元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

魔素操作②

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「兄ちゃん、あれ使わないの?」

 ジークに言われてグライドはジト目で地面に落ちたあれを見た。
 『魔素寄せ』の腕輪×50。とんでもないものだ。

 レオンハルトにあの腕輪を手渡された瞬間、グライドはフルスイングで放り投げていた。御下賜ごかし品だったが知ったことか!!触ってすぐわかった。もうあれは俺を蝕む呪いのアイテムだ!!

 下賜品を投げたグライドにレオンハルトは腹を抱えて笑っていた。そこまでこの王が笑う姿を見たものはそうそういないのではないか?こうなることがわかっていて下賜品を投げせたのだから本当に意地が悪い。

 ジークとの魔素のやり取りでふと思った。陛下も『魔猊』だから魔素が心地よいのだろう。だからあの腕輪も使用者が快適だと思ってそう作られたのではないか。そう問いかけたのだが。

「いや、あれは機能性重視だ。」
「は?!」

 耳を疑った。わかっててやっていたのか?それは嗜虐がひどい!恨みを込めて見上げれば王はその意図を否定する。
 
「俺の性格ではない。快適性を求めると『魔素寄せ』の効率がぐっと悪くなる。だから敢えて使用感は二の次になっている。まあ、使用者は耐えれば済むことだ。」
「敢えて?!全然済みませんって!結果的に性悪です!というか!使用者の前でそんなこと言わんでください!」
「お前が聞いてきたのだがな。」

 不思議顔も端正なのが腹立たしい。なんなのだこの王様は!!
 グライドは頭を抱えて喚く。

「嘘でも、そういえばそうだな!とか言ってもらえれば今までの俺の努力も浮かばれたのに!!気遣いとか配慮とか!!」
「そんな欺瞞ぎまんいらんだろ。能力を満たすために機能が落ちた腕輪を二個三個付ければ結果ひどいことになる。」

 確かにそうなるだろう。正論なのだが。だがしかし!ため息しか出ない。

「もうちょっとでも優しい魔道具になりませんか?」
「諦めろ。『魔素寄せ』を弱くすると腕輪はお前の魔力を喰うぞ。結局辛いのはお前だ。」
「だから!身体強化×50が異常なんですって!!」

 この王様、やっぱりおかしい!いや最初からか。
 そもそも俺がジークを鍛えるという設定もおかしくないか?俺は監視役なのに。

「お前の強化もできて俺も楽ができる。いい案だろう?お前はここに来てものすごく上がったぞ。」

 グライドの心を読んだレオンハルトは満足げに笑う。
 何が上がったって?一体何が嬉しいんだ?



 グライドはふーっと長いため息をついた。

 いずれあれを使うわけだが、今はジークの魔素操作だ。
 先ほどは腕輪が壊れたため思考がとんでいたが、魔素集めはうまくいっていた。むしろ『魔素寄せ』を壊すほどだからもういけるのではないか?

「よぅし、ジーク。さっきやったみたいに手のひらに辺りの魔素を集めてみろ。あの腕輪が結構吸い込んでいるが、負けずに集められるか?」
「ん、やってみる!!」

 ジークは、ふん!と気合を入れて手のひらに魔素を集め出す。にょろりと黒いチョロ火が出た。先ほどと比べると全然ぬるい。それをグライドは寝っ転がって見ていた。
 今回は楽できそうだなぁ~

「おーい、腕輪に負けてんぞ~」
「すっごい吸われてるんだって!!」

 寝返りを打って伸びをした。
 仕事中にサボれるのいいな。煽る、もとい応援するだけだし。

「さっきみたいの出してみろよ~」
「兄ちゃんずるい!!オレばっか大変じゃん!!」
「ばかもの!今まで俺は死にそうだったんだ!腕輪に負けるようならおやつ抜きな。」

 ジークがひぃぃと本気になった。手から黒い火柱が上る。そして腕輪からパキッという音がした。

「待て—— ぃっ!!」

 飛び起きたグライドが腕輪に駆け寄る。今パキッといったよな?怖気おぞけを我慢して腕輪を手にとって調べる。腕輪はギリギリ大丈夫そうだ。あっぶねーっ

 さっき陛下はなんといっていた?「次はないから気をつけろ」、と。それはもう腕輪の予備がない、という意味か、それとも下賜品を壊したら許さない、という意味か。前者であって欲しい!

