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第二章: ジーク、冒険者になる。
森のじいちゃん
しおりを挟むそこで受付嬢が真剣な顔でグライドに話しかけた。
「Sランクの方に特別な依頼がございますが、受けていただけませんでしょうか?騒ぎになるので一般公開はしておりません。」
「特別?どうするよジーク?」
「依頼?受けようよ!仕事!仕事!がっぽがっぽ!!」
お前は金の亡者か?それやめろ。一応これでも名門公爵家の嫡男なのにな。現金さえ見たことないだろ?
ジークはキラキラした目でグライドと受付嬢を見る。釣られて受付嬢がウフフと笑う。
出たな、無駄に愛されキャラが!ほんとうまい奴だ。
別室に通され、受付嬢が依頼表を置いた。
「魔封の森に竜が出たという情報があります。その確認依頼となります。目撃情報が森の深淵部のためAランク以上の条件でラウエン公爵家から出ております。」
‥‥おいアレク、何やってんだ?その位自分で見に行けよ。もう焼きが回ったか?ジジィかよ!
しかし竜だって?あんなの御伽噺だろうに。それか何か見間違えたんだろう。
受付嬢もその意図を汲んで話を続ける。
「竜なんて、と思われるかもしれませんが、目撃情報が複数あり無視できない状況となりました。」
「これはハンターギルドの仕事じゃないのか?」
「現在探索者が不足していて手が回らないとのことでこちらにも依頼が来ました。」
まあ奥様も引退したしな。ハンターって地味で実入り少ないし。
「公爵家の騎士団の偵察は動いていないのか?」
「騎士団が偵察に出るにしても目撃情報だけでは動けないとのことで現状確認と証拠採取の依頼です。公爵家でもいつもでしたら竜騎士が偵察に出る案件だそうなのですが、現在不在とのことです。」
グライドは額に手を置いた。うん、俺いないわ。そうだよな。
「わかった。受けよう。事実確認と証拠な。期限はあるのか?」
「いえ、特には指定がありません。正門から森に入る許可証を申請しますので少し待機いただくようになりますが。」
明日改めてギルドに顔を出すことで、一旦ギルドを出た。
「兄ちゃん!仕事!すぐ行こうよ!!」
がっぽ!がっぽ!と飛び跳ねるジークを無視してグライドは思案する。
通行証は持っている。飛竜で空から行けばすぐだ。依頼をこなさないと城に戻れないしな。許可証待って明日まで待機など無駄すぎる。
「なら今からいっちょ行くか。王都からだから飛竜で——」
ビタン!とジークが少し離れたところで盛大に転んだ。ジークの足には紐。その先をグライドが握っていた。
「毎回俺がその手に引っかかると思うか?お前が森まで駆けることは想定内だ。お前はどこからでもいいだろうが、俺は正門からじゃないと森に入れない。今回は絶対飛竜に乗ってもらうぞ。」
ジークを猫のようにつまみ上げてグライドは城の飛竜小屋を目指した。
ジークは飛竜が嫌ではないのだが、どうもじっとしているのが我慢できないらしい。よって飛んでいる間は好きにさせた。落ちなきゃいい。落ちても死なないだろうが落ちると探すこっちが面倒だ。
グライドは鞍の上で飛竜を操る。馬より乗り心地はいいが、道がない分飛ぶ方向を間違わないように竜を導く必要がある。
そうして魔封の森の正門にたどり着いた。
「ジーク!」
正門から入ったグライドは、しばらく奥にいたジークに声を掛ける。
ジークは嬉しそうに深呼吸していた。通行証を持たないジークは正門脇から結界を潜り抜けて森に入った。
グライドはジークと森に入るのは初めてだったが、八歳の子供の嬉しそうな姿は魔素が濃い死の森にはそぐわないと思った。
ラウエン家の子供達は皆『魔狼』持ちだ。子供達だけで森に張られた結界をすり抜けて森に入っているらしい。何も知らない狩人や探索者がそんな無邪気な子供達の姿を見れば腰を抜かすだろうな、とグライドは思った。絵面的にシュールすぎる。
グライドは辺りの気配を探る。今日は狩人や探索者はいない様だ。ジークがいつやらかすか分からないから、誰もいないのはありがたい。
「さて、と。ひとまず目撃情報が多い湖まで行ってみるか。」
魔封の森には湖は中央の深淵部に近いところにある一つだけ。目撃情報の大半はそこに集中していた。さくさくと森の中を歩きながらジークはしばし考えてからニコリと笑う。
「うん!そうだね!そこにならじいちゃんいるから話聞けるかも!」
「じいちゃん?」
元気よく答えるジークにグライドは鸚鵡がえしする。じいちゃんといえばツェーザル卿?それともひいじいちゃんのダリウス卿か?
