11 / 44
第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。
魔素操作①
しおりを挟む「兄ちゃん!触りたい!これ持ってもいい?」
「いや、ちょっと待て。」
ワクワクして足をばたつかせるジークをグライドが止める。陛下があれほど警告した魔道具。どんだけヤバいものなのか。
グライドは人差し指でつん、と小突いてみる。なんともない。撫でるように柄に触れるとひんやりとした金属の感触。何も起こらない。
恐る恐る一振りを手に持ってみる。靄を纏った黒刀はすんなり持ち上げられた。グライドはなんともなかった。曲刀をまじまじと見る。持ち手の部分に『ジーク』と彫り込みがある。
ジーク専用だからか?なんともない?なんだこれは?
「兄ちゃんずるい!!オレ専用なんだから!!」
そういってジークが地面に置かれたもう一振りを手にした。その途端、文字通り、ジークがぶっ倒れた。グライドはぎょっとした。
「ジーク!おい!どうした?!」
ジークが手に持っていた曲刀を取り上げ顔を覗き込む。ジークは白目を剥いて伸びていた。
「魔素‥‥枯渇?」
魔素枯渇は魔力枯渇に似ている。魔素枯渇は魔素を取り込む性質のラウエン家ならではの症状だ。
『魔素喰い』は魔素を取り込まない俺には効かない。そういうことか。
かつて自分も師匠に同じことをされたことを思い出した。これはそういう負荷訓練か。だとするとこれはかなりエグい事なのではないか?
グライドは迷った。魔素を流し込むこともできるが人にはやったことがない。師匠のバースもアレックスに魔素を施していなかった。加減できず過剰摂取になっても困る。
グライドは自分が持っていた『魔素寄せ』×40の腕輪をジークの腕にはめた。『魔素寄せ』で魔素を補給できるのではないか。少ししてジークが目を覚ました。
「あれぇ?兄ちゃん?」
「大丈夫か?ジーク」
むくりと起き上がる様子は大丈夫そうだ。
不思議顔のジークに説明をしなくてはならない。が、どこまで知っているんだ?ラウエン家で魔素の訓練はいつから始めるものなんだろう?アレックスは八歳で森で暴れていたからもう大丈夫なのだろうか。大丈夫だから陛下は魔道具を置いてったんじゃないのか?
だがジークは今まで野放しだった。嫌な予感がする。
いやいやいや、こんなんでも公爵家嫡男だ。流石のアレクも最低限の教育は施しているだろう。そうだと思いたい!
そう信じてちょっと確認してみる。
「えっとな、魔素って知ってるか?」
「まそ?なにそれ?」
予感が当たった!ああもう!誰も教えてなかったのか?!
グライドが右手で額を抑えて唸る。
「魔素だよ!!魔封の森にたくさんあったろ?これだよこれ!!」
グライドが手に魔素を纏って見せると、ジークは目を瞠り指さした。
「あー!魔獣が使ってるやつね!見たことある!!すげー!兄ちゃん使えるんだ!」
「ん?お前使ってないのか?」
「え?使うってどうやって?」
見つめ合う二人の間に沈黙が落ちる。
え?今まで散々暴れてただろうに。魔素を使わないと『魔狼』にだってなれないぞ。あれ、無自覚でやってたのか?
「『魔狼』になる時にやってただろ?魔素を取り込んで、どうするかわからんが体ん中でがーっとなんかして!わーっとどうにかすると『魔狼』になるんだよ!!」
無理だこれ!もう説明にもなっていない。『魔狼』になれない奴が説明できるわけもないだろう!
やはりジークはニヤニヤ笑ってグライドを見た。全く信じていない。
「えー?そんなことしないよ?考えたら『魔狼』になれるのにそんなの使わないって。」
考えるだけなのか?こっちは死ぬ気で『魔素変換』するのに!羨ましいなおい!!
だがここを超えないとそもそも『魔素喰い』に対抗できない。まさかの魔素操作から教えないといけないのか?!魔導具以前の話だ。俺は人に教えるのが大の苦手なのに!!
