元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第二章: ジーク、冒険者になる。

ピクニック

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「で?その森のじいちゃんにはどこに行けば会えるんだ?」
「うーん、どこだったっけ?」

 大きな体躯の魔獣に囲まれたジークがその問いにきょとんとする。
 グライドは嘆息した。これはダメだ。今までの話だと湖にいる、しか情報がない。ジークは会ったことがないというのも弱かった。

「そこ大事だろうが!まあひとまず湖畔を回ってみるか?」
「そだね!」

 ひょいと白虎ヴァイスに跨り、歩み出した。赤熊がその左右にはべる。
 まるで森の王様の行進だな。その背後からグライドはついていった。

 湖は大きい。森の木々を避けながら湖畔を大きく回る。湖を見ても竜の気配は、異常は感じられなかった。
 そもそもが漠然とした依頼だ。出会えるまで達成条件が満たせない。すぐ見つけられると思ってたが、流石に甘かったか。

 その時、先を行くジークがびくりとした。後ろから見ても様子がおかしい。獣が毛を逆撫でる緊張感があった。獣の行進が止まる。白虎が背のジークを仰ぎ見た。

「なんだ?どうした?」

 グライドも警戒するも何もない、と思われた。ジークは白虎の上で手をつき四つん這いで身を屈める。呼吸を浅くして気配を探っていた。それがかなり広範囲だということをグライドは魔素探知でわかった。不意に顔を上げた。

「やっぱりいた!!あっち!!」

 そう言って白虎の背から飛び降り猛烈な勢いで走り出した。砂煙が上がりその一瞬で姿を見失った。

 遠くで森の木が倒れる音がする。鳥が飛び立ち獣の吠える声がした。グライドは舌打ちした。何やってんだあいつ!!慌てて跡を追った。

 ジークが通ったところは地面が抉れているから追跡はできるが速度で追いつけない。×30の腕輪で加速した。白虎がグライドの斜め前を軽やかな足取りで飛ぶように進む。赤熊二頭は脱落したようだ。

 急に視界が開ける。湖畔に出た。そこに立つジークの姿を見つける。きょろきょろとあたりを見回していたがある一点を見つめて駆け出した。
 そして草むらの向こうにいる侍女に飛びついた。

「ロザリー!みいつけた!!」

 飛びつかれた侍女、ロザリーはふわりとジークを受け止めた。

「やはりぼっちゃまでしたか。気配を感じました。」
「やった!オレってすぐわかった?」
「とても大きな気配でしたので。」

 嬉しそうにゴロゴロと擦り寄るジークにグライドは唖然とした。
 この広大な森の中で、あんなに遠くからロザリーの気配を察知しただと?バケモンだ!

「騒がしいと思ったらジークだったの?それにグライドも?」
「母様!エル!」

 草むらの奥からメリッサとエレオノーレが顔を出した。なぜ奥様やエレオノーレが森の深淵部の湖にいるんだ?
 メリッサとエレオノールは探索者シーカーの装備を身につけていた。

 メリッサは昔の勇姿を彷彿とさせる佇まいだ。ただ身につけている護符の数が尋常じゃない。今のグライドにはそれが気配だけでわかる。
 アレクの心配症か、どれだけ身につけさせているんだ?これものすごく金がかかっている。

 エレオノーレも同じく探索者姿であったが、メリッサ譲りの装備が本格的でもう本物のようだ。そして五歳にしてこの貫禄。もうハンター登録していいんじゃね?

「これは一体どういうことですか?」
「そうねぇ、結論から言うと家族で竜を見に来ていたところよ。」

 なぜそうなった?!ハンターや冒険者ギルドの上級クエストなのに!!しかもめちゃくちゃノリが軽い。グライドの目がジト目になる。

「結論だけではわかりません。」
「そうよね。じゃあ掻い摘んで言うと。」

 竜がいるという報告がハンターギルドから上がってきた。
 流石に竜はないだろう、と夕食の団欒で話していると、エレオノーレの探索者訓練にちょうどいいのではないかという話になった。エレオノーレが探索で出会った湖に住むおじいちゃんの話をすれば、双子の弟のフィリクスも行きたいと言い出す。

 こうなればラウエン家の斜め上が顔を出した。

「それなら皆で竜を見に行こう。エルの仲良しの森のじいちゃんに会ってみたいと思っていたしな。」
「おじいちゃん、きっと喜ぶ。」
「長くなるかもしれないからお弁当も持っていきましょう。ロザリーに言っておきますね。」
「茶請けはパイがいいな。」
「二種類準備しましょうね。」
「ミートパイがいい!明日はちょうど天気もいいみたいだよ!」
「アップルパイも。」


