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序章
始まり②
しおりを挟むこれには色々と訳があるんです。そう言いたげに眉間を揉んでいたアレックスがついとレオンハルトを見た。
「そこまで仰るのでしたら陛下があれを鍛えてください。」
あ、こいつ陛下に丸投げしやがった。気持ちはわかるが。
ジークはある意味とても素直なのだ。が、素直すぎてやりにくい。無自覚に無双し悪気がない。それに無性に愛される。あれを説教するのは罪悪感があるのだろうなぁ。
使用人たちの間でも愛されキャラで人気があり、いつも菓子をもらっていた。あの鬼のバース様でさえ陥落した強者だ。
俺でさえたまにすごくやりにくいことがある。父親であれば尚更なのかもしれない。
レオンハルトはふーっと長いため息をついた。
「もうどこから突っ込もうか迷うが、お前は俺をなんだと思ってるんだ?」
「陛下は俺の義理の息子です。」
レオンハルトが嫌な顔をした。
あー、それ言っちゃうんだ。根に持ってたもんなぁ。
七年前、当時一歳だった長女ディートリントとレオンハルトの婚約が結ばれた時、子煩悩アレックスはそれはもう荒れた。
初の娘、それもまだ一歳。最愛の妻によく似た娘をこれから存分に可愛がろうと思っただろうに婚約者付きとなったのだ。しかも国王指名の婚約者。公爵家でも断ることはできない。そもそもはメリッサがレオンハルトを煽った話なのだが。
メリッサに宥められてアレックスは泣く泣く婚約を受け入れた。
あれから七年。
現在はある特殊な理由で十八歳になったディートリントは立派に王妃の公務をこなしている。
ディートリントは輿入れ前にガイアでアニスの指導を受けたが、それはもう涙ぐましい努力だった。
幼い身で短い時間の中で王妃になるための教養を詰め込んだのだから。たまに双子の兄であるジークに毒づいているのだが、レオンハルトにとっては可愛いものなんだろう。
陛下の弱いところをついてまで押し付けたいのか。これはよっぽどだ。
「あれは俺を倒すと言っています。そんな俺があれを育てるのは筋違いでしょう。俺も手の内を明かすようなことはしたくありません。」
「尤もらしい理由を出しやがって。俺も忙しい。そんな遊びに付き合う暇もない。」
「仕事は王宮にいる宰相に押し付けてください。もうじゃんじゃんこき使ってください、俺の代わりに。」
冷めた紅茶に口をつけてレオンハルトはアレックスを厭わしげに見やる。
「お前の家の悶着をここに持ち出すな。父親への仕返しなら直接しろ。すでに業務は分割している。譲れない公務しかない。暇ではない。」
「俺があれに仕返ししても喜ぶだけです。そういう面倒くさい男なんです。—— 義理の父からの頼みでもだめですか?」
アレックスがさらにねじ込む。
レオンハルトはカップを置いて目を閉じ、右手でこめかみを揉んでいた。眉間の皺が深い。普段から即決する姿しか見せない若き王の長考はかなり珍しいことだ。三人の男が固唾を飲んで国王の反応を見守った。
「一月だ。」
長考の末、国王が正面の公爵を目を細めて見やった。
「試しに一月俺の許に置いて芽が出なければ追い返す。それで折れろ。」
「十分です。ありがとうございます。」
アレックスはニヤリとした。やれやれと言った風にレオンハルトは面倒くさげに言い放つ。
「やり方は俺に任せろ。一月後にあれがどうなっていようが文句は言うな。来月あれとお前の手合わせを設ける。場所と試合規則は全てこちらで整える。これについて異存は許さんぞ。」
「御心のままに。」
アレックスが恭しく頭を下げた。
ほんとに押し付けやがった。一国の君主に。グライドは呆れた。こいつの無茶を通すところはまだ健在だったか。眉間に皺を寄せたままの王が続ける。
「今後父親面されるのは敵わない。今回の件で帳消しにする。」
「こちらもそのつもりです。慣れないことはもうしません。」
どうにか血を見ずに済んだ。にこりと笑うアレックスに従者二人は安堵の息をついた。のだが。
「グライドをあれの監視につけます。好きに使ってください。」
「はぁ?!」
陛下の御前で許可なく声を出してしまった。それくらい唖然とした。今の話に俺は一欠片も関係ないだろう!文句を言いたいのだが‥。
グライドは無言でレオンハルトとアレックスを交互に見た。その様子に王は吹き出した。
結婚してからか、王の力の抜けた姿を時折垣間見れるようになった。
「グライド、許す。存分に言え。」
「陛下、ありがとうございます!!なんで俺なんだ?!」
許可が出て腹の底から文句が出た。もうホント、あれに関わりたくないんだってば!!
「我が家は今空前の人手不足だ。お前を駆り出さなくてはならないほどのな。バースは今フィリクスの訓練に当たっている。それを外すわけにはいかない。」
「いやっ 他にもいるでしょ?えーと、例えば、あの侍女とか。」
言葉を濁してロザリーを指名する。あいつにはいろんな意味でロザリーが一番いい。本人も喜ぶだろう。
「ロザリーはエレオノーレの訓練を始めた。残念だったな。もうお前くらいしかあれの監視ができないんだ。バベルの面倒は俺が見るから安心しろ。」
「いや、そう言う問題じゃないから!お前の手に負えないあれが俺でどうにかなると思うのか?!あんな猛獣!!俺は普通の人間だぞ?!」
「どうにかしろ。もう一度言う。あれの監視につけ。王都のうちの邸のどれかを好きにしていい。家族を呼び寄せれば城に通うのも楽だろう?」
アレックスが一喝する。そこまで言われては反論できない。
妻のアニスは妊娠中で仕事を休んでいるから呼び寄せるのは可能だ。身重で一人にしておくのは心配だし五歳の娘シンクレアもいる。アレックスの配慮は正直ありがたかったのだが。だがだからと言って!!
ぐぐぐっとグライドは押し黙る。それを憐れみを込めた眼差しでテオドールが見ていた。
お互い上司の無茶振りには苦労させられますね。
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