4 / 44
第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。
遊び
しおりを挟む「ジーク、お前は今日から従者見習いのただのジークだ。ここにいる間はラウエン家の名前は忘れろ。」
「はい!わかりました!」
ジークが手を挙げて元気よく答える。家でもそのくらい物分かりが良かったらなぁ。
「午前は公務があるから指導は午後になるが、それまで少し遊んでみるか。」
「遊びって?」
ジークが目をキラキラさせてレオンハルトを見た。
レオンハルトはジークを壁近くに立たせ、立っている床に魔力で線を引く。ちょうど足を囲うくらいの大きさの円が描かれた。
「よしというまでこの円の中にいるだけだ。この円から出たらお前の負けだ。できるか?」
「え?そんなんでいいの?」
「そうだ。できたら午後手合わせをしてやろう。」
「ほんと?!がんばります!!」
ジークにルールを復唱させた後、レオンハルトは机の椅子についた。資料を手に書き込み出す。
ジークはじっと円の中で立っていた。最初の三分までは。
グライドは入り口近い壁に寄り掛かり様子を見ていたが、途中からため息をついた。
じっとしていられないジークは円の中で片足だしや逆立ちを始めた。違反はしていないが、本当に動いてないとダメなやつだな。
レオンハルトは気にした風もなく作業を進めている。恐ろしく手が早い。グライドも為政者として書類決裁する身としては信じられない即決だ。しかも国政で。無言でテオドールと書類の交換を行う。呼吸もぴったりだ。
部屋は書類やサインする音だけが響く。
ふと王の手が止まった。
「休憩するか。」
テオドールがお茶と菓子の乗ったワゴンを押してくる。ジークの目が輝いた。それを完全に無視し、レオンハルトはソファに腰掛けた。そしてグライドを見やる。お前も来て座れ、と目で指示された。
グライドが席につくとテオドールが紅茶とケーキを勧める。
「お前毒耐性あったな。」
「はい、ありますが。」
「ならそのままでいいな。」
そう言って王はケーキを食べ始めた。毒耐性って‥‥。これ毒入りかい?!
ゾッとしてテオドールを見やる。一応毒解除かけてあります、と目で語っていた。笑えない。マジおっかねぇな王宮。
その様子をジークが口を開けてみていた。まだ円の中には立っていたが前のめりになっていてもう少しで出てしまいそうだ。
‥‥これすげぇ喰いにくい。ジークの熱い視線を受けながらグライドは渋々食べるが味なんてしない。レオンハルトを見れば二つ目に手をつけていた。そこでグライドはあることに気がつく。
確か陛下は普段は茶しか飲んでない。甘いものが嫌いな風でもないが黙々と食ってる感じはどうでもいいと思ってそうだ。つまり今ケーキを食っているのはジークへの当て付けで食っているだけ、と。うわあぁ。当て付け喰いか!
グライドもなんとか一つ食べ切った。もっとうまそうに食えよと言わんばかりの目でレオンハルトに見られる。無茶言わんで欲しいわ。
「仕事に戻る。」
レオンハルトは机に戻り作業を再び始めた。ジークは涙目でレオンハルトとケーキを交互に見ていた。
ジークが涎を垂らしたまま立つこと十分。不意にレオンハルトは立ち上がり、テオドールからケーキの皿を受け取ってジークに歩み寄る。そして手の届くギリギリのところに皿を置いた。多分それを取ると円から出るというあたり。ジークの手が伸びるがギリギリ届かない。あともうちょっと。
「待て。」
圧のかかったレオンハルトの声がする。ジークの手がびくりとした。しかしそれでも手が伸びようとした。
「待てと言ったのが聞こえないのか。」
さらに圧のかかった声がしてジークは手を握りしめる。そして手を引っ込め目をぎゅっとつぶって直立した。目に涙を浮かべている。
レオンハルトは皿をジークの足元に置いて机に戻る。
グライドは引いた。ドン引きだ。
うわ、どんだけいじめるんだよ!
陛下の言うことは絶対だ。さっき約束してた。だが『魔狼』の鼻は人の姿でも普通に効くんだぞ?!あれは拷問だろ?!
そしてそのままさらに十分放置された。ついとレオンハルトが立ち上がった。
「よし。」
ジークがほわあとした表情でレオンハルトに目で問いかける。
食べて良いの???
『魔狼』封じで見えないはずの尻尾が見えるようだ。
「食べろ。よく我慢したな。」
ジークはがばっとしゃがんで皿のケーキを貪るように食べた。その頭をレオンハルトが撫でる。鞭の後に飴が与えられた。
「ジーク、椅子に座って食べろ。昼が近い、あまり食べすぎるなよ。」
それからジークは幸せそうにテーブルにあったケーキを頬張っていた。こんなにうまそうにケーキ食うジーク初めて見たわぁ、とグライドは呆れた。どんだけ辛かったんだ?!
しかし陛下も鬼だった。食いしん坊ジークにあれが遊びか?あの鬼畜っぷりにちょっとバース様を思い出したよ。
レオンハルトはテオドールと午後の時間を確認していた。
「謁見の前なら時間が取れそうだ。そこで手合わせするか。」
「はい!よろしくお願いします!!」
ジークはクリームまみれの顔で嬉しそうに笑った。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】少年王の帰還
ユリーカ
ファンタジー
——— 愛されるより恐れられよ。
王の崩御後、レオンハルトは六歳で王に祭り上げられる。傀儡の王になどなるものか!自分を侮った貴族達の権力を奪い、レオンハルトは王権を掌握する。
安定した政のための手駒が欲しい。黄金の少年王が目をつけた相手は若き「獣」だった。
「魔狼を愛する〜」「ハンターを愛する〜」「公爵閣下付き〜」の続編です。
本編でやっとメインキャラが全員参加となりました。
シリーズ4部完結の完結部です。今回は少年王レオンハルトです。
魔封の森に封じられた魔神とは?始祖王とは?魔狼とは?
最後の伏線回収です。ここまで何とかたどり着けて感無量です。
こちらも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
細かい設定はさらっと流してます。
※ 四部構成。
一部序章、二部本編はファンタジー、三部は恋愛、四部は外伝・無自覚チートです。
※ 全編完結済みです。
※ 第二部の戦闘で流血があります。苦手な方はご注意ください。
※ 本編で完結ですが、後日談「元帥になりたい!!!」ができてしまいました。なぜ?
こちらはまだ未完ですが、楽しいので随時更新でゆるゆるやりたいと思います。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
自然神の加護の力でのんびり異世界生活
八百十三
ファンタジー
炎神インゲ、水神シューラ、自然神カーンの三柱の神が見守り、人々と魔物に加護を与えて発展させている異世界・ルピアクロワ。
その世界に、地球で命を落としたごく普通の中学生・高村英助の魂が流れ着く。
自然神カーンの手によってヴァンド市の羊飼い、ダヴィド家に一人息子のエリクとして転生した英助は、特筆すべき能力も見出されることもなく、至極平穏な日々を過ごすはずだった。
しかし12歳のある日、ダヴィド家の家政婦である獣人族の少女・アグネスカと共に、ヴァンド市近郊の森に薪を拾いに行った時に、彼の人生は激変。
転生する時にカーンから授けられた加護の力で「使徒」の資格を有していたエリクは、次々と使徒としてのたぐいまれな能力を発揮するようになっていく。
動物や魔物と語らい、世界を俯瞰し、神の力を行使し。
そうしてラコルデール王国所属の使徒として定められたエリクと、彼に付き従う巫女となったアグネスカは、神も神獣も巻き込んで、壮大で平穏な日常を過ごしていくことになるのだった。
●コンテスト・小説大賞選考結果記録
第1回ノベルアップ+小説大賞一次選考通過
HJ小説大賞2020後期一次選考通過
第10回ネット小説大賞一次選考通過
※一部ボーイズラブ要素のある話があります。
※2020/6/9 あらすじを更新しました。
※表紙画像はあさぎ かな様にいただきました。ありがとうございます。
※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、ノベルピア様にも並行して投稿しています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886818732
https://ncode.syosetu.com/n1574ex/
https://novelup.plus/story/382393336
https://estar.jp/novels/25627726
https://novelpia.jp/novel/179
死神の使徒はあんまり殺さない~転生直後に森に捨てられ少年が、最強の魔狼に育てられ死神の使徒になる話~
えぞぎんぎつね
ファンタジー
前世の記憶をおぼろげながらもって転生した少年は、銀色の髪と赤い目のせいで、生まれた直後に魔狼の森に捨てられた。
だが少年は、最強の魔狼王にして、先代の死神の使徒の従者でもあったフレキに拾われる。
魔狼王フレキによって、フィルと名付けられた少年は、子魔狼たちと兄妹のように一緒にすくすく育った。
フレキによって、人族社会は弱肉強食の恐ろしいと教えられ、徹底的に鍛えられたフィルは、本人も気付かないうちに、人族の枠を越えた強さを身につけてしまう。
そして、フィルは成人年齢である十五歳になると、死神によって使徒に任じられ、魔狼の森から巣立つのだった。
死神は、生命に寿命を迎えさせ、死した魂が迷わぬよう天に還す善なる神なのだが、人々には恐れられ、忌み嫌われている。
そのためフィルは死神の使徒であることを隠し、下級冒険者となり、迷える魂を天に還すため、人が健やかに寿命を迎えられるように暗躍するのだった。
※なろうとカクヨムにも投稿しています。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる