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第二章: ジーク、冒険者になる。
ベタな冒険者登録をしよう!
しおりを挟む執務室を出た後、舞い上がるジークに急かされ王都にある冒険者ギルドの前に二人は立っていた。
俺はとうとう冒険者にもなるのか。今朝登城するまでこんな展開、予想もしていなかった。もう呆れを通り越して感慨無量だ。器用貧乏もここまでくれば万能職じゃないか?
一般流通している鎧に身を包みグライドが呆然としていた。一応騎士崩れの設定にしてある。
正式に城の騎士に取り立てられるものはごく僅か。騎士クラスの者が生きるために冒険者になることはよくあることだった。
そしてジークはいつもの格好。見習い騎士でも何にでも見えそうである。登録に年齢制限はないそうなのだが、八歳で冒険者登録は珍しいかもしれない。
グライドは諦めて冒険者ギルドに入った。思いのほか人は少ない。陽はすでに上っておりほとんどの冒険者は依頼を受けた後で出払っているのだろう。受付まで進む。受付嬢が微笑んだ。
「冒険者ギルドにようこそ。御用はなんでしょうか?」
「えーと、ギルドに登録したいんだが。」
騎士時代に仲間から色々話は聞いている。確か受付で色々紙に書いて手続きするんだったか。自分で詐称しまくれるから適当に書いて登録してしまえばいい。
オレもオレも!とジークが手や頭をねじ込んでくるのを無理矢理押さえ込む。レオンハルトがいないのでグライドに遠慮がない。もうちょっとじっとしていろよ!
「かしこまりました。ではこちらに手をおいてください。」
にこりと差し出された透明な玉を見やる。
水晶玉?なんだこれは?これは知らない。
「これに手を置いていただけると現在のレベルと適職が表示される魔道具です。昨年より導入されました。」
「レベル?」
「その方の経験の量というか強さの指標です。」
ほーお。そんなものがあるのか。しかしこんなものでどの程度わかると言うんだろうか?どういった仕組みだ?
だが精度がいいなら詐称防止になる。これ、ラウエン家でも導入すれば騎士採用が楽になるんじゃね?いいこと聞いた。
為政者の顔で思案しているグライドを横目に、こっそりジークが水晶玉に手を伸ばそうとする。そこをグライドは猫のように襟元を掴んで引き剥がす。油断も隙もねぇな!!
ボカスカと兄弟喧嘩のような争いを受付嬢は不思議そうに見ていた。
「兄ちゃん!放して!オレが先!オレがやる!!」
「待て!まず俺がやる!!」
「ヤダ!オレ!オレ!!」
どういうものか確認しておかなくては。こいつではいきなりとんでもないものが出そうだ。
いや、そんなものむしろ出ないかもしれない。こんな魔道具、陛下が作ったものに比べたら粗悪品レベルだろ?
ジタバタするジークの首根っこを掴んだままグライドが水晶玉に手を置いた。もう完全に舐めていた。
ほわりと水晶玉が光を放ち何か文字が浮き出る。受付嬢がそれを見て絶句した。
「聖騎士?!」
げ?!慌てて水晶玉を覗き込むと聖騎士と出ている。聖騎士は一人しかいない。身元がバレる!これはダメだ!!
「うわー?!なんか間違えた!!もう一回!!」
ジークを放り出して水晶玉に向き合った。ふざけんなよ!他にあるだろう、もっと普通のが!
グライドは水晶玉に手を置いて魔力を強めに込める。水晶玉がカタカタとなった。
”‥‥竜騎‥‥“
これも一人しかいない!却下!他だ!
”‥‥宮廷魔術‥‥”
こんなのが冒険者になるかよ!宮廷にいるわ!次!
“‥‥暗殺‥‥”
ぶっ壊すぞ!!さらに追加でギリギリと魔力を込める。
”‥‥‥‥‥騎士。“
「おっしゃ!出た!!」
ガッツポーズで喜ぶグライドの横で受付嬢が青ざめる。ん?どうした?
