラ、自然神カーンの三柱の神が見守り、人々と魔物に加護を与えて発展させている異世界・ルピアクロワ。
その世界に、地球で命を落としたごく普通の中学生・高村英助の魂が流れ着く。
自然神カーンの手によってヴァンド市の羊飼い、ダヴィド家に一人息子のエリクとして転生した英助は、特筆すべき能力も見出されることもなく、至極平穏な日々を過ごすはずだった。
しかし12歳のある日、ダヴィド家の家政婦である獣人族の少女・アグネスカと共に、ヴァンド市近郊の森に薪を拾いに行った時に、彼の人生は激変。
転生する時にカーンから授けられた加護の力で「使徒」の資格を有していたエリクは、次々と使徒としてのたぐいまれな能力を発揮するようになっていく。
動物や魔物と語らい、世界を俯瞰し、神の力を行使し。
そうしてラコルデール王国所属の使徒として定められたエリクと、彼に付き従う巫女となったアグネスカは、神も神獣も巻き込んで、壮大で平穏な日常を過ごしていくことになるのだった。
●コンテスト・小説大賞選考結果記録
第1回ノベルアップ+小説大賞一次選考通過
HJ小説大賞2020後期一次選考通過
第10回ネット小説大賞一次選考通過
※一部ボーイズラブ要素のある話があります。
※2020/6/9 あらすじを更新しました。
※表紙画像はあさぎ かな様にいただきました。ありがとうございます。
※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、ノベルピア様にも並行して投稿しています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886818732
https://ncode.syosetu.com/n1574ex/
https://novelup.plus/story/382393336
https://estar.jp/novels/25627726
https://novelpia.jp/novel/179
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
キャンピングカーで異世界の旅
モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。
紹介文
夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。
彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる