元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

遊び

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「ジーク、お前は今日から従者見習いノービスのただのジークだ。ここにいる間はラウエン家の名前は忘れろ。」
「はい!わかりました!」

 ジークが手を挙げて元気よく答える。家でもそのくらい物分かりが良かったらなぁ。

「午前は公務があるから指導は午後になるが、それまで少し遊んでみるか。」
「遊びって?」

 ジークが目をキラキラさせてレオンハルトを見た。
 レオンハルトはジークを壁近くに立たせ、立っている床に魔力で線を引く。ちょうど足を囲うくらいの大きさの円が描かれた。

「よしというまでこの円の中にいるだけだ。この円から出たらお前の負けだ。できるか?」
「え?そんなんでいいの?」
「そうだ。できたら午後手合わせをしてやろう。」
「ほんと?!がんばります!!」

 ジークにルールを復唱させた後、レオンハルトは机の椅子についた。資料を手に書き込み出す。
 ジークはじっと円の中で立っていた。最初の三分までは。

 グライドは入り口近い壁に寄り掛かり様子を見ていたが、途中からため息をついた。
 じっとしていられないジークは円の中で片足だしや逆立ちを始めた。違反はしていないが、本当に動いてないとダメなやつだな。

 レオンハルトは気にした風もなく作業を進めている。恐ろしく手が早い。グライドも為政者として書類決裁する身としては信じられない即決だ。しかも国政で。無言でテオドールと書類の交換を行う。呼吸もぴったりだ。
 部屋は書類やサインする音だけが響く。
 ふと王の手が止まった。

「休憩するか。」

 テオドールがお茶と菓子の乗ったワゴンを押してくる。ジークの目が輝いた。それを完全に無視し、レオンハルトはソファに腰掛けた。そしてグライドを見やる。お前も来て座れ、と目で指示された。
 グライドが席につくとテオドールが紅茶とケーキを勧める。

「お前毒耐性あったな。」
「はい、ありますが。」
「ならそのままでいいな。」

 そう言って王はケーキを食べ始めた。毒耐性って‥‥。これ毒入りかい?!
 ゾッとしてテオドールを見やる。一応毒解除かけてあります、と目で語っていた。笑えない。マジおっかねぇな王宮。

 その様子をジークが口を開けてみていた。まだ円の中には立っていたが前のめりになっていてもう少しで出てしまいそうだ。
 ‥‥これすげぇ喰いにくい。ジークの熱い視線を受けながらグライドは渋々食べるが味なんてしない。レオンハルトを見れば二つ目に手をつけていた。そこでグライドはあることに気がつく。

 確か陛下は普段は茶しか飲んでない。甘いものが嫌いな風でもないが黙々と食ってる感じはどうでもいいと思ってそうだ。つまり今ケーキを食っているのはジークへの当て付けで食っているだけ、と。うわあぁ。当て付け喰いいじわるか!

 グライドもなんとか一つ食べ切った。もっとうまそうに食えよと言わんばかりの目でレオンハルトに見られる。無茶言わんで欲しいわ。

「仕事に戻る。」

 レオンハルトは机に戻り作業を再び始めた。ジークは涙目でレオンハルトとケーキを交互に見ていた。

 ジークが涎を垂らしたまま立つこと十分。不意にレオンハルトは立ち上がり、テオドールからケーキの皿を受け取ってジークに歩み寄る。そして手の届くギリギリのところに皿を置いた。多分それを取ると円から出るというあたり。ジークの手が伸びるがギリギリ届かない。あともうちょっと。

「待て。」

 圧のかかったレオンハルトの声がする。ジークの手がびくりとした。しかしそれでも手が伸びようとした。

「待てと言ったのが聞こえないのか。」

 さらに圧のかかった声がしてジークは手を握りしめる。そして手を引っ込め目をぎゅっとつぶって直立した。目に涙を浮かべている。
 レオンハルトは皿をジークの足元に置いて机に戻る。

 グライドは引いた。ドン引きだ。
 うわ、どんだけいじめるんだよ!
 陛下の言うことは絶対だ。さっき約束してた。だが『魔狼』の鼻は人の姿でも普通に効くんだぞ?!あれは拷問だろ?!
 そしてそのままさらに十分放置された。ついとレオンハルトが立ち上がった。

「よし。」

 ジークがほわあとした表情でレオンハルトに目で問いかける。
 食べて良いの???
 『魔狼』封じで見えないはずの尻尾が見えるようだ。

「食べろ。よく我慢したな。」

 ジークはがばっとしゃがんで皿のケーキを貪るように食べた。その頭をレオンハルトが撫でる。鞭の後に飴が与えられた。

「ジーク、椅子に座って食べろ。昼が近い、あまり食べすぎるなよ。」

 それからジークは幸せそうにテーブルにあったケーキを頬張っていた。こんなにうまそうにケーキ食うジーク初めて見たわぁ、とグライドは呆れた。どんだけ辛かったんだ?!

 しかし陛下も鬼だった。食いしん坊ジークにあれが遊びか?あの鬼畜っぷりにちょっとバース様を思い出したよ。
 レオンハルトはテオドールと午後の時間を確認していた。

「謁見の前なら時間が取れそうだ。そこで手合わせするか。」
「はい!よろしくお願いします!!」

 ジークはクリームまみれの顔で嬉しそうに笑った。
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