3 / 44
第一章: ジーク、弟子入り(仮)する。
約束事
しおりを挟むグライドはジークヴァルドと共に王宮の廊下を歩いていた。
ジークはご機嫌でスキップするようなステップだ。それもそうだろう。一月限定ではあるが憧れの師匠に弟子入りできたのだから。
グライドはげんなりした。あんまり気張らないでくれ。面倒ごとが増える。
父アレックスから王宮に向かうよう言われ、ジークはその際にいくつか言い含められていた。
王宮で魔狼にならない、勝手にいなくならない、陛下とグライドの言うことを聞く、暴れずおとなしくする、修行を頑張る。
「ジーク、父ちゃんとの約束覚えてるか?」
「ん?約束って?」
ジークはきょとんとして振り返った。ああ、だめだ。あんなにいい含められてたじゃないか。どうすんだこれ。アレクに怒られるぞ。
ここでグライドはあの若き王が怒った姿を見たことないな、と思った。面倒くさそうにしてるのは見たことがあったが。あの方が怒ったらどうなるのだろうか?ゾッとした。
頼むぞ!俺のためにも大人しくしててくれ!
先導するテオドールがノックをし執務室へ入る。そこには机で書類の束を読んでいたレオンハルトがいた。
「来たか、ジーク。」
「師匠!今日からよろしくお願いします!!」
立ち上がり笑顔で迎えるレオンハルトにジークは飛びついた。ついでに狼耳としっぽが飛び出す。早速やらかしてるぞ!!
レオンハルトはしゃがんでジークと視線を同じにした。じっとジークの目を見る。
「今日から始めるが俺は公務もある。時間を見ての指導になる。それはわかってくれ。」
「はい!わかりました!オレ強くなりたいから頑張ります!!」
ジークは元気よく答える。頑張るならまずは記憶力から頼むよ。
レオンハルトは微笑んでジークの頭を撫でる。
「ここでの約束事を言っておく。ふたつだ。覚えられるか?」
「うん!じゃなかった!はい!任せて!大丈夫!!」
ふたつだけ?グライドは怪訝な顔をする。
「一つ目は王宮で『魔狼』にならないこと。王宮にはたくさんの人間が働いている。『魔狼』が現れれば皆驚いてしまう。お前もうっかり変化することもあるだろう。だからこれをやろう。」
レオンハルトはジークの前で右手の掌を開いて見せる。そこには何もない。その手を握りしめ、再びジークの前で手を開いた。手の中にはペンダントが入っていた。ジークが目を輝かせた。
「すごい!何もなかったのに!今のどうやったの?!」
「フフッ タネは明かせない。おもしろいだろう?」
レオンハルトはペンダントをジークの首にかけた。トップの青い石にはラウエン公爵家の狼の家紋と「ジーク」と彫り込みがあった。ペンダントをかけると狼耳としっぽがしゅんと消えた。
「お前専用の魔道具だ。俺が作った。これをつけていれば『魔狼』になれない。お前専用だからお前以外にはつけられない。ディートだってつけられないぞ。」
「オレ専用?!すごい!すごい!ありがとうございます!ディートと父ちゃんのに似てる!!」
「絶対外すないよ。」
「外しません!大事にします!」
目を輝かせて喜ぶジークの頭をレオンハルトが撫でる。それを見てグライドが唖然とした。
なんだこの人心掌握術は。あのジークがころっころに転がされている。魔道具で封じ込めれば事故で『魔狼』になることもない。さすがは陛下だ。
「二つ目だ。俺の言うことは必ず聞け。今後指導するにあたってこれは絶対だ。あまりに守られない場合は家に帰す。これは肝に銘じておけ。」
「わかりました!」
「よし、では約束事を二つ、言ってみろ。」
「『魔狼』にならない!師匠の言うことを聞く!」
「いい子だ。」
ジークの頭を撫でながらレオンハルトは微笑んだ。
撫でられるジークは目をぎゅっと嬉しそうに閉じて気持ちよさそうだ。もう主人に懐いて腹を出した犬っころみたいだ。
こいつ、あっさり覚えやがった。刷り込みも上手かったし二つだけというのも良かったのかもしれない。しかも魔道具という保険付き。うわぁ、色々勉強になるわぁ。
ジークはペンダントをかざしてキラキラした目で眺めていた。
レオンハルトは立ち上がりグライドを見た。
「グライド、お前にはこれを。」
テオドールが差し出したトレーにある巻物を手渡された。開けてみろ、と目で促されグライドはそれを開いてぎょっとする。そこにはグライドの名前と聖騎士叙任と書かれてあった。
聖騎士。聖教会が任命する騎士。聖属性魔法の取得が必須で騎士クラスで最高位となる。
「は?!聖騎士?!俺が?!」
「お前が俺の側にいる理由と階級がいる。近衛騎士ではお前だけを特別にできない。聖騎士なら教会管轄だから近衛方も手が出せない。俺が推薦しておいた。」
「あのー、俺はラウエン家に仕えているんですが。」
「アレックスのものは俺のものだ。気にするな。あいつもわかっている。」
なにその理論!怖すぎる!!
まぁアレクには王宮にいる間は陛下に仕えるよう言われてはいるが。
どうせ『解析』とかいうスキルで俺に聖属性があることは分かっていたのだろう。あとバース様に仕込まれたもろもろも多分バレている。でもだからといって王直属ではない、他所の家の家臣に『聖騎士』はどうよ?
「今後王宮に身を置く場合に階級があった方が便利だろう。聖騎士は今お前一人だけだ。色々融通が効くぞ。」
あ、俺のこと使う気満々ですね。いやぁな予感しかしないなぁ。グライドは苦い顔をした。
レオンハルトが薄く微笑む。この王がこの笑い方をする時は何か企んでいる時だ。そのくらいはわかる付き合いはあった。
「聖騎士になったのに嬉しそうじゃないな。」
「俺は普通の人間なんです。なりたがっている奴にくれてやってください。」
「お前は無自覚なところがある。これくらいでちょうどいい。」
意味がわからないことを言われた。少なくともなんでもこなすこの王様に言われる筋合いはない。
なんで国王がこんなに強いんだ?
というかなんでこの人国王やってるんだ?
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

少年と魔狼【一話完結】
青緑
ファンタジー
誰もが魔力を持つことを常識としていた時代。魔力を持たない男児が生まれ、悲観した父により、成人すると誰でもできるテイムを条件に森へ送られる。そこで出逢ったのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる