元帥になりたい!!!

ユリーカ

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第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。

約束事

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 グライドはジークヴァルドと共に王宮の廊下を歩いていた。

 ジークはご機嫌でスキップするようなステップだ。それもそうだろう。一月限定ではあるが憧れの師匠に弟子入りできたのだから。
 グライドはげんなりした。あんまり気張らないでくれ。面倒ごとが増える。

 父アレックスから王宮に向かうよう言われ、ジークはその際にいくつか言い含められていた。
 王宮で魔狼にならない、勝手にいなくならない、陛下とグライドの言うことを聞く、暴れずおとなしくする、修行を頑張る。

「ジーク、父ちゃんとの約束覚えてるか?」
「ん?約束って?」

 ジークはきょとんとして振り返った。ああ、だめだ。あんなにいい含められてたじゃないか。どうすんだこれ。アレクに怒られるぞ。

 ここでグライドはあの若き王が怒った姿を見たことないな、と思った。面倒くさそうにしてるのは見たことがあったが。あの方が怒ったらどうなるのだろうか?ゾッとした。
 頼むぞ!俺のためにも大人しくしててくれ!

 先導するテオドールがノックをし執務室へ入る。そこには机で書類の束を読んでいたレオンハルトがいた。

「来たか、ジーク。」
「師匠!今日からよろしくお願いします!!」

 立ち上がり笑顔で迎えるレオンハルトにジークは飛びついた。ついでに狼耳としっぽが飛び出す。早速やらかしてるぞ!!
 レオンハルトはしゃがんでジークと視線を同じにした。じっとジークの目を見る。

「今日から始めるが俺は公務もある。時間を見ての指導になる。それはわかってくれ。」
「はい!わかりました!オレ強くなりたいから頑張ります!!」

 ジークは元気よく答える。頑張るならまずは記憶力から頼むよ。
 レオンハルトは微笑んでジークの頭を撫でる。

「ここでの約束事を言っておく。ふたつだ。覚えられるか?」
「うん!じゃなかった!はい!任せて!大丈夫!!」

 ふたつだけ?グライドは怪訝な顔をする。

「一つ目は王宮で『魔狼』にならないこと。王宮にはたくさんの人間が働いている。『魔狼』が現れれば皆驚いてしまう。お前もうっかり変化へんげすることもあるだろう。だからこれをやろう。」

 レオンハルトはジークの前で右手の掌を開いて見せる。そこには何もない。その手を握りしめ、再びジークの前で手を開いた。手の中にはペンダントが入っていた。ジークが目を輝かせた。

「すごい!何もなかったのに!今のどうやったの?!」
「フフッ タネは明かせない。おもしろいだろう?」

 レオンハルトはペンダントをジークの首にかけた。トップの青い石にはラウエン公爵家の狼の家紋と「ジーク」と彫り込みがあった。ペンダントをかけると狼耳としっぽがしゅんと消えた。

「お前専用の魔道具だ。俺が作った。これをつけていれば『魔狼』になれない。お前専用だからお前以外にはつけられない。ディートだってつけられないぞ。」
「オレ専用?!すごい!すごい!ありがとうございます!ディートと父ちゃんのに似てる!!」
「絶対外すないよ。」
「外しません!大事にします!」

 目を輝かせて喜ぶジークの頭をレオンハルトが撫でる。それを見てグライドが唖然とした。
 なんだこの人心掌握術は。あのジークがころっころに転がされている。魔道具で封じ込めれば事故で『魔狼』になることもない。さすがは陛下だ。

「二つ目だ。俺の言うことは必ず聞け。今後指導するにあたってこれは絶対だ。あまりに守られない場合は家に帰す。これは肝に銘じておけ。」
「わかりました!」
「よし、では約束事を二つ、言ってみろ。」
「『魔狼』にならない!師匠の言うことを聞く!」
「いい子だ。」

 ジークの頭を撫でながらレオンハルトは微笑んだ。
 撫でられるジークは目をぎゅっと嬉しそうに閉じて気持ちよさそうだ。もう主人に懐いて腹を出した犬っころみたいだ。
 
 こいつ、あっさり覚えやがった。刷り込みも上手かったし二つだけというのも良かったのかもしれない。しかも魔道具という保険付き。うわぁ、色々勉強になるわぁ。
 ジークはペンダントをかざしてキラキラした目で眺めていた。

 レオンハルトは立ち上がりグライドを見た。

「グライド、お前にはこれを。」

 テオドールが差し出したトレーにある巻物を手渡された。開けてみろ、と目で促されグライドはそれを開いてぎょっとする。そこにはグライドの名前と聖騎士叙任と書かれてあった。

 聖騎士パラディン。聖教会が任命する騎士。聖属性魔法の取得が必須で騎士クラスで最高位となる。

「は?!聖騎士?!俺が?!」
「お前が俺の側にいる理由と階級がいる。近衛騎士ではお前だけを特別にできない。聖騎士なら教会管轄だから近衛方も手が出せない。俺が推薦しておいた。」
「あのー、俺はラウエン家に仕えているんですが。」
「アレックスのものは俺のものだ。気にするな。あいつもわかっている。」

 なにその理論!怖すぎる!!

 まぁアレクには王宮にいる間は陛下に仕えるよう言われてはいるが。
 どうせ『解析』とかいうスキルで俺に聖属性があることは分かっていたのだろう。あとバース様に仕込まれたもろもろも多分バレている。でもだからといって王直属ではない、他所の家の家臣に『聖騎士』はどうよ?

「今後王宮に身を置く場合に階級があった方が便利だろう。聖騎士は今お前一人だけだ。色々融通が効くぞ。」

 あ、俺のこと使う気満々ですね。いやぁな予感しかしないなぁ。グライドは苦い顔をした。
 レオンハルトが薄く微笑む。この王がこの笑い方をする時は何か企んでいる時だ。そのくらいはわかる付き合いはあった。

「聖騎士になったのに嬉しそうじゃないな。」
「俺は普通の人間なんです。なりたがっている奴にくれてやってください。」
「お前は無自覚なところがある。これくらいでちょうどいい。」

 意味がわからないことを言われた。少なくともなんでもこなすこの王様に言われる筋合いはない。

 なんで国王がこんなに強いんだ?
 というかなんでこの人国王やってるんだ?
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