グライドの怪訝顔にジークは気にした風もなく話を進める。
「うん!なんでも知ってるらしいからきっと色々教えてもらえると思う!エルが仲良しだから、エルがいれば話が早かったんだけどね。」
「エル?はエレオノーレのことか?エレオノーレが仲良しなのか?じいちゃんと?」
そこで初めてジークは、ああ、そっか!とグライドに笑い掛けた。
「違う違う!お城のじいちゃんじゃなくて森のじいちゃん!湖に住んでるんだけど、森のことならなんでも知ってるんだってさ。エルが言ってた!オレはまだ会ったことないんだけど、竜のことも知ってるよきっと!」
ここで初めてグライドはぞくりとした。
森のじいちゃん?この魔封の森の、死の森に、湖に住むじいちゃん?ジークは何を言ってるんだ?
「お前!そのじいちゃんって!何者なのか知っているのか?!」
「エルが優しいじいちゃんだって言ってたし。会えばきっとわかるよ!」
そう言ってふわりと駆け出した。砂煙をあげてあっという間に米粒になるジークにグライドは置いていかれる。
湖まで駆けるつもりか?速度が相変わらずのチートだなおい!そして俺を置いていくなって!!
×20の腕輪を装着してグライドは後を追いかけた。
一時間ほど森を駆けたところで湖が見えてきた。濃い魔素と腕輪のおかけでグライドは以前より苦もなくジークに追いつけることができた。こうしてみると腕輪も役に立つもんだな、と感心する。
先にたどり着いたジークが嬉しそうに辺りを見回した。ここはジークの庭なのだろう。
両手の人差し指を咥えて盛大に指笛を鳴らした。ピィィィィ!と甲高い音が森にこだまする。グライドは唖然とした。
「ジーク!何やってんだ?!魔獣が寄り付いてくるだろ?!」
「えー?友達呼んだだけだって!大丈夫!」
そういうジークの背後に巨大な白い魔獣が草むらからゆったりと現れる。恐ろしく大きい。グライドは瞠目した。
「ジーク!後ろに—— 」
「ヴァイス!久しぶり!!」
振り返ったジークはそう言って白い魔獣に抱きついた。白い魔獣は目を瞑り嬉しそうにジークに頬擦りした。
ジークの頭など一口で飲み込めそうな口元には獰猛な牙が覗くが、ジークにとても懐いている様だった。
それは白い虎。赤熊よりはるかに大きい。とてつもない大きさは深淵の魔獣の証。魔力気配が尋常ではない。魔獣の強さはその魔素量、魔力の強さでわかる。これの強さは相当だ。
通常の虎は黄色地に黒し縞なのだが、それは微妙な白の濃淡の縞が毛皮に散っていた。突然変異の白いそれは伝説級の魔獣。
「白虎?!初めて見た!!」
「カッコいいでしょ!ヴァイス、すっごく強いんだよ!」
「お前、伝説級の魔獣を—— 」
手懐けているのか?!これはアレクでもありえない。すっごく強い?当たり前だろ!
流石に呆れた。これは無自覚が過ぎる。
「オレ今『魔狼』になれないし。側にいると守ってもらえるから呼んだんだ!ここは喧嘩っ早いのもいるしね!」
白虎はグルルゥと甘えた声を出した。
辺りに他の魔獣の気配もあったが、白虎を恐れてか近づいてくる様子がない。この魔獣にはそういう効果もあるのか。
ジークはレオンハルトとの約束を守り『魔狼』になっていない。城ではないからなってはいいと思うが、今はその必要もないだろう。
白虎はじっと知性のある目でグライドを見ている。ジークの連れという認識か敵意を見せないが警戒している様ではあった。
んん?俺は触らない方が良さそうだな?話はわかりそうだから一応褒めてみる?
「ヴァイス‥‥、白という意味か。いい名前だな。」
「でしょでしょ!母様がつけたんだ!」
無邪気に喜ぶジークにグライドは速攻ツっこむ。
「奥様に会わせたのか?!」
「うん!話したら会いたがってたから!!エルとリックスも会ってる!父ちゃんはまだ!」
さすが奥様、器が大きい。そしてアレクが会ったら驚くだろうなぁ。無自覚野生児の底が知れないぞ。
そこへ巨大な赤熊が二頭現れる。四つ足で歩くのっそりとした姿に殺気はない。ジークが嬉しそうに応える。
「だいごろう!どんべえ!来てくれたんだ!!」
ネーミングセンスの落差にがくっとなった。
わかった、こっちの名付けはジークがしたんだな。
さらに赤熊に囲まれたジークは体の小ささが一際目立つようになった。
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