元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

追い込み

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「グライド!詰めが甘い!もっと密に組め!ジーク!いつまで寝てる!起きろ!ぶっ飛ばすぞ!!」

 レオンハルトの怒声が飛んでいる。レオンハルト以外に立っているものはいない。一方的すぎて二人ともボコボコだった。

 グライドは最強の『鉄壁』を組んでいるが、出来損なうとレオンハルトから『黒炎ミゲラ・フラーマ』が飛んでくる。『鉄壁』が堪えきれない分は自分のダメージとなる。
 六角形の精度が悪ければ当然隙間ができてそこが脆くなる。正確に成形し一瞬で壁を展開するのは至難の技だ。先ほどは曲刀で難なく切り刻まれた。

「もっと死ぬ気でやれ。本当に殺されたいのか。」

 曲刀を眉間に突きつけられ、低い声で凄まれてグライドは後退あとじさった。容赦ねぇ!『鉄壁』を刃がない曲刀に壊された!!鬼だ!!

 ジークはレオンハルトと曲刀で舞っていたのだが、『魔素喰い』が×3に上がると動きが重くなった。それほどに急激に魔素を食われているのだ。レオンハルトの舞の速度が速くなる。太刀の残像が宙を舞う。ただ曲刀の擦れる音が剣の存在を教えていた。
 ジークも懸命に追い縋るが舞に隙があればレオンハルトは容赦なく吹っ飛ばした。

 指導しごきが二十二日目に入ってから追い込みモードになってきた。ジークをお試しで鍛えるという約束の期限一月に対し三週が過ぎていたのだ。

「試験期間だからと言って俺は手を抜かん。基礎もできてきたから徹底的に追い込むぞ。その覚悟をしろ!」

 初めて苛烈な王に相対し、二人はビビりまくっていた。今までも厳しいと思ったが、追い込みの激しさはその比ではなかった。
 午前の一時間はこのような怒涛の対面指導、午後は課題を元に自主練する毎日となった。すでに午前の指導がキツい。二人とも昼食前にはボロボロだった。


 そうして二十五日目。今日もフルボッコにやられている。レオンハルトは全力ではないのだが、実力差があり過ぎた。そして宣言通り、その日も王は手を緩めなかった。

 ジークがグライドの近くに吹き飛ばされてきた。ジークに向かうレオンハルトの追撃をグライドが思わず『鉄壁』で弾いて庇ってしまったのが事の始まり。

「‥‥いいだろう。二人まとめて相手をしてやる。かかってくるがいい!!」

 鬼神の形相でレオンハルトが『魔素喰い』×35の曲刀を構えた。ハンデとしてレオンハルトも曲刀の『魔素喰い』レベルが上がってるはずなのに攻撃力はびくともしてない。

 怖!戦闘モードの王様、怖すぎだろ!!これで本当に戦力落ちているのか?
 起き上がったジークと共にグライドは戦慄する。

 切り込んできたレオンハルトにグライドは『鉄壁』を張る。一瞬だけ堪えるも、一拍ののち曲刀に砕かれる。
 襲いくる曲刀を避けながら小さめの『鉄壁』×2を発動する。壊される前提の足止め目的だ。レオンハルトが片側の口角を上げて笑う。
 瞬時に二枚を双剣で砕いた。苦し紛れに『鉄壁』を連発するもパンパンと小気味よくあっさり崩される。間合いを詰めるその速さに丸腰のグライドはなす術もない。
 『鉄壁』なのに時間稼ぎにもならないのか?!

 レオンハルトがグライドに肉薄したところでジークが切りかかる。レオンハルトはそれを右の曲刀で受け流し左の曲刀でジークを薙ぎ払った。ジークはそれを曲刀で受けるも吹っ飛ばされる。
 ジークへの追い討ちの太刀筋はグライドの『鉄壁』が防ぐ。今回の『鉄壁』はレオンハルトの両曲刀を受けて堪えていた。
 堪えろ!堪えろ!闘志を漲らせたグライドの『鉄壁』と曲刀の力比べとなる。ぐぐぐと『鉄壁』が柳の様にしなる。