「レベル475って‥‥」
「何か変?」
「ギルド内のトップランカーでも190です。こんな高レベルの方がいらっしゃるなんて‥‥」
「あれー?!じゃあ何かの間違いだ!!もう一回!!」
青筋を立てながら水晶玉に手を当てる。みしみし壊れそうな勢いで魔力を流し込む。何度かやり直してなんとか180まで下げた。すげぇ疲れるこれ。
陛下の言っていた無自覚ってこのことか。
あの規格外バケモノたちに囲まれたせいでいつの間にかこうなったんだな。陛下の腕輪の特訓もよくなかったんだろう。俺はこんなに普通の人間なのに。ほんと迷惑だ。今後気をつけないとな。
「じゃ次オレね!」
いつの間にかカウンターに登っていた規格外バケモノが、にゅっと出てきて水晶玉に手を置いた。グライドはぎょっとした。
「待て!少しは休ませろ!」
ジークが手を乗せた水晶玉がカタカタなったがその後静かになった。一同首を傾げる。
「あれー?ぴかーってのこないよー?」
「ん?壊れたんか?」
グライドが手を置いても反応しない。どうやら本当に壊れたらしい。
受付嬢が新しいものを持ってきたが同じ結果となった。ん?これは?
三つ目に置いたジークの手の上からグライドが魔力を込める。こいつきっと強すぎるんだ!!
やはり水晶玉はカタカタいったが、何やら文字‥‥というか記号が浮き上がった。
「兄ちゃん、これなにー?」
「なんだこれ?」
「私も初めてみますね。」
職業欄は何も出ないが、レベルに変な文字。壊れたか?
「わかった!これ8が寝てんだよ!オレ八歳だから!」
「しかし適職も出ないなんておかしいですね。」
受付嬢は怪訝な様子だ。まずい。詮索される前に誤魔化すか。
「見習いじゃないのか?」
「見習いならそのように出ます。何も出ないことは初めてだと思うのですが。」
「オレ見習いだよ。城でそうだったし。」
余計なこと言うんじゃねぇ!!
青筋を立てたグライドはジークの後半のセリフの途中で首根っこを捕まえカウンターから放り投げる。ジークは回転しながら猫のように床に着地し、すぐにカウンターに駆け上がる。もう野猿だな!
受付嬢が首を傾け、聞き返す。
「しろ?」
「しま!島では見習いだったんだよな?!だな!だからこいつ見習いでお願いします!」
ジークの頭をぐりぐり撫でてグライドがねじ込んだ。
受付嬢は怪訝顔だったが二人のカードを作った。
グライド・アンカー
騎士 レベル180 Sランク
ジーク・ロック
ノービス(不明)レベル8(♾)Fランク
グライドは本名にしたが、ジークは身元バレを防ぐために偽名にした。ロックは母メリッサがハンター時代に使っていた名前だとジークが言っていた。
グライドはジークのカードを検分する。
出たものも書き添えたか。この記号だけ意味がわからないが。まあ問題ないだろう。カードが出てしまえばこっちのもんだ。
おっし!これで課題の一つが終了。思いの外早く終わったな。
「一応何か違うものが出たら王宮に連絡する決まりになっております。こちらから連絡して構いませんか?連絡すると褒賞が出るのでお勧めしております。」
王宮に連絡だと?なぜそんなことを?
連絡先を見るとテオドールになっていた。そこで初めてグライドは理解した。
あの水晶玉の魔道具を作ったのはたぶん陛下。それなら魔道具の出来に良さに納得がいく。そして規格外の能力者が出れば直接城に引き抜こうという腹なんだろう。
下手したらあの魔道具からもう連絡が飛んでるかもしれない。たぶん俺の結果も飛んでいることだろう。全く、抜け目ない王様だ。
妙に冒険者ギルドに詳しかった訳も得心した。
今頃執務室でテオドールと笑っている王様を思い浮かべてグライドは顔に手を当てて嘆息する。
うわぁ、きっと俺のやり直しとかぜーんぶ見られてるよ。恥ずかしい‥‥。
この魔道具の件も知ってたなら教えてくれればよかったのに。‥‥教えてくれるわけないか、あの王様が。
「いや、こちらから連絡してみる。」
受付嬢から連絡先をもらいそう応じた。先ほどの記号の謎も陛下に聞けばわかるだろうな。嫌な意味じゃなきゃいいが。
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