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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。
御前試合①
しおりを挟むそして御前試合当日。レオンハルトとグライド、テオドールはラウエン家別邸裏庭にいた。
庭に立ったグライドは聖騎士専用のミスリル製の鎧姿。御前試合という公の場に出るにあたりテオドールより正装の指示が出たのだ。
まだ聖騎士叙任の事実は知れ渡っておらず、顔見知りの使用人たちから好奇の目を向けられていた。
グライドは御前試合の連絡を受けた時唖然とした。
なぜここなんだ?もっとひと気のない場所にするかと思ったのに。ここでは使用人たちが全員観戦するだろう。
思った通り、窓という窓に使用人たちが集まっている。酒や料理を手に楽しそうだ。お前ら、仕事はいいのか?
そんな中、当然のように中央の特等席にはメリッサ、ルクレティア、エリス、ツェーザル、ダリウスの姿があった。バース、ロザリーも側に控えている。もう一大イベント扱いだ。
裏庭の奥は子供たちが群がっている。ジークが作った魔素ブロックで子供サイズの城やら建物が大量に作られていたためだ。
最初はジークと双子だけだったのだが、話を聞きつけた使用人の子供たちがわんさかやってきて駆け回っている。こっちももうお祭り騒ぎだった。
人が集まればどこからかご馳走も出てくる。アレックスが許可したのだろう。庭の一角には酒も出ているのでどんちゃん大変盛り上がった雰囲気だ。
グライドが呆れて辺りの様子を見回していた。
「もうなんの企画ですか?これ。」
「ラウエン家に会場設置の指示を出したが、この状況は想定外だ。バースに御前試合と伝えたはずなんだがな。流石はラウエン家だな。斜め上をいく。」
レオンハルトも呆れて眺めていたが怒った風ではない。
これならアニスたちも連れてきてよかったのか?と思ったらメリッサの背後に見慣れた顔が、アニスがいた。
アニス!お前身重なのにいつの間に!!俺に黙ってたのか?!驚くグライドにアニスは手を振り、楽しそうにメリッサと話をしていた。
ジークは魔素ブロックを作りながら子供たちに指示を出していた。楽しそうな様子はただのそこら辺にいる八歳の子供だった。
そこにブロックを持ったシンクレアの姿も見えてグライドは脱力した。
「ああいうのは今しかないからな。目一杯させてやればいい。」
あの頃の陛下は王宮に籠って公務に明け暮れる日々だったろう。王様とはいえひどい話だな。ふとそう思った。
「なぜここなのですか?」
ボソリと問いかけていた。問いかけの許しを得ていなかったと思い至ったが、レオンハルトは気にせず答えていた。
「ここは思い出が多い。初めてアレックスと手合わせした場所だ。あれから色々あった。魔素も濃い。だからここにした。」
思い入れがあるということか。しかしその話はジークには関係がなさそうだが。
「さて、そろそろ始めよう。目的を忘れそうだ。ジーク、来い。」
さして大きな声でもないのに、ジークが走ってきた。アレックスも歩いてきてレオンハルトの前で膝をついた。
グライドはあれからアレックスに会えていなかった。明らかに様子がおかしかった。
今朝バースに様子を聞けば、ジークが戻って以来、部屋に篭もりがちだったと言う。ジークとは会っていないらしい。
御前試合ではあるが、親子の手合わせにしては緊張感がありすぎないか?お互いの手の内を知らせないためなのか?目の前のアレックスを見てもただ俯くだけで表情から何を考えているかわからない。ただとてつもなく張り詰めた感はあった。
この心理状態で耐えられるのか?これからお前は心的障害を目の当たりにする。精神を保てるのか?…だが。
一ヶ月ぼろぼろに修行したジークを知っている。
ひどく脆い顔をした陛下を知っている。
今更俺が止められない。俺は俺の役目を果たすだけだ。
きっと陛下にはお考えがあるはずだ。
「ジーク、お前も膝をつけ。今日は御前だ。」
グライドに言われ、アレックスの姿を真似て跪いた。揃った二人を見てレオンハルトが宣言する。
「今から御前試合を始める。余の前で全力で戦うことを誓え。手を抜いたものは勅命を持って懲罰を与える。」
厳かな声が辺りに響く。不思議と子供達の歓声が聞こえてこない。窓の使用人たちも静かに聞いていた。
「試合は一対一の一本勝負、どちらかが負けを認めるか戦闘不能になった場合はその者を敗者とする。時間制限は設けない。判事は余が行う。使用できるものはこちらで準備した武器のみ。武術、魔術、スキルは封印とする。」
頭を下げたアレックスがピクリとした。特に得意なものが全て封じられた。
この御前試合を整えたのはレオンハルト。試合の規則もその指示に従う。そういう約束だった。
「では武器を選べ。」
テーブルに並べられた様々な武器。
アレックスは片刃剣を手に取る。そしてジークの選択は——
二振りの曲刀。
アレックスが目を瞠る。それは始祖王の曲刀と同じ。剣を持つアレックスの手がカタカタと震える。
「武器を選んだな。」
レオンハルトは静かにそういい、ジークに歩み寄りしゃがんで目線を合わせた。
「最後の日に俺の言ったこと覚えてるか。言ってみろ。」
「勝ち負けは関係ない!習ったことをちゃんとやる!上がらない!」
「いい子だ。それでいい。」
その様子をアレックスはじっと見ていた。大人しく言いつけを守る。それは一月前の息子の姿ではなかった。
レオンハルトはフッと笑い、ジークの首からペンダントを外す。それは『魔狼』封じ。
「これは預かる。終わったら返してやろう。」
立ち上がり二人を見やった。
「では各自位置につけ。整ったら始めるがいい。」
そういいレオンハルトはアレックスの側をすれ違い様にとても小さな声で囁いた。
「勝てよ。」
グライドの耳にかろうじて届いた。そして耳を疑った。ジークにはあれ程勝敗は関係ないと言ったのにアレックスには勝てと言う。この王の意図が判らない。
振り返るアレックスを残し、レオンハルトは少し離れた場所にあつらえられた上座に座った。側にテオドールが控えた。グライドもそれに倣う。
色々聞きたかったがそれを許さない雰囲気が王にあった。
だがどうしてもこれだけは確認しなくては。
「その、陛下。」
「何だ?」
「宜しければ『鉄壁』を張る許可をください。使用人たちや子供達が巻き込まれます。」
「既に張ってる。」
「は?!」
そうしてレオンハルトが指を差す。その魔力で『鉄壁』が輝いた。
それは限りなく透明な半円の『鉄壁』。細かい五角形、六角形でできているのがわかる。その数は数万を超えるのではないか。恐ろしく滑らかで繋ぎ目が見えない。それがアレックスとジークの周りに展開されていた。アレックスとジークもそれを見上げた。
いつの間に?!そしてなんて透明度だ!全く気が付かなかった。これが究極の『鉄壁』か。グライドはほぉと感嘆した。
「俺が一番磨き込んだ術だ。だがこの『鉄壁』をもすり抜ける技があるのを知って愕然としたものだ。」
「そんなものがあるのですか?!何ですか?!」
「言うか馬鹿が。機密事項だ。お前も『鉄壁』は最強と思うな。常にその先の備えをしておけ。」
そう言い正面に目をやった。中央に立つ親子を。
御前試合が始まった。
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