「そういえばあなたたちはどうしてここに?」

 語り終えたメリッサが不思議顔になる。

 緊張感のない話にグライドは額に手を当てて嘆息する。 

 家族ピクニックか!!魔封の森の深淵部に?!そもそもがエレオノーレの探索者訓練?まだ五歳なのに?上級クエストなのに凄くない?
 一番の常識人と思われていたメリッサが止めていない。もうすっかりラウエン家に染まってるようだ。

 メリッサの問いにどう説明しようかとチラリとジークを見やる。ブランケットの上でジークはロザリーからサンドイッチをもらって美味しそうに齧り付いていた。いつの間にか白虎も欠片を頬張っている。
 そうしてジークは咀嚼しながらロザリーとエレオノーレに冒険者カードを見せていた。

「兄さまいいなぁ。私も欲しい。」

 賑やかな雰囲気は揶揄なしで、本当にピクニックの様相になってきた。ラウエン家恐ろしい。

「えっと、その説明の前に、アレクはいないんですか?それにフィリクスも。」
「二人なら今エルのおじいちゃんを探しに潜っているわ。」
「出てこないから心配。おじいちゃん弱ってたから。」

 口数少なくエレオノーレが俯いて話す。エレオノーレが仲良しと言っていたから気にかけているのだろう。

 ざばりと湖面が鳴ってアレックスが水面から顔を出した。髪をかき上げながら湖畔に上がってきた。風魔法で服を乾かす。

「気配がしたから戻ってみれば、やはりジークにグライドだったか。」
「父ちゃん久しぶり!」

 ソースまみれの顔でジークが手を振った。グライドが呆れる。
 お前何食ったらそんな顔に?久しぶりって先週家に帰ってただろ?どういう感覚だ?
 アレックスはジークの頭をぐりぐり撫でる。

「お前たちも竜を見にきたのか?」
「まあそうだけど、冒険者ギルドの依頼だ。お前が出してたろ?」

 ああ、といってアレックスは頭を掻いた。

「行き違いになったか。あれは手違いで出してしまった。すぐに取り消しを出したんだがな。」
「依頼取り消し?」

 やば。取り消しならこれ無駄骨じゃんか。多分明日まで待機していれば取り消し連絡が間に合ったんだろうなぁ。
 なぜ冒険者ギルドの依頼を?と言う話になりかけたところでエレオノーレがアレックスの服の裾を引っ張った。

「とうさま、おじいちゃんどうだった?」

 エレオノーレが心配げに問いかける。アレックスはしゃがんで目線を合わせる。

「そうだな、元気がないみたいだ。今フィリクスが側についている。魔素をかき集めたいんだが、二人だけでは足りなかった。エルも呼ぼうと思ったが、ジークがいるなら足りるかもしれない。」
「え?オレ?いいよ!いくいく!」
「ちょっと待った!!」

 グライドが割って入る。どうも話が読めない。

「元気がないのは一体誰だ?じいちゃんとは何者だ?」
「誰‥だろうな。元気がないのはエルのじいちゃんだがたぶん竜だ。」
「たぶん?」
「形が定まっていない。あれは自分は竜だと言っている。そういう存在だ。」

 ますますわからない。こういう場合それ竜じゃないんじゃないの?

「だいぶ弱っているから魔素を与えてみようという話になっている。そうすれば形を具現化できるかもしれない。」
「推測だらけだな。そいつ、危なくないのか?」

 アレックスはうーんと唸る。判断に迷っているようだ。

「たぶん大丈夫だ。だったとしても俺がねじ伏せる。あと猊下に会いたいと言っている。」
「誰それ?」
「わからない。名は忘れたそうだ。だが俺を見てそう言っていた。だから‥‥」

 ならばたぶんそれ、陛下のことだ。きっと。
 だがだからと言って安心はできないのだが。

「とう!!」

 そんなことを話している間にジークが湖に飛び込んだ。助走をつけた走り飛び込みだ。
 助走と呼べない速度から空中を飛んでかなり遠くに水柱が立つ。
 おい、変な掛け声覚えたな。

「ではもう一度行ってくるか。リックスも待っている。グライド、ちょっと魔素がキツいことになると思う。メリッサとエルを頼む。」

 アレックスも湖面に潜った。そのじいちゃんが出てくるまでここで待機か。何も起こらなければいいが。

 白虎はいつの間にかロザリーの側に伏せて目を閉じている。その頭をロザリーが撫でる。侍女に猛獣。これも絵面がとってもシュールだ。
 もう猫みたいに懐いてない?一応伝説級なんだけど?この場合はこの侍女の凄さを讃えればいいのか?

 メリッサがにこやかな声をあげる。エレオノーレもお行儀よくブランケットに乗っている。

「グライドも一緒にお茶をどう?パイもあるわ。ミートパイとアップルパイ、どちらがいいかしら。」
「ではミートパイで。」

 本当にピクニックになってしまった。 


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