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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。
最強の『鉄壁』
しおりを挟む翌日。あれからグライドがずっと『鉄壁』と向き合っていた。
どうしても立方体から別の形にできない。どうしたら三角形の面が作れるんだ?
レオンハルトが作ったお手本結界をバラそうとするが、自動回復機能付きですぐ復元されてしまう。この機能もすっごいんだが。
一方、ジークはレオンハルトの指示で魔素操作の特訓をしていたのだが。
「右手、左足、額、左手。」
レオンハルトに指示された場所から魔素の黒い火柱をあげる。もう軽く宴会芸みたいになっていた。
「上達したな、ジーク。大道芸人みたいだ。すごいぞ。これならきっとラウエン家に帰ってもウケるしモテるぞ。」
「ホントですか?!師匠!オレもっと頑張ります!!」
「何の特訓をしてるんですか?!」
遠くからグライドが突っ込む。ウケるよりも!王宮で何学んできたんだって俺が白い目で見られるって!!
ジークは楽しそうに口から黒い炎を吐いていた。あーもう、完全に旅芸人だ。
「こんなのできるか?」
レオンハルトがかき集めた魔素を練って犬を作った。芸術的にうますぎる!!ジークはなんとか黒だんごを作るくらいだったが。
「兄ちゃん見てみて~イモムシ~」
魔素のだんごを数珠繋ぎにして走り回っていた。楽しそうだな。そしてちょっとずつレベルが上がってる。魔素形成できれば魔素から武器も作れるだろう。
レオンハルトからジークに出された課題は魔素ブロックで城を作ること。レオンハルトが見本に作った城は子供が入れるサイズだが、なかなか凝っている。これは子供心に欲しくなるだろう。
「上手にブロックを作れるようになったら双子に作ってやれ。一緒に遊べるだろう?兄ちゃんすごい!って言われるぞ。」
ぱぁぁと笑顔になったジークは必死に魔素を練ってブロックを作り出していた。
「で?こっちはまだダメなのか?」
レオンハルトがグライドの横に座った。グライドはため息をついた。
「全然形が変わらないですが‥‥。」
「んー。お前は立体の結界に拘ってないか?」
「はい?」
立体?いや、これ結界でしょ?何を今更?
「普通にはできない。これは突き抜ける必要がある。」
そう言いレオンハルトは一拍思案し、ついとグライドを見る。その眼光の鋭さにグライドは内心慄いた。
「お前、強くなりたいか?」
「はぁ、なりたいですね。なれるものでしたら。」
「誰のために?」
「アレクと、家族のため、ですかね?」
意図が分からず冗談めかしに有り体に答えれば、王は薄く笑う。経験からグライドの脳内で一瞬警報が鳴ったが、その笑みはすぐに消えていた。
「言質は取ったぞ。」
ボソリと小さくそう言って右手から星型の平たい結界を出した。おお!キラキラして可愛らしい!これが何?今の話と何の関係が?
ここでレオンハルトがスッと真顔になる。低めの声で囁いた。
「いいか、よく聞け。これは恐ろしく子供にウケる。特に女子ウケがいい。」
グライドがピクリとした。
なんですと?女子ウケがいい?!グライドも表情が引き締まった。
「ラウエンの双子に以前見せた時にエレオノーレの反応がとても良かった。ちなみにフィリクスはこっちがウケた。大人の女性はこれ。」
左手から蝶を出す。ひらひらと動く様が美しい。そして雪の結晶。繊細でこれも芸術的だ。グライドは目を瞠る。
「お前の娘は今いくつだ?これを見せれば多分、いや確実にウケる。これを習得してパパすごい!と言われてみたくないか?」
「言われてみたいです!是非!!」
グライドの食いつきにレオンハルトが目を細めた。
「よし。まずは星型の成形をする。少し魔法陣をいじるが簡単だ。あとは×20くらい飛ばせばウケは間違いない。演出で『聖なる光』をかければ完璧だ。」
指示が細かい!『聖なる光』はアンデッド系の浄化魔法じゃん!!あれを演出に使うの?いやいや、それよりも!
