元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

魔素操作①

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「兄ちゃん!触りたい!これ持ってもいい?」
「いや、ちょっと待て。」

 ワクワクして足をばたつかせるジークをグライドが止める。陛下があれほど警告した魔道具。どんだけヤバいものなのか。

 グライドは人差し指でつん、と小突いてみる。なんともない。撫でるように柄に触れるとひんやりとした金属の感触。何も起こらない。
 恐る恐る一振りを手に持ってみる。靄を纏った黒刀はすんなり持ち上げられた。グライドはなんともなかった。曲刀をまじまじと見る。持ち手の部分に『ジーク』と彫り込みがある。

 ジーク専用だからか?なんともない?なんだこれは?

「兄ちゃんずるい!!オレ専用なんだから!!」

 そういってジークが地面に置かれたもう一振りを手にした。その途端、文字通り、ジークがぶっ倒れた。グライドはぎょっとした。

「ジーク!おい!どうした?!」

 ジークが手に持っていた曲刀を取り上げ顔を覗き込む。ジークは白目を剥いて伸びていた。

「魔素‥‥枯渇?」

 魔素枯渇は魔力枯渇に似ている。魔素枯渇は魔素を取り込む性質のラウエン家ならではの症状だ。
 『魔素喰い』は魔素を取り込まない俺には効かない。そういうことか。

 かつて自分も師匠に同じことをされたことを思い出した。これはそういう負荷訓練か。だとするとこれはかなりエグい事なのではないか?

 グライドは迷った。魔素を流し込むこともできるが人にはやったことがない。師匠のバースもアレックスに魔素を施していなかった。加減できず過剰摂取になっても困る。
 グライドは自分が持っていた『魔素寄せ』×40の腕輪をジークの腕にはめた。『魔素寄せ』で魔素を補給できるのではないか。少ししてジークが目を覚ました。

「あれぇ?兄ちゃん?」
「大丈夫か?ジーク」

 むくりと起き上がる様子は大丈夫そうだ。

 不思議顔のジークに説明をしなくてはならない。が、どこまで知っているんだ?ラウエン家で魔素の訓練はいつから始めるものなんだろう?アレックスは八歳で森で暴れていたからもう大丈夫なのだろうか。大丈夫だから陛下は魔道具を置いてったんじゃないのか?

 だがジークは今まで野放しだった。嫌な予感がする。
 いやいやいや、こんなんでも公爵家嫡男だ。流石のアレクも最低限の教育は施しているだろう。そうだと思いたい!
 そう信じてちょっと確認してみる。

「えっとな、魔素って知ってるか?」
「まそ?なにそれ?」

 予感が当たった!ああもう!誰も教えてなかったのか?!
 グライドが右手で額を抑えて唸る。

「魔素だよ!!魔封の森にたくさんあったろ?これだよこれ!!」

 グライドが手に魔素を纏って見せると、ジークは目を瞠り指さした。

「あー!魔獣が使ってるやつね!見たことある!!すげー!兄ちゃん使えるんだ!」
「ん?お前使ってないのか?」
「え?使うってどうやって?」

 見つめ合う二人の間に沈黙が落ちる。

 え?今まで散々暴れてただろうに。魔素を使わないと『魔狼』にだってなれないぞ。あれ、無自覚でやってたのか?

「『魔狼』になる時にやってただろ?魔素を取り込んで、どうするかわからんが体ん中でがーっとなんかして!わーっとどうにかすると『魔狼』になるんだよ!!」

 無理だこれ!もう説明にもなっていない。『魔狼』になれない奴が説明できるわけもないだろう!
 やはりジークはニヤニヤ笑ってグライドを見た。全く信じていない。

「えー?そんなことしないよ?考えたら『魔狼』になれるのにそんなの使わないって。」

 考えるだけなのか?こっちは死ぬ気で『魔素変換』するのに!羨ましいなおい!!
 だがここを超えないとそもそも『魔素喰い』に対抗できない。まさかの魔素操作から教えないといけないのか?!魔導具以前の話だ。俺は人に教えるのが大の苦手なのに!!

 グライドは困った時の副官アニスを思い出す。人に教える時はまず具体例から‥‥。

「あー、じゃあ魔封の森に入ったら黒くってざわざわするやついるだろ?息苦しくってこう、まとわりつくような感じの。」
「え?そんなのないよ?」
「あるんだよ!!お前鈍すぎる!!魔獣の体にもあるだろ?」
「うーん?あるけど黒いのってほわっとしてサラサラしてるやつ?」

 きょとんと答えるジークにグライドは頭を抱えた。とことん話が合わない。なんでだ?!手から再び魔素を出す。ついでに黒い腕輪を見せる。

「これが魔素!どこがほわっとサラッとしてるって?!」
「うんこれね!ほわほわしてる~」
「ほわほわ?」

 腕輪を手に取り微笑む。
 怖気おぞけじゃないのか?×40の腕輪は体調不良まで引き起こすタチの悪いやつだ。

「なんか気持ちいいんだよね。あったかいというか。これが濃いところは森の中も居心地よくってずっと居たくなるんだよ!ロザリーがすぐ迎えにきちゃうんだけど。」

 居心地いいの単語にグライドは納得した。アレクが散々子供の頃に言っていた言葉だ。つまり『魔狼』と人とは魔素の感じ方が違う‥‥と。
 グライドはどっと疲れた。まだ始まったばかりなのに!

「じゃあそのほわほわがこの辺りにあるのはわかるか?」

 ジークはうーんと辺りを見回す。
 気配を探す様子は魔素操作と同じなんだけどなぁ。これも無自覚か。

「ここうっすいね。でもほんのりわかる。でもこの腕輪が全部吸い寄せてる。ものすごい勢いで。」

 そんなことまでわかるのか。俺は魔素の流れまではわからんぞ?
 ジークの手を取り手のひらを開かせる。腕輪を目の前にかざして見せる。

「じゃあ手の平に腕輪の魔素を集めてみろ。さっき感じた気配をかき集めるようにするとうまくいく。」
「ん?こんな感じ?」

 じゅっと手の平にどす黒い魔素が火柱のように集まる。ジークの手が見えなくなるほどの濃さ。そして腕輪がパリンと割れた。

 …………。

 割れて地面に落ちた腕輪を見た二人は真っ白になって沈黙した。一拍おいた後——

「うわーっ やっべ!魔道具壊れた!御下賜ごかし品だったのに!!」
「うぇ?!師匠の腕輪!!怒られんの?どうしよう?!」
「大丈夫だ!落ち着け!これは事故だ!!誰にもいうなよ?!」
「何か面白そうなことをしているな?」

 背後のレオンハルトの声に二人は飛び上がった。
 全く気配がなかった。いつからいたんだ?!心臓に悪すぎる!!
 ‥‥ん?この感じ、どこかで‥‥。

「あれ?へ、陛下、何故こちらに?ご、ご公務では?」
「休憩だ。面白そうだから覗きにきたのだが、やはり面白いことになっていたな。」

 割れた腕輪を拾い上げる。持ち上がればそれはさらにボロボロと崩れた。

「まあジークがやればここまでいくだろう。初めてにしてはうまく集めたんじゃないか?」
「あれ?やった兄ちゃん!褒められた!」
「いやそんなわけ‥‥」
「だが下賜品を壊すのはまた別の話だ。」

 かちんと固まり沈黙する二人を見てレオンハルトは吹き出した。
 あ。これ、わざと言ったのか。ひっどい王様だ。

 レオンハルトはくつくつ笑いながら新しい腕輪をこともなげに差し出した。新しい真っ黒い腕輪を。
 血の気が引いた。
 見ただけでわかる。×50だ。ヤバい。触ってはいけない。呪われるぞ!!

「壊れてしまったものは仕方がない。次はないから気をつけろよ?」

 くつくつ黒い笑みを漏らしたレオンハルトはグライドの手を取り呪いの腕輪を手渡した。

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