グライドは困った時の副官アニスを思い出す。人に教える時はまず具体例から‥‥。
「あー、じゃあ魔封の森に入ったら黒くってざわざわするやついるだろ?息苦しくってこう、まとわりつくような感じの。」
「え?そんなのないよ?」
「あるんだよ!!お前鈍すぎる!!魔獣の体にもあるだろ?」
「うーん?あるけど黒いのってほわっとしてサラサラしてるやつ?」
きょとんと答えるジークにグライドは頭を抱えた。とことん話が合わない。なんでだ?!手から再び魔素を出す。ついでに黒い腕輪を見せる。
「これが魔素!どこがほわっとサラッとしてるって?!」
「うんこれね!ほわほわしてる~」
「ほわほわ?」
腕輪を手に取り微笑む。
怖気じゃないのか?×40の腕輪は体調不良まで引き起こすタチの悪いやつだ。
「なんか気持ちいいんだよね。あったかいというか。これが濃いところは森の中も居心地よくってずっと居たくなるんだよ!ロザリーがすぐ迎えにきちゃうんだけど。」
居心地いいの単語にグライドは納得した。アレクが散々子供の頃に言っていた言葉だ。つまり『魔狼』と人とは魔素の感じ方が違う‥‥と。
グライドはどっと疲れた。まだ始まったばかりなのに!
「じゃあそのほわほわがこの辺りにあるのはわかるか?」
ジークはうーんと辺りを見回す。
気配を探す様子は魔素操作と同じなんだけどなぁ。これも無自覚か。
「ここうっすいね。でもほんのりわかる。でもこの腕輪が全部吸い寄せてる。ものすごい勢いで。」
そんなことまでわかるのか。俺は魔素の流れまではわからんぞ?
ジークの手を取り手のひらを開かせる。腕輪を目の前にかざして見せる。
「じゃあ手の平に腕輪の魔素を集めてみろ。さっき感じた気配をかき集めるようにするとうまくいく。」
「ん?こんな感じ?」
じゅっと手の平にどす黒い魔素が火柱のように集まる。ジークの手が見えなくなるほどの濃さ。そして腕輪がパリンと割れた。
…………。
割れて地面に落ちた腕輪を見た二人は真っ白になって沈黙した。一拍おいた後——
「うわーっ やっべ!魔道具壊れた!御下賜品だったのに!!」
「うぇ?!師匠の腕輪!!怒られんの?どうしよう?!」
「大丈夫だ!落ち着け!これは事故だ!!誰にもいうなよ?!」
「何か面白そうなことをしているな?」
背後のレオンハルトの声に二人は飛び上がった。
全く気配がなかった。いつからいたんだ?!心臓に悪すぎる!!
‥‥ん?この感じ、どこかで‥‥。
「あれ?へ、陛下、何故こちらに?ご、ご公務では?」
「休憩だ。面白そうだから覗きにきたのだが、やはり面白いことになっていたな。」
割れた腕輪を拾い上げる。持ち上がればそれはさらにボロボロと崩れた。
「まあジークがやればここまでいくだろう。初めてにしてはうまく集めたんじゃないか?」
「あれ?やった兄ちゃん!褒められた!」
「いやそんなわけ‥‥」
「だが下賜品を壊すのはまた別の話だ。」
かちんと固まり沈黙する二人を見てレオンハルトは吹き出した。
あ。これ、わざと言ったのか。ひっどい王様だ。
レオンハルトはくつくつ笑いながら新しい腕輪をこともなげに差し出した。新しい真っ黒い腕輪を。
血の気が引いた。
見ただけでわかる。×50だ。ヤバい。触ってはいけない。呪われるぞ!!
「壊れてしまったものは仕方がない。次はないから気をつけろよ?」
くつくつ黒い笑みを漏らしたレオンハルトはグライドの手を取り呪いの腕輪を手渡した。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる