元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

剣の舞②

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 午前は演舞の練習、午後はグライドとの手合わせに当てられた。

 ジークは動体視力がいい。そして飲み込みも早い。レオンハルトに型の指導を受けグライドから流れの指摘を受ける。四日目には滑らかな舞を演じられるようになった。

 午後の手合わせでは×30のグライドにジークは互角になりつつあった。グライドがジークを完全に伸した日から三日目には、五回に二回は当たるがそれ以外は動きを読み躱すようになった。しかも当たる場合は防御する余裕があった。
 たった三日!こっちは死にそうなのにたった三日かよ!!

 レオンハルトがニヤリと×40の腕輪をグライドに差し出した。グライドがゴクリと唾を飲み込む。

 もうこれは正気じゃない。絶対にヤバいやつだ。

 ×40の腕輪のひどい怖気おぞけに吐き気が込み上げてくる。そろそろ生理的に限界だ。

 ×40でジークを伸し、肩で息をするグライドをレオンハルトをじっと見ていた。グライドはたまらず黒い靄を纏う腕輪を外して仰向けに倒れた。ひどい胸焼けがする。
 もっと使用者に快適な魔道具は作れないのか?!わざとだったら嗜虐が酷すぎる!!

 そんなグライドをレオンハルトは双眸を細め探るように見つめる。そして———

「またレベルが上がったな。面白いやつだ。」
「レベル?なんですかそれは?」
「まったく、無自覚なやつだ。今度時間があれば教えてやる。今度な。」

 レオンハルトは悪戯をする子供のように笑った。




 そして舞を始めてから七日目。ジークは剣の舞を習得した。レオンハルトの合格の声が出た。弟子入りして十八日目のことだ。

「これは最初慣れるのが辛い。よく短期間でものにしたな。」
「はい師匠!ありがとうございます!!」

 にこにこと笑うジークをグライドは複雑な表情で見た。父親の心的障害トラウマを習得して喜ぶ息子か。せめて陛下が人でなしでないことを信じて祈ろう。

 しかし指導は終わっていなかった。レオンハルトが曲刀を持ってジークの前に立った。

「では次の段階に入る。」

 きょとんとしたジークに剣を向ける。

「この舞は二人演舞だ。完全に同期シンクロしなければ完成しない。お前の演舞が俺に合わせられるかが鍵だ。」

 そうして目で型を取るようジークに促した。
 二人演舞。つまり鏡のように相対し舞で斬り合うということ。

「ぴったり合わせられないとお前は俺の剣に斬られる。集中しろよ。少しでも遅れればバッサリだ。」

 二人の剣が擦れてシャランと音がなる。今まで空を切っていた剣が相対することで楽器のような音を鳴らす。鳴り続けるそれは音楽のようだ。
 ジークの演舞も完成はしていたがレオンハルトの比ではない。速さが、キレが違う。少しでも遅れれば本当に斬られる。
 タイミングがズレるたびにジークの薄皮が斬られ血が迸る。しかしレオンハルトは手を緩めなかった。

 舞が終わったところでジークは血まみれだった。肩で息をするジークにテオドールが慌てて駆け寄り回復をかける。

 —— あれは美しい舞ではない。殺人演武だ。あれに相対したものは確実に命を奪われる。
 グライドはレオンハルトに歩み寄った。
 あれは一体何なのですか?
 その意図を察しレオンハルトはその意味を語る。

「これはほんの始まりだ。これの達人は神とされた。全てを会得すれば一騎当千と言われるほどの強者になる。そういうものだ。古くに途絶えてしまったのが残念だがな。始祖王でさえその境地には至れなかった。」

 かつて大量発生した魔素は全てを破壊した。人類の叡智も至宝も。そして伝え手を死に絶えさせた。

「しかし陛下はそれをお持ちです。」
「その境地ではないと言ったはずだ。だがこの世界ではこの程度でも最強かもしれないな。そういえば、弟王の方がこれは達者だったな。俺を超えたら次はあれに鍛えさせればいい。」

 腹黒宰相閣下。戦っているイメージないんですが。剣を持てるんですかね?

 治療を終えたジークがレオンハルトに歩み寄る。

「師匠!もう一回!もう一回お願いします!」
「これは斬られる舞ではない。斬られた理由はわかっているのか?」
「はい!なんか掴めそうなんです!答え合わせしたいです!!」

 グライドとテオドールはぎょっとした。あれだけ斬られたのにまだやるのか?!傷は魔法で癒えるが斬られた恐怖はその身に残る。下手に恐怖が身についてもいけないんじゃないか?

「もう一度だけだ。あとは一人で鍛錬しろ。」
「はい!ありがとうございます!!」

 にこにこと喜ぶジークをやれやれと困ったようにレオンハルトは見やった。

 果たして斬られた回数は半分になった。ジークはそれはもう喜んでいた。そこらじゅうを飛び回った挙句にグライドに襲いかかった。

「兄ちゃん見た?!すっごい綺麗にできたでしょ!!」
「わかったからじっとしろ!今治してるから!!」

 血まみれの満面の笑みで飛びかかられては怖すぎるわ!!ぐしゃぐしゃと顔の血糊を拭いとってやるとやっといつものジークに戻っていた。
 レオンハルトは曲刀をテオドールに戻す。そろそろ時間切れのようだ。

「これから公務に戻る。お前たちはそのまま鍛錬していろ。ジーク、だいぶ血が流れた。無理するなよ。」
「はい師匠!!気をつけます!!」

 しゅたっと立って手をあげる。
 まったく、気をつけてる風じゃ全然ないぞ。

「ああ、そうだ、これも渡しておこう。」

 レオンハルトは背中に手を回して二振りの曲刀を取り出す。またあれか。ほんと、どこから出しているのか。

 それは曲刀の形をしていたが、刀身は黒く刃はなかった。例の禍々しい靄が立ち込めている。いやぁな感じのそれにグライドはげんなりする。
 この魔道具、またあれなのか。どんだけ好きなんだよ。
 その反応にレオンハルトがくつくつと笑う。

「悪い、これはジーク専用だ。お前のではない。腕輪だけでは足りないか?」
「滅相もない!!十分すぎます!!」
「オレ専用?!やった!!」

 やったやった!欲しい欲しい!と飛び回るジークをグライドは淀んだ目で見た。
 いやぁ、喜ぶようなもんじゃないぞこれ。きっとひどい目に遭うやつだ。
 レオンハルトは飾り紐のついた曲刀をジークに見せる。

「ジーク、よく聞け、これはお前専用だ。他のものには絶対触らせるな。絶対だ。グライドはいいが。」
「はい!わかりました!」

 ジークは満面の笑みだ。ちょうだい!と両手を差し出すが、レオンハルトはその手に渡さなかった。
 俺はいいんだ?いやもういいですけどね。

「いいか。これは『魔素喰い』だ。」
「『まそぐい』?」

 ジークが首を傾げておうむ返しする。グライドも初めて聞いた。なんだそれは?

「手に持てばお前の体内の魔素を喰い始める。魔素枯渇にならないよう、お前は常にあたりから魔素をかき集めなくてはならない。かなり辛いはずだから覚悟しろ。慣れてきたら舞をこれで練習するんだ。グライド。」

 珍しく低めの声で呼ばれ、グライドは思わずその場で片膝をついた。

「これはかなりキツい。様子を見てジークを休ませろ。しばらくはこれを持つだけになるかもしれない。」

 そういってレオンハルトは曲刀を地面に置いた。
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