「魔法陣をいじるんですか?!禁忌じゃないですか?!」
「当たり前だろ。安心しろ。爆発はしない。禁忌なんぞバレなきゃいい。」
え?バレなきゃいい?それ王様が言っちゃう?
「しかし魔法陣までいじるのは‥‥。」
どうなんでしょうかね。尻込みするグライドをレオンハルトが睨みつける。結構迫力があって怖い。
「やるのかやらんのか?!」
「当然やります!!」
「よし。特にウケた三つを伝授してやろう。」
「ありがとうございます!師匠!」
やった!ウケるとわかっててやらないでか!!
そうしてグライドは魔法陣の改造方法を仕込まれる。レオンハルトの意図に気が付きもせずに。
ジークとグライドが各自必死に作業する姿を見てレオンハルトは独言ちた。
「ほんと、二人とも扱いやすくて助かる。」
そうして一日で二人は宴会芸、もといウケる芸をいくつか身につけていた。
「で?どうだった?」
「パパすごいって~娘にめちゃくちゃウケました~ あと妻にも~」
翌朝。グライドは嬉しそうにのろけた。もうメロメロだ。
珍しくレオンハルトに別室に呼ばれてグライドはそう答えた。人払いされていて二人以外に部屋には誰もいない。
「すごくせがまれて今晩もやる約束になってます。」
「星は雪の結晶と合わせてもウケるぞ。」
「マジですか?雪も一つ作ってみたんですが!」
スッと指先に雪の結晶を出す。レオンハルトは目を細めた。
仕事が早い。繊細な造形もできている。やはりこいつ、スキルもないのに習得が異常に早いな。才能か。発想が鈍いのが残念だが。
「ここまでできれば蝶も簡単だろう。飛ばすのは魔素操作でやればいい。これでもう正四面体の結界も作れるだろう?」
「え?どうですかね?」
グライドは手の中に結界を出すがやはり立方体だ。
「その固定観念を捨てろ。まずはこの形の星を一つ出せ。」
レオンハルトの指に星が出るが、正三角形を四つ繋げた、星の尖が三つの形だ。言われるままに出してみる。何の苦もなく出た。
「これを折り曲げて尖をつなげる。できた。」
レオンハルトがぐぐぐと結界を折り曲げて正四面体を作る。グライドが呆気に取られた。何てことしてんだ?!
「はぁ?結界を折ってたんですか?!そんなことして強度とか?」
「問題ない。むしろ強くなった。」
正四面体を手の中でぐっと潰そうとして見せるが、びくともしない。
この王様、発想が斬新すぎる。結界の形を変えるとか折るとか。ここまでくれば大賢者クラスでしょ?!
それと、とレオンハルトは辺りに正六角形の結界を幾重にも出して見せる。
「これも覚えておけ。『鉄壁』のお前に必須だ。」
そう言って六角形の枠を組み合わせて網状を作る。十個ほどだろうか。そして薄い『鉄壁』二枚で挟み込む。
「防壁という意味ではこれは『鉄壁』×100に相当する強度がある。ハニカムパネル構造は他にも応用が効くが、壁にする方が扱いやすい。恐ろしく強度が増す。あの『聖槍』にも耐えられる。他にも利点が多い。」
「え?はにかむ?」
「蜂の巣という意味だ。この世界にはない言葉だな。」
グライドは途中から意味がわからなくなっていた。×100相当?『聖槍』に耐える?聖属性魔術最強の『聖槍』?街ひとつ吹っ飛ばすやつだろ!!
「え?試したんですか?!どこで?!」
血相を変えるグライドにレオンハルトは一瞬虚をつかれたような顔をしたが、ははと素直に笑った。
「気にするとこがそれか?大丈夫だ。試したのは時空内だから被害は出てない。」
それどこ?安心していいの?何が大丈夫か全然わからなかった。
もう色々意味がわからない。だがこの壁が最強だということだけはわかった。グライドの背中を汗が伝った。
「今現在、これが最強の『鉄壁』だ。おそらくジークの全力にも耐える。お前はこれを会得しろ。それがジークの監視役で『鉄壁』の二つ名を持つお前の役目だ。もうお前は突き抜けたのだからな。後戻りはできない。」
突き抜けた?後戻り?
黒く笑うレオンハルトにグライドは目を瞠った。
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