 この腕輪、邪魔だな。なんで置いてったんだ?これがあるとジークが全力になれない。ジークの魔素操作で壊れないようにこれを封じなければ。ん?まさか?グライドから脂汗がだらだら出る。

 俺にこれを封印しろ、という課題ですか?この膨大な『魔素喰い』の腕輪を?マジか?いや、あの王様だ。全力であり得る!!

 ジークがおやつ!おやつ!と覗き込んできた。
 ほんと、食い気だな!!おやつ程度であそこまで本気が出せるんか?!チョロすぎるだろ!

「ジーク、ちょっとそこら走ってろ。そうだな、中庭30周くらいか。できたらおやつ食ってよし。」
「わかった!!」
「あー、ついでに走りながら——」

 振り返るとジークは遥か彼方の米つぶになっていた。
 すげぇな。走りながら魔素操作させようと思ったのに。
 木に印をつけながら走っているのか。ちゃんと30周走るつもりか。意外に真面目だな。

 グライドは腕輪に向き合った。多分普通の結界ではダメだ。『鉄壁』でなければ耐えられない。

 試しに『鉄壁』×5をかける。四角い結界はパンパンとシャボン玉を割るように内側から壊された。

 ほほぉ、これは『鉄壁』の二つ名を頂くグライド様への挑戦か?腕輪ごときが!受けてたつぞ!

 両手で×10をかける。やはり内側からゆっくり壊される。これでは『鉄壁』を壊される以上にかけ続けなければならない。
 腕輪サイズの『鉄壁』は魔力消費は低いが術をかける手順は同じなので手がかかる。
 あれ?これ全然サボれないぞ?まずいな。

「兄ちゃん終わった!おやつ!!」

 割と息が上がったジークが戻ってきた。
 そういえば血が少なかったんだったな。
 おやつタイムになり、ジークはうれしそうに菓子と牛乳をがぶついていた。

 グライドは休憩しながら考える。普通の『鉄壁』では破られる。どうすれば強化できる?
 両手で同時に『鉄壁』を展開し同じ場所にかけてみる。二重ガラスのような結界ができた。よっし!

 試しに腕輪に二重結界をかければぐぐぐと堪えたしばし後、パリンと割れた。だが結構時間は稼げた。
 繊細な魔力操作が必要だが、これを重ねがけすればいけそうか。ジークが不思議そうに覗き込んできた。

「なにこれ?」
「二重結界だ。これで腕輪が壊れないようにするからお前は魔素操作の特訓な。」
「55点。」

 背後からの静かな声に二人は飛び上がった。やはりレオンハルトが背後から覗き込んでいた。

「静かに来ないでください!怖すぎます!!何度も伺いますが、ご公務は?!」
「公務は終わった。お前はもうちょっとなんだよな。ジークの訓練の妨げになるからそろそろ正解を教えにきた。」

 やはりパリンと割れる結界を見て王はため息を落とす。

「課題に気がついて二重結界を思いついたから加点したが、これでは正解に程遠い。正解は形を変える。例えばこれ。」

 レオンハルトの人差し指、その指先に小さな『鉄壁』が現れる。球体の結界。その斬新さにグライドが目を瞠る。

「え?球体?!」
「結界は立方体だけという固定観念がダメだ。構造上球体が一番だが作りにくい。とりあえずなら正四面体もいいが。まあ正多面体なら今回は合格だ。」

 そう言い正四面体の『鉄壁』×1を腕輪にかける。果たして結界は割れなかった。

 正‥‥?言われた意味がわからないが、形を変えるのは考えもつかなかった。というか、どうやって作るんだこれ?黙りこくるグライドにレオンハルトはニヤリとした。

「次の課題は結界の形を変えることだな。頑張ってみるがいい。これで『鉄壁』は恐ろしく強くなる。」
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