「ジーク!行け!!」

 『鉄壁』を飛び越え、ジークは上空から疾風のように回転をつけてレオンハルトに切りかかった。加速がかかり太刀筋が消える。その一瞬でレオンハルトが牙を剥いた。

 ガキン!とジークの手から曲刀が飛ぶ。レオンハルトの回し蹴りがジークに決まっていた。それと同時に『鉄壁』が両曲刀に切り崩される。回し蹴りの勢いそのままに横に薙ぎ払われていた。その曲刀の勢いでグライドも吹き飛ばされる。

 ふん、と息をついてレオンハルトが立ち上がり前髪をかきあげる。息さえ乱れていない。
 かたやグライドは仰向けで息が上がっていた。ジークは目を回して伸びていた。

「強ぇぇ!こんなの無理!勝てるわけない!!」
「愚か者が。誰が俺に勝てと言った?『鉄壁』さえ完全に作れば止められる。全然甘い。ただ戦闘時の集中力はまだマシか。」

 レオンハルトは手の曲刀を消して腕を回した。やっと終わったか。今日も生き延びた。グライドが安堵の息をついた。

「まあ今日はこんなものか。午後は各自課題を進めておけ。明日はさらにしごくからな。『鉄壁』を早く完成させろ。」

 その台詞にグライドは引いた。まだ更なる指導しごきがあるのか。
 まだ伸びているジークの頭を撫でて王は微笑む。

「ジークには今日もよく出来たと目一杯褒めておけ。」
「俺は褒めてもらえないんですかね?」
「ジークは褒められると伸びる。」
「俺もです!!」

 そこはレオンハルトに黙殺された。ほんとひでぇ!!




 午後はグライドは引き続き『鉄壁』の成形、ジークは新しい舞の練習。舞は三部に入っていた。この舞、いくつまであるんだ?時間的に習得はここまでだろう。

 ジークは舞う時に必ず「遊び」から入る。そうすると集中できるらしい。
 すっと立った姿で目を閉じそして曲刀を構える。呼吸を整えゆっくりと舞う。それが一週間前の手拍子へっぽこ舞とは違い美しいものに見えた。何か悟ったような舞だ。
 成長したなぁ。六角形を作りながらグライドは感心した。

「うーんとね。いっこ前の舞とちょっと似てるから、ゆっくり丁寧にするとうまくいくんだよね。呼吸を合わせるっていうんだって!」

 ジークは牛乳をグビ飲みしながら菓子を頬張る。牛乳で口にお約束の白髭がくっきりできていた。
 残念!いいこと言ってたのに台無しだな。

 グライドは菓子を食べていない。ひどいことになるとわかってて食べられないのだ。



 『自動回復』×15、『魔素変換』×8、それに疲労回復の魔道具。そして×50の腕輪をはめる。

 グライドは集中する。少しでも体に意識をやればひどいことになる。
 ミシミシいう体。せりあがる吐き気。ひどい怖気に冷や汗。頭痛や目眩まで出る。だからそこに意識を向けずただ目の前の敵を倒すだけに気を集める。
 浅い呼吸から一気にジークに踏み込んだ。

 ×50を纏ったグライドはジークのスピードを僅かに上回る。ジークはそれを野生の勘だけで避けていた。
 グライドの速度が上がる。その拳にジークが吹き飛ばされる。着地を待たずに襲いかかるグライドの拳を空中で受け、ジークはニヤリと笑う。獣のように毛を逆撫でている。目が爛々と輝いていた。
 戦闘を楽しんでいるその笑みを見てグライドの自制が飛んだ。なけなしの理性が自身に警告を出した。

 まずい!暴走する!!

 これはジークの速度を上げるための避けさせる訓練。意識下で攻撃を当てないように配慮していた。その自制が飛んでしまった。

 グライドの拳や蹴りがジークに命中する。ジークは避けられず防御しかできない。グライドは止められない。攻撃が続く。
 ボコボコにされ草むらに転がるジークにさらにグライドは襲いかかろうとする。
 魔力暴走は魔力が尽きれば止まる。しかし『魔素変換』をかけ続けているためその魔力さえ尽きない。暴走は自分では止められない。
 
 ふわりと金色の風がグライドの背後を通り過ぎ、とん、と手刀でグライドのうなじを叩く。その衝撃で体の力が抜けた。膝から崩れ倒れる。
 目の前にグライドの許に駆けてくるジークの姿が見えた。

 そうしてグライドの意識は閉じた。


 倒れたグライドの腕から黒い腕輪を外したレオンハルトはその手の中で腕輪を握り潰した。

「×50は流石にダメだったか。人の身ではここまでだな。」
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